複数国で報告されているエムポックスについて(第8報)
(公開日:2025年11月28日)
国立感染症研究所
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概要
- コンゴ民主共和国(Democratic Republic of the Congo; DRC)では以前よりエムポックスウイルス(MPXV) クレード Iによるエムポックスが発生していたが、2023年7月以降、過去最大の感染者数・死亡者数が報告された。クレードIにはIaとIbという2つのサブクレードが確認されており、DRCの周辺国、及び以前からエムポックスの発生が確認されていた国々で、性的接触、家庭内感染により感染が拡大していると報告された。これを受けて世界保健機関(WHO)により、2024年8月14日にアフリカでのエムポックス流行が国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(Public Health Emergency of International Concern; PHEIC)に該当すると宣言された。
- クレードIによるエムポックスが流行している国での対策が進み、報告数が減少したこと、致命率や治療に関する知見が積み重なったことで、クレードIの流行に関しても2025年9月5日にPHEICに該当しないとされた。一方で、報告数は減少したもののアフリカでの流行は続いており、クレードIIbのエムポックスも世界的に散発的な報告が続いていることから、以降は恒常的勧告に基づく対策が推奨されている。国内においても、引き続き感染リスクがあることから、リスク行為を避けることが求められる。
- 以前はMPXV クレード IはMPXV クレード II よりも致命率が高く、重症化するリスクが高いとされてきたが、今回の流行では、クレード間の致命率の差は大きくなく、適切な支持療法が行われれば致命率は低く抑えられることが明らかになった。一方、いずれのクレードへの感染でも、免疫不全がある場合に重症化リスクが高いとの知見が蓄積された。日本国内においても診断、治療法の整備が進んだことから、適切な診断、重症化リスクに応じた医療介入が推奨される。
目次
エムポックスウイルスについて
エムポックスウイルスはポックスウイルス科オルソポックスウイルス属に属するウイルスである。
オルソポックスウイルス属には、エムポックスウイルス、痘そうウイルス(天然痘ウイルス)、ワクシニアウイルス(種痘に用いられるウイルス)、牛痘ウイルス等が含まれる。
オルソポックスウイルス属のウイルスの形態はレンガ状で、その長径は300nmを超える巨大なウイルスである。粒子内には直鎖状二本鎖DNAをウイルスゲノムとして保持している。
感染性ウイルス粒子は、細胞内で形成される細胞内成熟ウイルスと、細胞内成熟ウイルスが感染細胞膜から出芽し、細胞膜由来脂質膜をさらに被った細胞外外皮ウイルスの2つの形態がある。両者の脂質膜上のウイルス糖タンパクは異なる。個体間の感染には細胞内成熟ウイルスが関与し、感染個体内での感染の拡大には主に、細胞外外皮ウイルスが関与すると考えられている。
エムポックスウイルスには大きく分けてクレードI(旧称:コンゴ盆地系統群)とクレードII(旧称:西アフリカ系統群)の2種類のクレード(遺伝的系統群)がある。クレードIに分類される株の中でも、2023年にDRCの南キブ州カミトゥガで確認されたヒト症例から検出された株は、ゲノム解析の結果、これまで動物からヒトへの感染が主体と考えられていたDRC内での流行と異なり、ヒトの間で2023年以降に持続的に伝播していることが明らかとなったことから、クレードIの中で特にクレードIbというサブクレードに位置付けられた(Vakaniaki et al., 2024)。同様に、2022年以降世界的な流行を引き起こしたクレードIIのウイルスは、特にクレードIIbというサブクレードに位置づけられている(WHO, 2024a)。それに伴い、旧来より報告されていた系統群はクレードIa、クレードIIaと新たなサブクレード名に位置づけられた。
クレードI、クレードIIのそれぞれにおいて、サブクレード間での重症化や感染性に関するウイルス学的な違いは明らかではない。
国外における2022年以降のエムポックスの発生状況
1.エムポックスウイルスクレードIによるエムポックスの発生状況
コンゴ民主共和国(DRC)では以前より、2022年以降世界的に流行しているクレード IIbではなく、クレード IのMPXVが流行していることが知られている。もともとクレードIは、DRCからカメルーンにかけての中央アフリカで動物からヒトへの散発的な感染が報告されていた。2023年に南キブ州カミトゥガにおいて初めて症例から検出された株が、ゲノム解析の結果、今までDRC内で流行していたMPXVクレードIとは系統学的に異なるグループに属しており、新たにクレードIbというサブクレードに位置付けたことから(Vakaniaki et al., 2024)、これ以前に報告されていたクレードIをクレードIaと分類するようになった。
