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米国における乳牛およびヒトの鳥インフルエンザウイルス(H5N1)感染事例(2024年3月~2025年8月)

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米国における乳牛およびヒトの鳥インフルエンザウイルス(H5N1)感染事例(2024年3月~2025年8月)

(IASR Vol. 46 p228-229: 2025年11月号)

2024年3月25日, 米国の病牛由来の生乳から高病原性鳥インフルエンザ(highly pathogenic avian influenza: HPAI)ウイルス(H5N1)が確認され, 以後, 複数の州で乳牛の感染が報告されている。本稿では, 「2024年米国における乳牛の鳥インフルエンザウイルスA(H5N1)感染事例」1)の更新情報として, ウシおよびヒトにおけるHPAIサーベイランスの状況, 公衆衛生対応について述べる。

乳牛のHPAI発生状況

2024年3月25日~2025年8月21日に, 米国の17州から累積1,078牛群のHPAI感染確定例が報告された2)。2024年10~12月は毎月200-250牛群程度の確定例が報告されたが, 2025年1月以降は報告数が減少し, 2025年6月以降の報告数は毎月3牛群以下であった(図A)。報告州は米国中部から西部に多く, 特にカリフォルニア州(累積771牛群), アイダホ州(累積107牛群)からの報告が多かった(図B)。

2024年中に米国の乳牛から検出された高病原性鳥インフルエンザウイルス(HPAIV)はクレード2.3.4.4b, 遺伝子型B3.13で, 2023年以降に米国の野鳥から検出されたHPAIVの遺伝子型と同一であった3)。2025年1月以降, 北米の野鳥から検出される遺伝子型であるD1.1が, 複数の州の乳牛から検出されている4-6)。野鳥から乳牛へのHPAIVのスピルオーバー(種の壁を越えた感染)が複数回生じ4,6), その後, 家畜・人・農機具を介して他の牛群に伝播することで, 乳牛集団内での循環が生じていたと考えられている1,3,7)

乳牛のHPAIへの対応

米国食品医薬品局(FDA), 米国農務省(USDA), 米国疾病予防管理センター(CDC)が協働し, 家畜のHPAIへの多角的な対応が実施されている7)

2024年12月, HPAIVの発生状況の把握, 伝播リスクの低減, 農業従事者の感染対策を目的とし, USDAによりNational Milk Testing Strategy(NMTS)が開始された8)。NMTSでは, 未殺菌の貯乳タンク内の乳の検査により農場の感染状況を把握し, HPAIV陽性の場合には感染拡大防止策・追加調査(陽性牛の探索, 接触状況調査)・対応の後の陰性確認を実施する。2025年8月22日時点で45州がNMTSに参加し, 5州が現時点でHPAIV陽性と評価されている。なお, 米国に流通する牛乳の99%はFDAの定めるPasteurized Milk Ordinanceに準拠して適切に殺菌され, ウイルスが不活化されているとされる9)

H5N1ワクチンについては, 複数の乳牛向けワクチン候補のフィールド試験を実施している7)。また, 畜産業者のバイオセキュリティ強化のための資金提供や, 乳・乳製品のHPAIV汚染について調査研究が実施されている7,9)

ヒト感染症例の推移, 公衆衛生対応

2024年3月以降, CDCは症例報告, 検査モニタリング, 救急外来モニタリング, 環境水サーベイランス等でヒトのH5N1の発生状況を監視している10)。2024年以来, 米国では70例がH5型鳥インフルエンザに感染し(うち1例死亡), うち41例は乳牛, 26例は家禽への曝露歴を認めた11)。死亡例は, 基礎疾患があり, 家禽または野鳥との接触があった12)。CDCは, 酪農従事者(獣医師を含む)のうち搾乳場や汚染環境で働く者は特に曝露の可能性が高いが, 個人防護具の適切な使用により曝露の可能性を低減可能であると啓発している13)。なお, ヒト感染例は, 2025年2月を最後に確認されていない10)

2025年7月7日, 乳牛とヒトの感染例数の減少を鑑みて, CDCは鳥インフルエンザウイルスH5N1に関する情報更新を, 定例のインフルエンザサーベイランスと統合して効率化し, 報告の頻度も見直した10)

参考文献

  1. 中満智史ら, IASR 45: 194-195, 2024
  2. USDA, HPAI Confirmed Cases in Livestock
    https://www.aphis.usda.gov/livestock-poultry-disease/avian/avian-influenza/hpai-detections/hpai-confirmed-cases-livestock(2025年8月22日閲覧)
  3. Nguyen TQ, et al., bioRxiv, 2024
    https://doi.org/10.1101/2024.05.01.591751
  4. USDA, The Occurrence of Another Highly Pathogenic Avian Influenza (HPAI) Spillover from Wild Birds into Dairy Cattle
    https://www.aphis.usda.gov/sites/default/files/dairy-cattle-hpai-tech-brief.pdf
  5. USDA, APHIS Confirms D1.1 Genotype in Dairy Cattle in Nevada
    https://www.aphis.usda.gov/news/program-update/aphis-confirms-d11-genotype-dairy-cattle-nevada-0
  6. USDA, APHIS Identifies Third HPAI Spillover in Dairy Cattle
    https://www.aphis.usda.gov/news/program-update/aphis-identifies-third-hpai-spillover-dairy-cattle
  7. USDA, Secure Our Herds
    https://www.aphis.usda.gov/livestock-poultry-disease/avian/avian-influenza/hpai-livestock
  8. USDA, National Milk Testing Strategy
    https://www.aphis.usda.gov/livestock-poultry-disease/avian/avian-influenza/hpai-detections/livestock/nmts(2025年8月22日閲覧)
  9. FDA, Investigation of Avian Influenza A (H5N1) Virus in Dairy Cattle
    https://www.fda.gov/food/alerts-advisories-safety-information/investigation-avian-influenza-h5n1-virus-dairy-cattle
  10. CDC, H5N1 Bird Flu Surveillance and Human Monitoring
    https://www.cdc.gov/bird-flu/h5-monitoring/index.html?cove-tab=0
  11. CDC, H5 Bird Flu: Current Situation, Situation through August 30, 2025
    https://www.cdc.gov/bird-flu/situation-summary/index.html
  12. LOUISIANA DEPARTMENT OF HEALTH, LDH reports first U.S. H5N1-related human death, January 06, 2025
    https://www.ldh.la.gov/news/H5N1-death
  13. CDC, Risk to People in the United States from Highly Pathogenic Avian Influenza A(H5N1) Viruses
    https://www.cdc.gov/cfa-qualitative-assessments/php/data-research/h5-risk-assessment.html

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   実地疫学専門家養成コース    
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