感染症発生動向調査におけるHIV感染症の届出元機関の内訳

感染症発生動向調査におけるHIV感染症の届出元機関の内訳
(IASR Vol. 46 p194-195: 2025年10月号)
背景
厚生労働省エイズ動向委員会による令和6(2024)年エイズ発生動向年報1)によると, 自治体が実施する保健所等におけるHIV検査実施件数は, 2020年に大きく減少した。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行下で, 検査機会が減少していたことが推測され, AIDS患者新規報告数は2023年と2024年に2年連続で増加した。新たに診断されたHIV感染者・AIDS患者の診断のきっかけとなった検査機会についての網羅的な統計はないものの, 届出元機関については, 発生届からその動向を知ることができる。HIV感染者とAIDS患者の発生動向を理解するうえでの基礎情報として, 届出元機関について集計した。
方法
感染症発生動向調査に届出された情報に基づき, 2009~2024年に報告された発生届の届出元機関(届出を行った医師の従事する病院・診療所)について集計した。発生届に記載のあった病院・診療所の名称の表記には揺らぎがあるため, 「従事する病院・診療所の名称」, 「上記病院・診療所の所在地」, 「電話番号」のいずれかが同一のものについてクラスタリングし, 名称の揺らぎや改称のあった病院・診療所について統合した後, 「保健所等」, 「HIV診療におけるブロック拠点病院・中核拠点病院」, 「その他の病院」, 「クリニック」の4種類に分類した。保健所等については, 自治体直営の保健所での検査と, 自治体が委託して実施する検査の主要な委託先について「保健所等」として分類した。HIV診療におけるブロック拠点病院・中核拠点病院(以下, ブロック拠点/中核拠点)については, HIV感染症の医療体制の整備に関する研究の拠点病院診療案内のウェブサイト2)(2024年10月5日現在)に基づいた。過去の届出についても, 2024年10月5日現在の拠点病院の分類に従った。
結果
2009~2024年の16年間にHIV感染者とAIDS患者をあわせた新規報告数は20,909件であり, 2,384機関から届出があった。届出数の多い上位10機関からの届出数合計(5,287件)は全体の新規報告数の25.3%を占めた。届出のあった機関における, 16年間の1機関当たりの届出数は中央値2件, 四分位範囲1-5件であった。
HIV感染者とAIDS患者新規報告における届出元機関の内訳の推移を図1に示す。HIV感染者において, 2020年以降, クリニックからの届出が占める割合が増加し, 2024年は16.6%(110/662)であった。一方で, 保健所等からの届出が占める割合は近年減少傾向であり, 2024年は12.5%(83/662)まで減少した。AIDS患者においては, ほとんどがブロック拠点/中核拠点またはその他病院からの届出であった。
次に, HIV感染者新規報告における属性別の届出元機関の内訳(2020~2024年の合計)を図2に示す。単年の集計とした場合, 属性によっては件数が少なくなるため, 5年間の集計とした。
男性では保健所等あるいはクリニックから届出される割合が, 女性と比較し高かった。また, 若年層で保健所等あるいはクリニックから届出される割合が高かった。65歳以上ではその他病院からの届出が68.4%(39/57)を占めた。地域ブロックについては, 東京都と近畿で保健所等あるいはクリニックから届出される割合が高く, 特に東京都では27.6%(361/1,307)がクリニックからの届出であった。なお, 保健所等で検査が行われた場合に, 保健所等で確認検査や診断まで行われ, 届出する場合と, 紹介先の医療機関で届出する運用としている場合があり, 地域や保健所等によってその運用は異なっているため, 届出数はその機関での検査陽性件数をそのまま反映するものではないことに注意が必要である。
まとめ
2020年以降, HIV感染者新規報告数のうち, クリニックからの届出が占める割合が増加し, 2024年は保健所等からの届出が占める割合が減少した。地域によって検査体制や届出の運用等は異なっており, 届出元機関は, 診断のきっかけとなった最初の検査機関を反映するものではないが, 全体として, 若年層および男性において保健所等あるいはクリニックから届出される割合が高かった。病院, クリニックでの検査や無料・匿名の保健所等での検査も含め, 各地域での状況に応じた多様な検査機会を整備し, 早期診断につなげることが重要である。
参考文献
- 厚生労働省エイズ動向委員会, 令和6(2024)年エイズ発生動向年報(1月1日~12月31日)
https://api-net.jfap.or.jp/status/japan/nenpo.html - 厚生労働行政推進調査事業費補助金(エイズ対策政策研究事業)「HIV感染症の医療体制の整備に関する研究」班 拠点病院診療案内
https://hiv-hospital.jp/
エイズ研究センター
感染症疫学センター
感染症サーベイランス研究部