クレードIaとIbそれぞれの疫学的様相は異なっていると報告されている。クレードIaの感染者の多くは小児であり、以前から風土病として報告されていた地域において、動物からの伝播によってコミュニティに持ち込まれたのち、続いてヒトーヒト感染を起こすなど、複数の伝播様式により感染していると考えられている。
一方で、クレードIbは2023年以降に発生したと考えられ、DRC東部を発端として、DRCとその東側諸国を中心に流行している。性産業従事者とその利用客での性的接触による感染伝播が主体であると報告されており、性別を問わない流行が起こっている。さらに性的接触により感染した者が起点となり、家庭内での濃厚接触による感染伝播も報告されているが、家庭内で感染した者が起点となり、再度市中で感染が大きく広がるような状況は報告されていない(WHO, 2024b、WHO, 2025a)。
また、妊娠中の女性におけるクレードIのエムポックスにおいて、流産や子宮内胎児死亡が報告されており、胎盤及び胎児組織から検出されていることと合わせて垂直感染による胎児への影響が示唆されている(Vakaniaki E., 2025、CDC, 2025)。
DRCでのMPXVクレードI感染拡大と周辺国への感染拡大を受けて、アフリカ疾病管理予防センター(アフリカ CDC)は、2024年8月13日に「アフリカ大陸安全保障上の公衆衛生上の緊急事態(Public Health Emergency of Continental Security; PHECS)」に該当すると宣言した(Africa CDC, 2024)。また、2024年8月14日に世界保健機関(WHO)事務局長は改正国際保健規則(IHR(2005)に基づく緊急委員会を開催し、委員会の審議結果を受け、同日に今回のエムポックスの流行が「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)」に該当すると宣言した(WHO, 2024c)。
その後DRCを中心とする流行国で報告数が減少傾向になったこと、クレードIに関する知見が集まり、適切な支持療法を行うことで致命率が低下させられること、クレードIIとの致命率の差が過去の報告よりも小さいことが明らかになった。これらを理由に、2025年9月4日の第5回緊急委員会を開催し、審議結果を受け、9月5日に、今回のエムポックスの流行がPHEICに該当しなくなったことが宣言された(WHO, 2025b)。
図1. エムポックスの発生をWHOへ報告した国、クレード別(2025年10月26日時点)(WHO, 2025a)
コンゴ民主共和国(DRC)での発生状況
DRCでは、2023年に過去最多となる14,626例の臨床診断例と654例の死亡例(致命率4.5%)が報告された。2024年以降はWHOが検査確定例を集計しており、2024年には14,924例の検査確定例と43例の死亡例(致命率0.28%)、2025年は10月19日までに20,900例の検査確定例と48例の死亡例(致命率0.23%)が報告されている(WHO, 2025a)。
当初、首都であるキンシャサ特別州や、南東部の南キブ州での発生が主に報告されていたが、最終的にDRCの全26州すべてから報告されている。しかしながら、DRC全域においてクレードIa、Ibが均一に検出されているわけではなく、クレードIaとクレードIbの両方が検出されている地域はキンシャサ特別州、ツォポ州、カサイ州など10州であり、東部のタンガニーカ州を除き、クレードIaのほうが多いと報告されている。DRC東部の南キブ州、北キブ州、上カタンガ州ではクレードIbのみが、その他の州ではクレードIaのみが検出されている (図2)。また、キンシャサ特別州ではクレードIIbも報告されている。ただし、東カサイ州と上ロマミ州では確定例は報告されているが、ゲノム解析が実施されていないためクレードは不明である(WHO, 2025a)。
症例の報告数も地域により大きく異なっている。南キブ州では引き続き症例が報告されているものの、一時期よりは減少しており、そのほかの多くの州でも報告数は減少傾向にある(WHO, 2025a)。
図2. コンゴ民主共和国(DRC)国内における地域ごとのMPXVクレードIa及びクレードIbの検出状況(2023年10月1日~2025年8月7日)(WHO 2025aを一部翻訳)
DRC国内における症例の年齢及び性別は地域ごとに異なると報告されている。クレードIbの流行が起こっている北キブ州および南キブ州においては、小児での報告が多く男女差は小さい一方で、キンシャサ特別州では成人男性の確定例が多く報告されている。風土病として報告されているその他の地域では、小児が多く男性が女性よりわずかに多く報告されている(WHO, 2025a)。
