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IDWR 2025年第24号<注目すべき感染症> 水痘

IDWRchumoku.gif 注目すべき感染症 注意:PDF版よりピックアップして掲載しています。

水痘 2025年第1~24週(2025年6月18日現在)

 2021年以降、国内の水痘の報告数は低水準で推移していたが、2025年第24週時点で、水痘の定点当たり累積報告数および入院例の累積報告数は、いずれも過去5年間の同時期と比較して最多となっている。本稿は、昨今の状況をふまえ、国内における水痘届出症例の最新の疫学的状況を報告することを目的としている。

 水痘は水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)の初感染で発症する発疹性の疾患であり、VZVは感染力が強く、主に空気感染、飛沫感染、接触感染で伝播する。また、体内のVZVの再活性化によって発症した帯状疱疹患者からも感染が伝播しうる。水痘の主症状は発疹、発熱、倦怠感である。発疹は通常、紅斑から丘疹、水疱、膿疱、痂皮化を経て治癒するとされているが、急性期にはそれぞれの段階が混在することが特徴であり、頭皮、体幹、四肢の順に出現する。なお、水痘ワクチン接種後42日以降に水痘に罹患した場合はブレイクスルー水痘と呼ばれ、一般的には軽症で発疹数が少なく、発熱が見られないこともある。水痘は主に小児に多く予後良好な疾患であるが、成人や妊婦、乳児、あるいは免疫不全や合併症がある場合には重症化のリスクが高くなる。また、妊娠早期の感染では胎児死亡や先天性水痘症候群のリスクがあるほか、出産の前後数日間で母親が発症すると児が重症化する場合があり、児の致命率が高くなる。水痘はワクチンで予防可能であり、日本では2014年10月に定期接種の対象疾病に定められた。定期接種対象となるのは生後12~36カ月に至るまでの児で、3カ月以上(通常6~12カ月)の間隔をあけて2回の接種を行うこととされている。

 わが国の感染症法に基づく感染症発生動向調査において、水痘は五類小児科定点把握対象疾患に指定されているほか、水痘で24時間以上入院した症例(他疾患で入院中に水痘を発症し、発症後24時間以上経過した例を含む)は五類全数把握疾患〔水痘(入院例に限る。)〕として届出の対象となる。さらに、学校保健安全法における第二種感染症としても指定されており、罹患した児は原則としてすべての発疹が痂皮化するまで出席停止となる。

 小児科定点把握対象疾患としての水痘の報告数は2020年以降、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行もあり低調であった。しかし、2025年第24週の定点当たり報告数(0.61)は、昨年同時期(0.25)、また直近で第24週の定点当たり報告数が最も高かった2019年(0.39)を大きく上回っている。また、直近5週間(第20~24週)の定点当たり報告数も過去5年間の同時期と比較して最も高い水準であった(表1)。


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 2025年第24週の定点当たり報告数上位5都道府県は、埼玉県(1.73)、神奈川県(1.40)、東京都(1.09)、宮崎県(0.87)、北海道(0.80)であった。

 小児科定点医療機関からの報告数では、2025年第24週で1,435例であり、そのうち、男性が810例(56%)、女性が625例(44%)であった。2025年第1~24週の累積報告数は22,507例となった。年齢分布を過去5年間の第1~24週の累積報告数と比較すると、2025年は0~4歳ならびに15歳以上が占める割合が減少し、5~14歳が占める割合は増加した。2020~2025年の第1~24週における累積報告数(n)と年齢分布は表2のとおりであった。

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 五類全数把握対象疾患としての水痘(入院例に限る。)で2025年第24週に診断された症例は16例であり、2025年第1~24週における累積報告数は294例であった。過去5年間の同時期の累積報告数は120~220例の範囲で推移していたため、本年の報告は例年を上回る水準となっている。2025年に報告された294例のうち、届出に必要な病原体診断を満たす検査診断例が118例(40%)で、臨床診断例が176例(60%)であった。性別では男性158例(54%)、女性136例(46%)であり、年齢中央値は32歳(範囲0~97歳)であった。届出に記載されたワクチン接種歴については、接種歴なしが83例、1回が27例、2回が24例、不明が160例であった。なお、届出には厳密にVZVの再活性化と区別されていない症例も含まれている。

 2021年以降の水痘の年間定点当たり累積報告数は10未満で推移しており、水痘ワクチンの定期接種化以降の2015~2020年と比較しても低水準であった。しかし、今年は第24週時点で定点当たり累積報告数が8.1となっており、COVID-19流行前と同じ、あるいはそれ以上の水準で報告数が増加しているため、今後も発生動向に注意が必要である。発症と重症化の予防として、定期接種の対象となる幼児への水痘ワクチン接種を継続して実施し、接種率を高く維持することが最も重要である。

 なお、2025年第15週より感染症発生動向調査事業実施要綱上の定点の選定基準が変更され、定点数ならびに定点医療機関が変更されていることに留意が必要である。

 水痘の感染症発生動向調査等に関する詳細な情報と最新の状況については、以下を参照いただきたい(引用日付2025年6月18日):


 国立健康危機管理研究機構
  国立感染症研究所 感染症サーベイランス研究部
  国立感染症研究所 予防接種研究部
  国立感染症研究所 応用疫学研究センター

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