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世界のA群溶血性レンサ球菌感染症について

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世界のA群溶血性レンサ球菌感染症について

(IASR Vol. 46 p187-189: 2025年9月号)

わが国の感染症発生動向調査の届出基準で定義されている劇症型溶血性レンサ球菌感染症(streptococcal toxic shock syndrome: STSS)と異なり, 多くの諸外国では, A群溶血性レンサ球菌(Group A Streptococcus: GAS)のうち, 無菌的部位からの検出のみを症例定義とした侵襲性A群溶血性レンサ球菌(invasive Group A Streptococcus: iGAS)感染症が集計されている。また, 米国ではSTSSを集計しているものの, 日本とは異なりGASによるものだけが対象である, 臨床症状に中枢神経症状が含まれない, など症例定義が異なっている1)。そのため, 本項で紹介するGAS感染症について, 日本と諸外国の集計の単純な比較は困難であることに注意が必要である2)

2022年半ば以降, 欧州の複数の国において, 小児でのiGAS感染症の報告数が急増したと報告されている3-5)。これら欧州諸国でのiGAS感染症は, 2023年4月頃にかけて報告数が減少しているが, それ以降の状況は国により異なっている。フランスでは2022~2023年にかけてiGAS感染症の報告数は大幅に増加したが, 2023年5月以降は2020年以前の報告数と同等であると報告されている6)。一方で, 英国におけるiGAS感染症および猩紅熱の発生動向は, 2023年2月に平年並みになって以降, 2025年第19週までの間に変化はみられなかったとしている7)。また, スウェーデンでは2023年後半に高齢者を中心にiGAS感染症の報告数が増加したが, 2024年7月~2025年6月のiGAS感染症の報告数は前年の同時期と比較して少ない数で経過しており, 2025年4月以降の報告数は, 2018~2019年の同時期よりも少ない8)。隣国のノルウェーでは2022年3月~2023年2月までの期間でiGAS感染症の報告数は増加し, いったん2023年秋頃までに報告数は減少したものの, 2024年2月まで再度増加がみられた9)。これらの欧州諸国においても, 2024~2025年にかけてはiGAS感染症の報告数の増加は報告されていない。

米国では, 欧州同様に小児でのiGAS感染症の報告数が例年より増加し, 米国疾病予防管理センター(CDC)が2022年12月に勧告を出している10)。また, 米国の10州におけるiGAS感染症の報告数が, 2021~2022年にかけて大幅に増加したとの報告も存在する11)。米国におけるGASによるSTSSの報告数は, 2024年第52週時点の速報値で2023年は891例, 2024年は647例であり, 2023年の報告数は2002年以降最多となっている。2025年は第26週時点で238例の報告があり, 2023年, 2024年の同時期の報告数よりも少ないものの, 比較的報告が多い状況が続いている12)

なお, 中国, 韓国, および台湾においてはSTSS, iGAS感染症はいずれもサーベイランス対象疾患に指定されていないことから, これらの国・地域では体系的な監視データが不足している。一方で, 中国および韓国においては, GASによって引き起こされる猩紅熱の報告数が2023~2024年にかけて増加している報告がみられている13,14)

細菌学的な動向として, 侵襲性と関連したMタンパクをコードする遺伝子に変異を生じたタイプの増加が指摘されている。これまでに報告されていたM1型株と比較して発赤毒素の産生量が約9倍多く, 伝播性も高いとされているM1UK系統株のGASが2019年に英国から報告された15)。2022年末~2023年初頭に複数の欧州諸国でM1UK系統株の検出数が増加し, 優勢となっていることが報告されており, 侵襲性感染症の報告数の増加と相関しているという報告もある16-19)。さらに2022年8月にデンマークでのiGAS感染症症例から分離されたGASにおいて, M1UKとは異なる新しい系統としてM1DK系統が報告された20)。オランダでは同じく2022年にM4NL22系統という新系統が報告され, 髄膜炎以外の症例から分離されるGASの大部分を占めるようになった21)。ただし, これら新しい系統についての知見は少なく, より広く国際的な集団における分子遺伝学的な調査が必要と考えられる。

参考文献

  1. CDC, Streptococcal Toxic Shock Syndrome (STSS)(Streptococcus pyogenes)2010 Case Definition
    https://ndc.services.cdc.gov/case-definitions/streptococcal-toxic-shock-syndrome-2010/
  2. Miller KM, et al., Open Forum Infect Dis 9: S31-S40, 2022
  3. Kempen EBV, et al., Pediatr Infect Dis J 42: e122-e124, 2023
  4. Jain N, et al., New Microbes New Infect 51: 101071, 2022
  5. Lassoued Y, et al., Open Forum Infect Dis 10: ofad188, 2023
  6. Flamant A, et al., Pediatr Infect Dis J, 2025
    DOI: 10.1097/INF.0000000000004872
  7. UK Health Security Agency, Group A streptococcal infections: third update on seasonal activity in England, 2024 to 2025, Updated 29 May 2025
    https://www.gov.uk/government/publications/group-a-streptococcal-infections-seasonal-activity-in-england-2024-to-2025/group-a-streptococcal-infections-third-update-on-seasonal-activity-in-england-2024-to-2025
  8. Folkhälsomyndigheten, Aktuell veckorapport om invasiva grupp-A streptokocker(iGAS)
    https://www.folkhalsomyndigheten.se/folkhalsorapportering-statistik/statistik-a-o/sjukdomsstatistik/invasiva-grupp-a-streptokocker-igas-veckorapporter/aktuell-veckorapport-om-invasiva-grupp-a-streptokocker-igas/
  9. Salamanca BV, et al., Euro Surveill 29: 2400242, 2024
  10. CDC, Increase in Pediatric Invasive Group A Streptococcal Infections
    https://archive.cdc.gov/#/details?url=https://www.cdc.gov/han/2022/han00484.html
  11. Gregory CJ, et al., JAMA 333: 1498-1507, 2025
  12. CDC, https://data.cdc.gov/NNDSS/NNDSS-Weekly-Data/x9gk-5huc/about_data
  13. 国家疾病预防控制局, 政府信息公开, 法定主动公开内容 疫情信息
    https://www.ndcpa.gov.cn/jbkzzx/c100016/common/list.html
  14. 질병관리청 공식학술지 주간 건강과 질병(Public Health Weekly Report)
    https://www.phwr.org/main.html
  15. Lynskey NN, et al., Lancet Infect Dis 19: 1209-1218, 2019
  16. Beres SB, et al., Eurosurveill 29: 2400129, 2024
  17. Putten BCLVD, et al., JAMA 329: 1791-1792, 2023
  18. Rodriguez-Ruiz JP, et al., Eurosurveill 28: 2300422, 2023
  19. Vieira A, et al., Nat Commun 15: 3916, 2024
  20. Johannesen TB, et al., Eurosurveill 28: 2300291, 2023
  21. Putten BCLVD, et al., Microb Genom 9: mgen001026, 2023
  国立健康危機管理研究機構国立感染症研究所        
   感染症危機管理研究センター   
    杉山寛行 太田雅之 関 なおみ 齋藤智也

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