DRC国内での感染伝播に関しては、成人の性的接触による感染伝播が主体であると報告されている。複数の州から性産業に関連した性的接触による感染伝播が報告されており、性産業を含む男女間の性的接触による感染が中心であり、そこから家庭内へ持ち込まれることで、小児の家庭内感染につながっていると考えられている(WHO, 2024b、WHO, 2025c)。
キンシャサ特別州においてはクレードIaとクレードIb双方の持続的なヒト-ヒト感染が起こっており、いずれのクレードにおいても、成人での性的接触が中心であると報告されている(WHO, 2025b)。
南キブ州カミトゥガの病院における入院患者の調査報告では、小児においては家庭内での接触感染が多く、成人については家庭内での接触に加え家庭外での性的接触、職場での接触感染も報告されており、特に検査確定例では3週間以内の性交渉歴がある者の割合が検査陰性例と比較すると有意に高かったとしているほか(Brosius I., 2025)、同じくカミトゥガにおける検査確定例108例の解析では年齢中央値22歳、女性が51.9%、29%が性産業従事者であったと報告されている (Vakaniaki et al., 2024)。また、クワンゴ州においてはMPXVクレードIaが男性間、および男女間の性的接触により伝播した事例が報告されている(Kibungu EM., 2024)
致命率に関しては、2024年1月1日から2025年10月5日の期間のDRC全体で0.2%と報告されている。このうちクレードIbが報告されている地域においては、キンシャサで0.3%、北キブ州で0.0%、南キブ州で0.2%であり、クレードIaが検出されている地域においても致命率は2.5%と、いずれのサブクレードでも、過去の報告よりも低く報告されている。クレードIaの流行している地域の致命率は、クレードIbが流行している地域と比較して高いものの、2025年に限ると1.6%まで低下している。また、特にクレードIaが報告されている地域では4歳以下の小児の致命率が5歳から14歳、15歳以上と比較して高いことが報告されている。ただし、クレードIaの流行する地域は医療アクセスや診断能力が依然として限られており、確定診断がつかないまま死亡した症例も、死亡例として集計されていることに注意が必要である(WHO, 2025c)
特にクレードIbが検出されている地域では、サーベイランス体制の整備により軽症例が探知しやすくなったこと、治療センターの整備により医療へのアクセスと質が改善したことにより、迅速かつ適切な対症療法によって合併症を避け、致命率が低下した可能性が示唆されている。また、このサブクレード間の致命率の差について、クレードIaが流行している地域は医療アクセスが悪く、検査能力や治療体制が限られていること、感染者が小児に多い傾向にあること、小児の栄養状態の懸念といった複数の要因が考えられている(WHO, 2025c)。
DRCでは、欧米の支援の下、2024年10月から接触者、医療従事者といった高リスク集団を対象に、MVA-BNによるワクチン接種が行われてきた(WHO AFRO, 2025)。加えて、2025年1月以降、日本からLC16ワクチンの供与が開始されている。これに先駆け2024年12月には厚生労働省及び国立国際医療研究センターの専門家により、現地でLC16ワクチンに関する知見の提供、接種準備及び接種手技のトレーニングなどの準備を行った(厚生労働省, 2025a)。これによりキンシャサを中心に小児を含めたワクチン接種が可能となり、同時にワクチンの有効性及び安全性に関する知見の蓄積が期待される(CEPI, 2025)。
DRC以外のアフリカ地域の国での発生状況
DRCでの感染拡大に伴い、周辺諸国でもMPXVクレードIの感染事例が報告されている。
2024年7月にはDRC東部に隣接するルワンダ、ウガンダ、ブルンジ、ケニアでそれぞれ初めてのエムポックス症例となった。2025年10月24日時点でアフリカ地域ではDRCを含む16か国でMPXVクレードIbの市中での伝播が確認されている(図1)。特に報告数が多いのがウガンダ(8,248例)とブルンジ(4,497例)であり、アフリカ地域から報告された感染者数のうち、DRCと合わせた3か国からの報告が96%を占めている。西アフリカ諸国やケニアなど一部の国では2025年に入って報告数の増加見られたものの、2025年の報告数自体はDRC、ウガンダ、ブルンジの3か国と比較して少なく、アフリカ地域全体での報告数は2025年5月以降、継続的に減少傾向にある(WHO, 2025a)。
