KPC-2産生Enterobacter kobeiによるICU内感染伝播事例における菌株解析―神戸市
(IASR Vol. 46 p35-36: 2025年2月号)
はじめに
2022年にICUでは国内初となる, KPC型カルバペネマーゼ産生Enterobacter kobeiのアウトブレイク事例が発生したので, その経過と検査対応について報告する。
探知と経過
神戸市内医療機関のICUにおいて, 肺炎治療中の患者Aがカテーテル関連血流感染を発症し, 血液からKPC産生Enterobacter属菌が検出された。環境調査を実施したところ, 患者Aの病室のシンクやICUの複数の病室等のシンクからも同菌が検出された。また, 院内サーベイランスによって, 患者BでKPC産生Enterobacter属菌の保菌が確認され, 約1カ月後に同患者がKPC産生の大腸菌による尿路感染症由来の敗血症を発症し, カルバペネム耐性腸内細菌目細菌(carbapenem-resistant Enterobacterales: CRE)感染症の届出となった。
菌株解析
病院から提出された2名の患者由来4株と環境由来(シンクの排水口)9株のEnterobacter属菌について, プラスミドの伝播および菌株の同一性を調べるために, MiseqおよびNanoporeシーケンサーを用いてゲノム解析を実施した。得られたリードデータからプラスミドDNA完全長配列を決定し, さらに菌株の同一性を確認するためにmultilocus sequence typing(MLST)解析とEnterobacter kobeiの標準株 DSM13645(Accession No. CP017181.1)をリファレンス株としてsingle nucleotide variants(SNVs)解析を実施した。
結果・考察
2名の患者由来4株および患者の病室を含む5カ所の手洗い用シンクの排水口由来6株はE. kobei ST32と同定され, blaKPC-2を内包する同一のプラスミドを保有していた。また, 別の3カ所の手洗い用シンクの排水口からは, 遺伝子型が異なるE. kobei ST24(2株)とST27(1株)が検出され, これら菌株からも上記と同一のプラスミドの保持が確認された(図1)。今回, 検出されたblaKPC-2保有プラスミドは, 51,528bp(60個のORFを含む)であり, replicon typeはIncX3であった(図2)。Blast検索の結果, このプラスミドの90%以上の領域がKlebsiella pneumoniae由来のプラスミドpKpS90(Accession No. JX 461340.1)と高い相同性を示した。
さらに, E. kobei ST32における菌株同一性について詳細に解析した結果, 2つのグループに分かれ, グループ間のSNV数は約200個であった。グループ1には2名の患者由来株と環境由来株4株が含まれ, それぞれ株間のSNV数が10個以内となったことから, 同一クローンと考えられた(図3)。また, 当初保菌者として確認された患者Bはその後, 同一のblaKPC-2保有プラスミドを保持する大腸菌により尿路感染症由来の敗血症を発症しており, 体内でE. kobeiから大腸菌にプラスミドが水平伝播した可能性が考えられた。
以上のことから, KPC-2産生E. kobeiによるICU内の環境汚染および患者への水平伝播が確認された。blaKPC-2保有プラスミドは細菌種や遺伝子型にかかわらず検出されていることから, このプラスミドがICU環境内で伝播している可能性が高いと考えられた。このように院内感染事例に対し詳細な菌株解析を実施することで, 汚染源となる環境や伝播経路を詳細に検討することが可能となり, 適切な感染対策につながると考えられる。こうした感染対策上の科学的データを提示する行政機関として地方衛生研究所が担う役割は大きく, 今後も医療機関, 保健所, 地方衛生研究所が連携しながら, 地域の薬剤耐性菌対策を進めていく必要がある。