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海外におけるカルバペネマーゼ産生腸内細菌目細菌(CPE)の動向変化

(IASR Vol. 46 p35-36: 2025年2月号)

内細菌目細菌においてカルバペネム耐性を担う主要因であるカルバペネマーゼは, そのタイプごとに地域分布が異なることが知られている。国内ではIMP型が優勢である一方で, 海外ではKPC型, OXA-48-like, あるいはNDM型といったタイプのカルバペネマーゼをコードする遺伝子が優勢である1)。本稿では, 海外におけるカルバペネマーゼ産生腸内細菌目細菌(CPE)の近年の動向変化について述べる。

KPC型は北米を中心に南米やヨーロッパ, 中国で蔓延, OXA-48-likeは南欧や北アフリカ, そしてNDM型は南アジアや中東で多く検出される。これは10年程前までのカルバペネマーゼの分布状況であったが, 近年, 世界的にNDM型やOXA-48-likeカルバペネマーゼの拡大が報告されている2,3)。米国の医療施設を対象とした2019~2021年の調査報告によると, KPC産生CPEは2019年の73.8%から2021年の57.1%に検出頻度が下がっている一方で, NDM型およびOXA-48-likeの検出頻度は年々上昇していた4)。NDM型が優勢に存在するタイにおける一医療施設でのKlebsiella pneumoniaeを対象にした継続調査においては, OXA-48-likeカルバペネマーゼであるOXA-181およびOXA-232産生菌が2014年に出現し, 以後2016年にかけて年々検出頻度が増加していることが見出された5)。この現象は異なる系統と異なるタイプのOXA-48-like遺伝子搭載プラスミドの組み合わせによって生じており, 単系統の伝播による結果ではないと考えられた。また同調査では, OXA-48-likeの拡大にともない, NDM/OXA-48-like共産生株の分離数も増加していた。

ヨーロッパからはNDM産生大腸菌の増加が報告されている。欧州疾病予防管理センター(ECDC)の報告によると, 欧州36カ国を対象とした調査では, 2019年の時点で大腸菌から検出されるカルバペネマーゼとしてはNDM-5が最も多くなり, それらNDM-5産生大腸菌の多くはST167やST405, ST410といった「ハイリスククローン」と呼ばれ世界各地で分離される多剤耐性系統に分類された6)。この調査では, 検体採取前の6カ月間の海外渡航あるいは入院歴が参照可能な被験者のうち84.2%について, 主にアフリカ, アジア等の欧州圏外への渡航歴があり, NDM-5産生大腸菌はそれら渡航先で獲得されたものと考えられた。NDM産生CPEについては市中の環境水からも分離されることがインド・ニューデリーでの調査結果として2011年に報告されていたが7), それ以降, 河川水等の環境や家畜, 食品からの検出が世界各地から報告されている。我々のミャンマー・ヤンゴンでの調査では, 臨床で分離される系統のNDM-5産生大腸菌が, 環境水や路上マーケットで扱われている食品, さらに当地の在留邦人の直腸スワブ検体からも分離された8)。NDM産生大腸菌を保菌していた邦人は全員当地での入院歴はないことから, 市中でそれらを獲得したと考えられた。健康な被験者によるNDM産生大腸菌の保菌については中国等からいくつかの報告がなされている9)。Nordmannらは2011年の総説で, 主にNDM/OXA-48-likeカルバペネマーゼを産生する大腸菌による市中感染とKPC産生K. pneumoniaeによる院内感染の2つのエピデミックの端緒にある10), と述べているが, 以上は前者が顕在化している状況といえよう。

上記のカルバペネマーゼについてはこれまで日本国内における検出は稀であったが, 2019~2020年に実施した国立感染症研究所・薬剤耐性研究センターが全国の医療施設の協力のもとに行ったサーベイランス(JARBS-GNR)では, 大腸菌が保有するカルバペネマーゼのタイプとしてはNDM型がIMP型とほぼ同等に優勢であり11), NDM産生大腸菌はすでに国内で蔓延しつつある。海外では市中でNDM産生大腸菌を保菌し得ることや, 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミック後の訪日外客数の劇的な回復を鑑みた場合, 今後さらなる拡大が予想される。「外来型」あるいは「輸入型」とされていたカルバペネマーゼが国内の臨床に現れることは当然のこととして備えることが必要とされる。

 

参考文献

  1. 鹿山鎭男ら, IASR 40: 25-26, 2019
  2. Estabrook M, et al., Antimicrob Agents Chemother 67: e0140622, 2023
  3. Castanheira M, et al., J Antimicrob Chemother 76: 3125-3134, 2021
  4. Sader HS, et al., Open Forum Infect Dis 10: ofad046, 2023
  5. Sakamoto N, et al., J Med Microbiol 72: 001711, 2023
  6. Linkevicius M, et al., Euro Surveill 28: 2300209, 2023
  7. Walsh TR, et al., Lancet Infect Dis 11: 355-362, 2011
  8. Sugawara Y, et al., J Antimicrob Chemother 76: 1448-1454, 2021
  9. Li Y, et al., Genome Med 16: 57, 2024
  10. Nordmann P, et al., Emerg Infect Dis 17: 1791-1798, 2011
  11. Kayama S, et al., Nat Commun 14: 8046, 2023
国立感染症研究所薬剤耐性研究センター     
 菅原 庸 坂本典子 菅井基行

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