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マールブルグ病(詳細版)

最終更新日
2025年5月12日

マールブルグ病はマールブルグウイルスを原因とするウイルス性出血熱のひとつであり、 別名ミドリザル出血熱(Vervet monkey hemorrhagic fever)とも呼ばれる。1967年、西ドイツ(現ドイツ)のマールブルグとフランクフルトおよびユーゴスラビア(現セルビア)のベオグラードで、ポリオワクチン製造用および実験用としてウガンダから輸入されたアフリカミドリザルの解剖にかかわった研究職員、清掃員および患者に接触した医療従事者や家族など合わせて32名が熱性疾患を発症し、7名が死亡した。この疾患は、最初に症例が確認された地名からマールブルグ病(Marburg disease)と称されるようになった。その後、アフリカのケニア、南ローデシア(現ジンバブエ)、コンゴ民主共和国、アンゴラ、ウガンダ、ギニアなどの国で症例が確認されている。自然界での宿主はオオコウモリと考えられており、洞窟などでオオコウモリの糞などに曝露した場合に感染すると推測される。

疫学

マールブルグ病は1967年に欧州で確認されて以降、実験室での曝露を除くとサハラ以南のアフリカでのみ発生している(図、表)。このうち、1998~2000年のコンゴ民主共和国で100例以上、2004~2005年のアンゴラでは200例以上の症例が確認され、この二つの流行では致命率は80%以上と報告されている。2008年には米国とオランダからウガンダに渡航した各1名が別々に感染、帰国後に頭痛、倦怠感、消化器症状、発疹、発熱などの症状を発症しマールブルグ病と診断され、うち1例が死亡している。

2022年8月にガーナで発生したほか、2023年2月に赤道ギニア、3月にタンザニアで症例が探知され、それぞれの国で初の報告となり、同年6月2日にタンザニア、6月8日に赤道ギニアで流行の終息が宣言された。また、2024年9月から12月にもルワンダから66例の確定例とうち15例の死亡例が報告されたほか、2025年1月にはタンザニアでも2例の確定例と8例の可能性例が報告されるなど、散発的な流行がみられている。

details_mvd001.jpg図. 2024年までに報告されたマールブルグ病の発生国(渡航後、実験室曝露を除く) (CDC, 2024)

表. 主要なマールブルグ病の事例とその症例数、死亡数 (国名は当時の呼称)

発生年

発生国

症例数

死亡数

1967

西ドイツ

30

7

1967

ユーゴスラビア

2

0

1975

南アフリカ

(南ローデシア渡航後とその接触者)

3

1

1980

ケニア

2

1

1987

ケニア

1

1

1990※1)

ソビエト連邦

1

1

1998-2000

コンゴ民主共和国

154

128

2004-2005

アンゴラ

252

227

2007

ウガンダ

4

1

2008(1月)

米国

(ウガンダ渡航後)

1

0

2008(7月)

オランダ

(ウガンダ渡航後)

1

1

2012

ウガンダ

15

4

2014

ウガンダ

1

1

2017

ウガンダ

4

3

2021

ギニア

1

1

2022

ガーナ

3

2

2023

赤道ギニア

40※2)

35※2)

2023

タンザニア

9※2)

6※2)

2024

ルワンダ

66

15

2025

タンザニア

10※2)

10※2)

※1)実験室曝露による
※2)可能性例を含む

病原体

マールブルグウイルスはエボラウイルスと同じフィロウイルス科(Filoviridae)に分類される。上記の2種のウイルスは電子顕微鏡での観察上の形態は酷似しているが、抗原性が異なり免疫学的に交差しない。マールブルグウイルスは、エンベロープを持つ桿菌状の1本鎖マイナス鎖RNAウイルスで、平均長径が790nm 、短径は80~90nmであるが、長径は1,500~2,300nm にも達することもある。粒子は非対称でひも状、ゼンマイ状等多形性を示す。ウイルスはVero 細胞などで細胞変性効果が確認される。実験的にはアカゲザル、ミドリザルなど一部の霊長類では100%感染を起こし、致命的となることが知られている。2007年12月にウガンダでオオコウモリが生息する洞窟を訪れ2008年1月に発症した旅行者の症例が報告され、オオコウモリからウイルスが検出されたことで、自然界におけるマールブルグウイルスの宿主がオオコウモリであることが示唆された。

臨床症状

感染した者のうち発症する者の割合はよく分かっていない。潜伏期間は通常3~10日(2~21日)で、症状はエボラウイルス病(感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(感染症法)における名称はエボラ出血熱) に似ており、発症は突発的である。発熱、頭痛、筋肉痛、背部痛、皮膚粘膜発疹、咽頭痛などが初期症状としてみられる。激しい嘔吐が繰り返され、その後1~2日で水様性下痢がみられる。発症後5~7日で境界明瞭な暗赤色の斑状丘疹性発疹が体幹、上肢外側などに現れることがある。重症化すると、散在性の暗赤色紅斑が顔面、躯幹、四肢にみられ、中枢神経症状、出血症状、ショックを伴うことがある。発症後8~9日程度で死亡することがある。過去のアウトブレイク事例では、発症者における致命率は24%から88%と報告されており、ウイルス株や治療状況により異なる。

病原体診断

マールブルグウイルスは、国民の生命および健康に影響を与えるおそれがある感染症の病原体として感染症法で一種病原体に指定されており、所持や輸入の禁止、許可、届出、基準の遵守等の規制が設けられている(厚生労働省「感染症法に基づく特定病原体等の管理規制について」)。マールブルグ病の病原体診断のためには、血液等からウイルス分離を行う。迅速診断にはPCR 法等でウイルス遺伝子を検出する。ELISA法や免疫蛍光法で抗体を検出する診断法もある。検体は血液、咽頭ぬぐい液、尿である。発症後2カ月程して症状は軽快しても、精液、前眼房水等からウイルスが分離された例がある。

国内における検査法に関しては「マールブルグ病診断マニュアル」に従って実施される。

治療・予防

対症療法以外の承認された特異的な治療法やワクチンはなく、モノクローナル抗体製剤や抗ウイルス薬、ワクチンなどの研究・開発が行われている。

ヒトからヒトへの感染は、患者の血液、体液、分泌物、排泄物などの汚染物との濃厚接触による。また、医療従事者が適切な個人防護具を使用せずに患者の体液や汚染された医療器具に触れることで感染することもある。患者に接する医療従事者は個人防護具として二重手袋、ガウンまたはエプロン、サージカルマスク、目の防護具等の使用が推奨される。世界保健機関(WHO)は血液での検査陰性が確認できた場合、隔離解除が可能としているが、回復から7週間後に精液を介して感染した事例が報告されていることから、男性に対しては発症から12カ月間、もしくは精液で2回の検査陰性を確認するまで、コンドームの使用を推奨している。

患者や検体に接触した医療関係者や家族については、「エボラ出血熱の国内発生を想定した対応について」を参考に、接触状況等に応じて、入院措置、健康観察、外出自粛要請等の対応を行う。

参考文献


更新履歴
2025/4 ルワンダ、タンザニアにおける流行の終息を受け情報更新
2023/6/30 赤道ギニア、タンザニアにおける流行の終息を受け情報更新 

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