β溶血性レンサ球菌の薬剤感受性について
β溶血性レンサ球菌の薬剤感受性について
(IASR Vol. 46 p186-187: 2025年9月号)
通常Streptococcus属菌は, その溶血性(α溶血, β溶血, γ溶血)の違いに基づいてα, β, γ-Streptococcusに分類される。β溶血性を示す菌種としては, S. pyogenes, S. agalactiae, S. dysgalactiae, S. equi, S. canis, などが挙げられる。ここでは, 感染症法上の5類感染症の1つである劇症型溶血性レンサ球菌感染症において届出数の多い, A群レンサ球菌(GAS, S. pyogenes), B群レンサ球菌(GBS, S. agalactiae), C・G群レンサ球菌(GCS/GGS, S. dysgalactiae)の抗菌薬耐性について現状を説明する。
GAS, GBS, GCS/GGS感染症治療における第一選択薬はペニシリンであり, これに対する耐性には特に注意が必要である。これら3つの菌種はいずれもβ-ラクタマーゼを産生せず, ペニシリン結合タンパク(PBP)の抗菌薬結合モチーフがアミノ酸置換されることによりペニシリン耐性となり得る。しかし, GAS, GBS, GCS/GGSのペニシリン耐性率は極めて低い。CLSI M100(35th Edition)は, 「β溶血性レンサ球菌(GAS, GBS, GCS/GGS)のペニシリン耐性は極めて珍しく, またGASについてはこれまでに報告例がない」と述べたうえで, 「これらの菌種でペニシリン耐性の結果を得た場合には, 同定・感受性試験の再検査を実施したうえでpublic health laboratoryに菌を登録する」よう指示している。GBSのペニシリン耐性(非感受性)株は本邦の他に, 韓国や米国などから報告されており, 2024年には初めてWHO bacterial priority pathogens list1)にペニシリン耐性GBSが掲載された。とはいえ, ペニシリンは現在もGAS, GBS, GCS/GGSに対して極めて有効な抗菌薬と考えられる。
フルオロキノロン系抗菌薬はGAS, GBS, GCS/GGS感染症治療における第一選択薬ではないが, アレルギーなどで第一選択薬が使用できない状況では投与され得る薬剤の1つである。これら3つの菌種はDNAジャイレースであるGyrAやDNAトポイソメラーゼIVサブユニットであるPacCのアミノ酸置換によってフルオロキノロン耐性となる。厚生労働省院内感染対策サーベイランス事業(JANIS)のデータベースを, 統計法の研究利用申請に基づいて抽出・集計し, 患者年齢群別(0~15歳, 16~64歳, 65~74歳, 75歳以上)にみてみると, GAS, GCS/GGSのレボフロキサシン(LVFX)耐性率はそれぞれ3.9-10.5%, 1.6-6.6%に分布するのに対し, GBSでは25.9-55.5%と明らかに耐性率が高い(図)。またGBS, GCS/GGSでは入院患者で耐性率が高い傾向があり, 病院におけるフルオロキノロン系抗菌薬の使用と同薬剤耐性との関連を示唆している可能性がある。
マクロライド系抗菌薬のGAS, GBS, GCS/GGS感染症治療における投与は限られている。ただし, GBS保菌妊婦に対してペニシリン系抗菌薬が使用できない状況(ペニシリンアレルギーなど)では, クリンダマイシン(CLDM)が出産時予防的抗菌薬として投与されることがある。GAS, GBS, GCS/GGSのマクロライド系抗菌薬に対する耐性遺伝子としては23S rRNAのメチル化酵素をコードするermやエフラックスポンプをコードするmefなどが挙げられる。これらはいずれも獲得性の耐性遺伝子であり, 外来性にICE(integrative conjugative element)などを介して取り込まれる。一度耐性を獲得した菌株はマクロライド系抗菌薬の使用により選択され, クローンとして増殖・拡散していく可能性がある。JANISのデータベースを上記同様に抽出・集計すると, GASよりもGBS, GCS/GGSの方がエリスロマイシン(EM), CLDM耐性率が高く, またGBS, GCS/GGSでは若年層ほど両薬剤の耐性率が高い傾向にある(図)。
参考文献
- WHO, WHO bacterial priority pathogens list, 2024: Bacterial pathogens of public health importance to guide research, development and strategies to prevent and control antimicrobial resistance, 17 May 2024
https://www.who.int/publications/i/item/9789240093461
国立健康危機管理研究機構国立感染症研究所
薬剤耐性研究センター
中野哲志 保阪由美子 小出将太 大竹正悟 矢原耕史 菅原 庸 菅井基行