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小児侵襲性B群レンサ球菌感染症の罹患率推移:2015~2024

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小児侵襲性B群レンサ球菌感染症の罹患率推移:2015~2024

(IASR Vol. 46 p185-186: 2025年9月号)

はじめに

小児における髄膜炎や敗血症などの侵襲性感染症の主要病原体として, インフルエンザ菌b型(Hib), 肺炎球菌, そしてB群レンサ球菌(GBS)が挙げられる。わが国では2013年4月より, Hibおよび肺炎球菌結合型ワクチンが定期接種に組み込まれ, これらによる侵襲性感染症の罹患率は著明に低下した1,2)。しかしながら, GBSに対する有効なワクチンがいまだ存在せず, 発症時の予後も良好とはいえないため, 侵襲性GBS感染症の予防および治療は依然として重要な課題である。当研究班では, 2007年より小児侵襲性細菌感染症に関する人口ベースアクティブサーベイランスを継続して実施しており, 2014年までの侵襲性GBS感染症の発生状況を報告している3)。本報告では2015年以降の罹患率推移, 予後, そして感染予防ガイドライン遵守状況に焦点を当てた疫学的データを提示する。

調査方法

対象地域は, 北海道, 福島県, 新潟県, 千葉県, 三重県, 岡山県, 高知県, 福岡県, 鹿児島県, 沖縄県の10道県である。2015年1月~2024年12月までの10年間にわたり, 生後0日~15歳未満の小児でGBSによる侵襲性感染症を発症した症例を対象に前方視的調査を実施した。侵襲性感染症は, 血液や髄液などの無菌部位からGBSが検出された症例と定義した。罹患率の算出には, 総務省統計局が発表する各年10月1日時点の県別推計人口および出生数を用いた。

結果

調査期間中に10道県より報告された症例数は合計356例であった。5歳未満の小児においては, 髄膜炎が137例, 敗血症などの非髄膜炎感染症が216例報告された。2015年以降, 5歳未満小児の10万人当たり罹患率は, 髄膜炎で0.6-2.0, 非髄膜炎感染症で1.3-2.9であった。年齢群別では, 351例(98.6%)が1歳未満で発症していたため, 出生数1,000人当たりの罹患率を算出した()。早発型(early-onset disease: EOD, 生後0~6日), 遅発型(late-onset disease: LOD, 生後7~89日), 超遅発型(ultra late-onset disease: ULOD, 生後90日以降)の罹患率はそれぞれ0.02-0.04, 0.06-0.19, 0.00-0.04であった。予後に関しては, 10例(2.8%)が死亡し, 26例(7.3%)に神経学的後遺症が認められた。母体のGBS保菌検査は1歳未満発症例の73.5%にあたる258例で実施され, そのうち29.8%(77例)が陽性であった。陽性母体のうち76.6%(59例)は予防的抗菌薬投与を受けていた。

考察

全国規模の人口ベースアクティブサーベイランスにより, 最近10年間における日本の小児侵襲性GBS感染症の罹患率を明らかにした。2014年までの報告3)では, 5歳未満小児10万人当たり罹患率は髄膜炎で0.9-1.5, 非髄膜炎感染症で1.0-2.4, 生後3か月未満(EOD+LOD)の出生数1,000人当たりの罹患率は0.06-0.18であり, 2015年以降も減少傾向は認められていない。病院ベースの後方視的疫学調査でも, 2016~2020年における罹患率はEODで0.09/1,000出生, LODで0.21/1,000出生と, 2011~2015年のデータに比べ増加傾向が示されている4)

乳児期の主なGBS感染経路は母体からの垂直感染であり, 日本産科婦人科学会および日本産婦人科医会が策定した2008年の感染予防ガイドラインでは, 妊婦に対するuniversal screeningと保菌陽性者への分娩時抗菌薬投与が推奨されている。しかし, ガイドライン推奨の妊娠35週以降の培養検査実施率は78.5%にとどまるとの報告もあり5), 本研究においても検査実施率は73.5%, 抗菌薬投与率も76.6%であった。

小児侵襲性GBS感染症は依然として高い致命率を有し, 救命された場合でも重篤な神経学的後遺症が多く認められるため, さらなる予防対策の強化が不可欠である。母子感染予防ガイドラインの厳格な遵守に加え, 予防的抗菌薬投与下でも感染発症例があることから, 母子免疫ワクチンの早期導入が強く望まれる。現在, 臨床試験段階にある結合型GBSワクチンに含まれる莢膜血清型Ia, Ib, IIIは, 本研究班のデータにおいても90%以上の検出率を示しており, ワクチン導入による高い効果が期待される。Hibおよび結合型肺炎球菌ワクチンと同様に, リアルワールドでのワクチン有効性評価には導入前後での人口ベース罹患率比較が重要であり, 今後も本研究の継続実施に意義があると考える。

参考文献

  1. Suga S, et al., Vaccine 33: 6054-6060, 2015
  2. Suga S, et al., Vaccine 36: 5678-5684, 2018
  3. 菅 秀ら, IASR 36: 158-159, 2015
  4. Matsubara K&Shibata M, Pediatr Infect Dis J 43: e3-e10, 2024
  5. 羽田敦子ら, 感染症学雑誌 94: 654-661, 2020

  国立病院機構三重病院小児科
   菅 秀         
  北海道大学        
   石黒信久        
  福島県立医科大学     
   細矢光亮        
  千葉大学         
   石和田稔彦       
  新潟大学         
   齋藤昭彦        
  岡山大学         
   小田 慈        
  高知大学         
   藤枝幹也        
  福岡歯科大学       
   岡田賢司        
  鹿児島大学        
   西 順一郎       
  沖縄県立南部医療センター・こども医療センター   
   張 慶哲

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