また、これらの国からの死亡例の報告はウガンダから50例(致命率0.6%)、ケニアから10例(致命率1.4%)、ザンビアから3例(致命率1.1%)などと限られており、DRC同様致命率は過去のクレードIに関する報告と比較して低い。さらにこれらの死亡例の多くはHIV感染を合併しており、適切なHIV治療を受けていなかったと報告されている(WHO, 2025a、WHO, 2025c)。
また、DRCの西側及び北側に位置するコンゴ共和国、中央アフリカ共和国、カメルーン、スーダンからはクレードIaが検出されている。このうちカメルーンとコンゴ共和国からはクレードIaとIbの両方が検出されている。その感染経路に関する詳細な報告はされていないが、以前からクレードIaの感染が報告されている地域でもあることから、2022年以前の報告と同様に動物からの散発的な感染とそれに続くヒト-ヒト感染が探知されているものと考えられている。これらの国々においては、DRCで報告されたような性的接触などによる持続的なヒト-ヒト感染は報告されていない (WHO, 2025b)。
アフリカ地域外での発生状況
2024年8月15日に、スウェーデンの公衆衛生庁は、アフリカへの渡航歴のあるエムポックス症例1例を同国内で探知したと公表し、欧州疾病予防管理センター(ECDC)が本症例から検出されたウイルスがMPXVクレードIbと報告した(Sweden, 2024)。これは2023年のDRCを中心とした流行が始まって以降、アフリカ大陸以外から報告された初めてのMPXVクレードI感染症例であった。これ以降、2025年11月2日時点で、アフリカ地域以外の27か国からMPXVクレードI感染症例がWHOへ報告されている。多くの症例はクレードIb感染症例であるが、アイルランド、中国、トルコからクレードIa感染症例が報告されている(図1)。
このうち、中国やタイ、ネパールなどからは中東諸国への渡航歴はあるものの、アフリカへの渡航歴のない感染症例が報告されているほか、2025年10月24日時点で、米国、スペイン、ポルトガル、オランダ、マレーシアから流行国への渡航歴のないクレードIb感染症例が報告されている(WHO, 2025d)。欧米諸国で報告された患者の行動歴から、クレードIIbによるエムポックスと同様、男性間で性交渉を行う者(MSM:Men who have sex with men)間の性的接触による感染伝播が示唆されている(ECDC, 2025)。
2025年10月24日時点でアフリカ地域外の国において、エムポックスの死亡例は報告されていない(WHO, 2025a)。
2.エムポックスウイルスクレードIIによるエムポックスの発生状況
2022年以降、MPXVクレードIIbの世界的流行が発生した。この流行においてはMSM間の性的接触により拡大したと報告されており、特に2022年夏頃にかけて欧州地域およびアメリカ地域から多くの症例が報告されたが、全世界的に対策が進められたことで2023年以降報告数は減少した。
2022年5月7日に、英国は、常在国であるナイジェリア渡航後のエムポックス患者の発生を報告した。以降、欧米を中心に、常在国への渡航歴や患者への接触歴のないエムポックス症例が報告されている。2022年7月23日に世界保健機構(WHO)事務局長は今回のエムポックスの流行が「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)」に該当すると宣言した(WHO,2022a)。
その後、国で患者の早期発見と疫学調査、治療薬やワクチンの導入、啓発活動といった対策が実施されたこと、世界的な報告数の減少がみられたこと、また、重症度や臨床症状の傾向に変化が見られないことから、2023年5月11日にWHO事務局長がPHEICに該当しないことを宣言した。(WHO,2023b)。
クレードIIの感染者は南北アメリカ、欧州から多く報告されていたが、これらの地域からの確定症例数の報告は2022年8月をピークに減少しており、行動変容、高リスクグループの中での免疫形成、ワクチン接種など、複数の要因が影響している可能性を指摘している(CDC, 2022c、Zhang XS, 2023)。
世界的に報告数は減少しているものの、散発的な報告が持続しており、欧米諸国においても一時的な報告数の増加が報告されている (WHO, 2025c、Leonard CM.,2024)。
加えて、西アフリカから中央アフリカの、もともと風土病としてクレードIIのMPXVによるエムポックスが報告されていた地域では、一部の国で2025年に入り報告数が増加している。特にシエラレオネではフリータウンなどの都市部で、若年成人男性を中心とした発生が報告されている。この流行については、クレードIIbのMPXVが検出されており、都市部における性的接触が感染伝播の中心であることが示唆されている。そのほか、ギニア、リベリア、ガーナでも若年成人を中心としたクレードIIbによるエムポックスの流行が報告されている。また、西アフリカ諸国では動物からヒトへの感染、そこからの限定的なヒト-ヒト間での二次感染が原因と考えられるクレードIIaによるエムポックスも報告されているものの、小規模な発生にとどまっている(WHO, 2025c)。
