2024年の日本の新規未治療HIV-1感染者における薬剤耐性変異の動向

2024年の日本の新規未治療HIV-1感染者における薬剤耐性変異の動向
(IASR Vol. 46 p203-205: 2025年10月号)
国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)「国内流行HIV及びその薬剤耐性株の長期的動向把握に関する研究」研究班において, 全国の医療機関の協力のもと, 新規未治療HIV-1感染者(AIDS患者を含む)の薬剤耐性変異の動向調査を伝播性薬剤耐性サーベイランスとして行っている1)。2024年(1~12月)は380例の新規未治療HIV-1感染者のHIV-1プロテアーゼ(PR)・逆転写酵素(RT)領域, インテグラーゼ(IN)領域の塩基配列を解析した。これは, 2024年にエイズ発生動向調査で報告されたHIV感染者とAIDS患者の合計(994件)を分母とすると約38.2%に相当する。
2024年新規解析例のPR-RT, IN領域のHIV-1サブタイプ・CRF(circulating recombinant form)はB 73.9%, CRF01_AE 16.6%, C 4.0%, CRF07_BC 1.1%, GまたはCRF02_AG 1.1%, D 0.3%, 他のCRF・URF 3.2%であった。
新規未治療HIV-1感染者のサーベイランスのための薬剤耐性変異(SDRM)保有率の動向(2003~2024年)を図に示す。SDRMのリストは, 世界保健機関(WHO)のワーキンググループにより作成されたリスト2,3)に従った。核酸系逆転写酵素阻害薬(NRTI), 非核酸系逆転写酵素阻害薬(NNRTI), プロテアーゼ阻害薬(PI), インテグラーゼ阻害薬(INSTI)の4クラスのいずれかのSDRM保有率は2024年は8.5%(32/378)であった。
2024年のSDRM保有率の薬剤クラス別内訳ではNRTI 5.8%(22/379), NNRTI 1.3%(5/379), PI 1.1%(4/378), INSTI 0.5%(2/379)であった。変異の内訳を表1に示す。NRTIのラミブジン(3TC)やエムトリシタビン(FTC)に対する耐性変異であるM184V/Iは3件(0.8%)に検出され, 3件のうち2件にHIV曝露前予防(PrEP)内服薬の利用歴があった。新規未治療HIV-1感染者におけるM184V/I保有率は2019年以前は0.3%であったが, 2020年以降は0.9%へ増加している。その他, 頻度の高かったSDRMのうち, T215C/D/E/S/I/V(T215X), M46I, K103Nは本邦で伝播クラスタを形成している。INSTIに対するアクセサリー耐性変異であるE138Kも本邦で伝播クラスタを形成しているが, 2024年の対象者においては検出されなかった。その他, 表1にリストされていないpolymorphic mutationも含めた耐性関連変異保有率を表2に示す。
HIV感染者が感染に気付かないまま内服によるPrEPを開始した場合, M184V変異が高い頻度で獲得されることが報告されている5)。M184Vの近年の増加については, PrEP開始前にHIV検査を確実に受けることと定期的なHIV検査を受けることの必要性についてあらためて注意喚起が必要である。国内流行株の動向の変化とともに, PrEPの普及や抗HIV薬の使用動向等の影響を受け, 本邦の薬剤耐性動向は変化していく可能性があり, 引き続き注視する必要がある。
本研究はAMEDエイズ対策実用化研究事業「国内流行HIV及びその薬剤耐性株の長期的動向把握に関する研究」(24fk0410050, 25fk0410072)により行われた。研究班の分担・協力機関をはじめ, 多くの医療機関の先生方, HIV陽性者の皆様にご協力をいただいたことを感謝いたします。
参考文献
- 薬剤耐性HIVインフォメーションセンター
https://www.hiv-resistance.jp/research01.htm - Bennett DE, et al., PLoS ONE, e4724, 2009
- Tzou PL, et al., J Antimicrob Chemother 75: 170-182, 2020
- Stanford University, HIVDB ALGORITHM UPDATES, Version 9.8 update 2025-01-05
https://hivdb.stanford.edu/page/algorithm-updates/ - WHO, HIV drug resistance report 2021
https://www.who.int/publications/i/item/9789240038608
国立健康危機管理研究機構
国立感染症研究所
エイズ研究センター
菊地 正 西澤雅子 小島潮子 Lucky Runtuwene
国立国際医療センター
エイズ治療・研究開発センター
林田庸総 潟永博之
臨床研究センター
椎野禎一郎 杉浦 亙
国立病院機構名古屋医療センター
今橋真弓 松田昌和 重見 麗 岩谷靖雅 横幕能行
国立病院機構大阪医療センター
渡邊 大
国立病院機構九州医療センター
南 留美
国立病院機構仙台医療センター
伊藤俊広
国立病院機構東埼玉病院
堀場昌英
北海道大学
豊嶋崇徳
北海道医療大学
吉田 繁
東京大学
古賀道子
帝京大学
吉野友祐
慶應義塾大学
宇野俊介
千葉大学
谷口俊文 猪狩英俊
横浜市立大学
寒川 整 中島秀明
新潟大学
茂呂 寛 高橋雅彦
石川県立中央病院
渡邉珠代
広島大学
藤井輝久
愛媛大学
高田清式 末盛浩一郎
熊本大学
中田浩智 松下修三
琉球大学
山川奈津子 仲村秀太
福岡県保健環境研究所
中村麻子
大阪健康安全基盤研究所
浜 みなみ 阪野文哉 川畑拓也
神奈川県衛生研究所
佐野貴子
東京都健康安全研究センター
小泉美優 長島真美 貞升健志 吉村和久
薬剤耐性HIV調査ネットワーク1)
