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感染症発生動向調査からみる1983年~2024年の我が国の流行性耳下腺炎の状況

感染症発生動向調査からみる1983年~2024年の我が国の流行性耳下腺炎の状況

国立感染症研究所 感染症疫学センター
2025年2月17日現在
(掲載日:2025年3月25日)

疾患概要

流行性耳下腺炎(mumps:ムンプス、おたふくかぜ)は、ムンプスウイルスによる感染症であり、2~3週間の潜伏期(平均18日前後)を経て発症し、片側あるいは両側の唾液腺(耳下腺が最も多い)のびまん性腫脹、疼痛、発熱を主症状とする。不顕性感染が3分の1程度に認められ、発症しても、通常は1~2週間で軽快する予後良好の疾患である。思春期以降は幼児・小児と比して症状が強く出現する傾向があり、無菌性髄膜炎(有症者の1-10%)をはじめ、脳炎(0.002-0.3%)、難聴(0.01-0.5%)、睾丸炎(20-40%)、卵巣炎(5%)、膵炎(4%)などの種々の合併症を起こす場合がある1,2)。感染経路は飛沫感染、接触感染であり、幼児・児童で感染しやすく、特に保育施設等、ムンプスウイルスに免疫を持たない乳幼児の集団生活施設では、しばしば集団発生する。

流行性耳下腺炎はワクチン接種により予防が可能な疾患である。世界保健機関(WHO)によると、2回接種率が高い国では、流行性耳下腺炎の発症率は人口10万人当たり100-1000から1未満へ減少した3)。日本ではおたふくかぜワクチンが1981年から任意接種として導入された。1989年4月に麻しん風しん(MR)混合ワクチンの定期接種の際の選択肢として乾燥弱毒生麻しんおたふくかぜ風しん混合ワクチン(MMR)ワクチンが導入されたが、ワクチン接種後の無菌性髄膜炎等の問題があり、 1993年に国産MMRワクチンの定期接種は中止された4)。以降は日本小児科学会等よりおたふくかぜワクチンが任意接種として推奨されている。

発生動向

流行性耳下腺炎は、感染症発生動向調査において全国約3,000カ所の小児科定点医療機関が週単位での届出を求められる5類感染症定点把握疾患である。感染症発生動向調査事業で集められた情報を以下にまとめる。

1983~2024年までの週当たり定点当たり報告数の推移を示す(図1)。MMRワクチンの導入前では3~4年ごと、接種中止以降は4~5年ごとの周期で全国規模の流行が起きている。直近の流行は2015年第26週あたりから2017年第30週頃までにみられ、2016年第30週に報告された1.31が最大値であった。直近の流行より前の周期的な流行は、2004年第8週~2007年第11週前後、および2009年第10週~2012年第3週前後にみられ、流行の定点当たり報告数の最大値はそれぞれ1.79(2006年第28週)、1.56(2010年第22週)であった。2018年以降から報告数は一貫して減少傾向であり、2023年はわずかに増加したが0.10には満たないレベルで推移している。直近の2024年は、5~7月(第20~30週)にかけて若干増加したが引き続き非常に低いレベルで推移している。
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流行性耳下腺炎の報告数を年齢群別にみると幼児・児童が多く、3歳から7歳で全体の70%程度を占める(図2)。年当たり定点あたり報告数が減少傾向である中、10代の報告数の減少が緩徐であり、相対的に10代の割合が増加している〔10-14歳、2004年:4.8%(2.01/年)、2024年:12.4% (0.25/年)〕。なお小児科定点からの報告に基づくため、成人、また内科を受診する可能性のある15―19歳における動向は過小評価である。
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直近5年間である2020~2024年における年齢群別の報告数をみると、全ての年齢群で2022年まで減少し、2023年は増加となったが、2024年に再び減少した (図3)。
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都道府県における直近5年間の年当たり定点当たり報告数を比較した(図4)。直近の流行が観察された2016年は、北陸地方や九州地方で年当たり定点当たり報告数が100を超える都道府県が観察された。2020年以降でみると、全国的に報告数が2未満である地域が大勢を占めた。

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参考文献

  1. Katz SL, Gershon AA, Hotez PJ:Mumps.Krugman's Infectious Diseases of Children,10th ed. 1998, pp280‐ 289 Mosby‐Year Book,Inc.
  2. Bang HO, Bang J. Involvement of the central nervous system in mumps. Bull Hyg 19:503,1944
  3. World Health Organization. Weekly epidemiological record. Mumps virus vaccines: WHO Position Paper, March 2024.
    https://iris.who.int/bitstream/handle/10665/376287/WER9911-115-133.pdf?sequence=1 [Accessed 17 Jan 2025]
  4. 国立感染症研究所感染症疫学センター.IASR Vol. 37 p. 201-202: 2016年10月号.
    https://www.niid.go.jp/niid/ja/niid/ja/allarticles/surveillance/2349-iasr/related-articles/related-articles-440/6832-440r11.html [Accessed 8 Jan 2025]

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