IDWR 2025年第26号<注目すべき感染症> 伝染性紅斑
注目すべき感染症 注意:PDF版よりピックアップして掲載しています。
伝染性紅斑
伝染性紅斑(erythema infectiosum)は、ヒトパルボウイルスB19(HPV-B19)を原因病原体とし、小児を中心に発症する流行性の発疹性疾患である。主に飛沫感染もしくは接触感染で伝播し、保育施設や学校等での集団感染、家庭内での二次感染で広がる。特徴的な症状としては、10~20日の潜伏期間を経て出現する両頬の境界鮮明な紅斑、続いて四肢にも両側性に網目状・レース様の発疹がみられる(https://id-info.jihs.go.jp/diseases/ta/5th-disease/010/5th-disease.html:写真1、2参照)。典型例では両頬がリンゴのように赤くなることから「リンゴ病」と呼称されることもある。紅斑が出現する前に発熱・咽頭痛といった非特異的な感冒様症状が出現することがあり、その時期に感染性が強いとされているが、紅斑・発疹出現時には他者への感染性はほぼ消失している。本疾患の約4分の1は不顕性感染であり、有症状者も基本的には予後良好である。しかし妊娠初期から中期の妊婦がHPV-B19に感染すると、HPV-B19が胎児に経胎盤感染し、流産や死産、胎児水腫といった重篤な合併症につながることがある。また鎌状赤血球症などの溶血性貧血患者が同ウイルスに感染すると貧血発作を引き起こすことがある。免疫不全者が感染すると重篤で慢性的な貧血を発症する場合もあり、注意が必要である。治療法は経過観察・解熱鎮痛剤等による対症療法のみであり、特異的な治療薬やワクチンはない。
伝染性紅斑は、感染症発生動向調査では5類感染症小児科定点把握対象疾患として位置づけられている。小児科定点医療機関は、医師が当該感染症を疑い、両頬の紅斑および四肢のレース様の紅斑を認めた患者の性別・年齢群別の症例数を毎週届け出る。なお、報告された症例数を報告した定点医療機関数で割った値が定点当たり報告数で、これにより感染症の流行状況を把握する。
伝染性紅斑は1982年よりその発生動向の調査が開始されている。報告数のピークが高く、比較的大きな流行となったのは、感染症法施行以前では1987年、1992年、1997年、同施行後においては2001年、2007年、2011年、2015年であり、ほぼ4~6年ごとの周期で大きな流行が観察された。流行年では6~7月(第23~27週)ごろにピークがみられたが近年はそのような季節性がはっきりしない。2020年の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行前最後の流行年となったのは2019年である。COVID-19流行から2023年までは大きな流行もなく通年的に定点当たり報告数が0.02未満という低い水準で推移した。2024年も第19週までは低い水準で推移していたが、その後に漸増して第46週には定点当たり報告数0.56(患者報告数1,742)となった。その後も増加が続いて第51週は0.98(3,076)となった。2025年に入っても同程度の水準で報告されていたが、第6週以降は0.6前後に減少し、第11週に0.81(2,516)と再び増加した。第20週には2.05(4,834)となり、1999年に現行のサーベイランス体制が導入されて以来の最高値を記録した。第25週には2.53(5,943)とさらに高い水準で推移している(2025年6月25日現在)。なお、急性呼吸器感染症サーベイランスの開始に伴って2025年第15週に感染症発生動向調査実施要綱の改定により定点選定基準が変更され、小児科定点数が従来の全国約3,000定点から約2,000定点とされたことに注意する必要がある。
年齢群別報告数の割合でみると、COVID-19流行以前は3~5歳あるいは6~9歳の割合が高かった。2020年から2023年のCOVID-19流行期では、全年齢で報告数が減少したが、特に3歳以上でより大きく減少した(表1)。COVID-19流行後である2024年以降はCOVID-19流行前と同じ傾向となった。
2025年第25週における都道府県別の定点当たり報告数は、多い順に山形県(7.62)、群馬県(7.32)、栃木県(7.26)、長野県(6.04)、富山県(5.38)であった。2025年第1~25週までの定点当たり累積報告数は、多い順に栃木県(70.87)、山形県(70.32)、福島県(61.62)、富山県(51.64)、北海道(51.08)であった。一方、少ない順には徳島県(3.59)、岡山県(4.57)、香川県(5.67)、鹿児島県(7.80)、山口県(7.88)であり、特に関東以北での定点当たり報告数が高かった。地方別の経年的な流行状況の推移としては、流行に先駆けて関東地方で定点当たり報告数が増加し、流行年に他地方に拡大する傾向を認めた。2024年秋以降の定点当たり報告数の増加においても、関東地方における増加が先行し、その後、全国的な増加が見られている。2025年第25週時点で関東地方に次いで多いのは北海道・東北地方である(表2)。
【参考文献】
- 国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト「伝染性紅斑」
- IASR 伝染性紅斑(ヒトパルボウイルスB19感染症)
- 感染症発生動向調査週報(IDWR)2019年第14号 注目すべき感染症「伝染性紅斑」
- 感染症発生動向調査週報(IDWR)2015年第26号 注目すべき感染症「伝染性紅斑」
- David L. Heymann (edit). Erythema Infectiosum. Human Parvovirus Infection (Fifth disease). Control of Communicable Diseases Manual 19th edition. 2008
- Erik D. Heegaard and Kevin Brown. 2002. Human Parvovirus B19. Clin. Microbiol.Rev. 15(3): 485-505.
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感染症サーベイランス研究部