また、2022年のクレードIIbの世界的流行下において、妊娠中の女性の感染で絨毛膜羊膜炎の合併や早期流産が報告されている(Rossi B., 2025、CDC, 2025)。
日本国内におけるエムポックスの発生状況(2025年11月3日時点)
エムポックスは、感染症法上、4類感染症に位置付けられており、患者もしくは無症状病原体保有者を診断した医師、感染死亡者及び感染死亡疑い者の死体を検案した医師は、ただちに最寄りの保健所への届出を行う必要がある。
2022年7月25日に、欧州で、その後エムポックスと診断された者と接触し、帰国後に発症した東京在住の成人男性が、エムポックスと診断された(厚生労働省, 2022a)。
2025年11月11日時点で、感染症発生動向調査では国内で259例が届け出されている。
届出症例は女性が2例(2024年第14週・2025年第37週診断)で、残りはすべて男性であり、19都府県で届け出された。届出自治体別症例数の上位5自治体は、東京都192例、大阪府23例、神奈川県8例、千葉県6例、埼玉県・愛知県5例であった。
これまでに届出時点の死亡例は確認されていないが、2023年9月に診断された症例1例の死亡が確認され、国内初の死亡例として、2023年12月13日に厚生労働省が公表した(厚生労働省, 2023)。
届出症例の症状については、発疹が232例(89.6%)にみられ、発熱が184例(71.0%)、リンパ節腫脹及び局所リンパ節腫脹が92例(35.5%)でみられた。海外渡航歴のない症例が247例(95.4%)であり、特に2022年38週以降は海外渡航歴のない症例が主体である。
図3.診断週別エムポックス届出数 2022年5月2日~2025年11月2日(疫学週2022年第18週~2025年第44週)(n=259)(2025年11月11日集計時点)
感染症発生動向調査より
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項目 |
人数 |
割合 |
|---|---|---|---|
|
性別 |
男性 |
257 |
99.2% |
|
|
女性 |
2 |
0.8% |
|
年代 |
10歳未満 |
0 |
0.0% |
|
|
10代 |
1 |
0.4% |
|
|
20代 |
37 |
14.3% |
|
|
30代 |
100 |
38.6% |
|
|
40代 |
100 |
38.6% |
|
|
50代以上 |
21 |
8.1% |
|
症状 |
あり |
254 |
98.1% |
|
|
発疹 |
242 |
89.6% |
|
|
発熱 |
184 |
71.0% |
|
リンパ節腫脹 |
92 |
35.5% |
|
|
肛門直腸痛 |
57 |
22.0% |
|
|
倦怠感 |
46 |
17.8% |
|
|
なし |
5 |
1.9% |
|
|
感染経路 |
接触感染 |
245 |
94.6% |
|
感染経路 |
あり |
191 |
73.7% |
|
HIV罹患† |
あり |
111 |
59.0% |
|
STIの既往歴† |
あり |
156 |
83.0% |
|
STIの既往歴: |
あり |
78 |
41.5% |
|
転帰‡ |
死亡 |
1 |
- |
2025年11月11日時点で確認されている症例259例のうち、257例が男性であった。245例(94.6%)において推定・確定された感染経路として接触感染があったことが確認されている。また、191 例(73.7%)において発症前21日間に性的接触があったことが把握された。海外における報告と同様に、国内においても男性同士の性的接触による感染伝播が中心となっていることが示唆される。
本人に海外渡航歴がなく、海外渡航歴のある者との接触歴が確認できない事例も報告されたことから、2022年10月6日に、厚生労働省は、国内外の発生動向等により一層注意する必要があるとして、地方自治体へ2022年5月20日に発出した注意喚起と情報提供への協力依頼 (令和4年5月20日付厚生労働省健康局結核感染症課事務連絡「エムポックスに関する情報提供及び協力依頼について」)の改正を行った(厚生労働省, 2025b)。
また、2023年11月以降コンゴ民主共和国において、クレードIの性的接触による感染が報告され、2024年8月以降は、アフリカ大陸以外の複数国でも報告されていることから、国内においてクレードIの侵入を早期に探知し、感染拡大を防止するため、検査と並行して、渡航歴、接触歴の詳細な情報を聴取することの重要性の周知を再度、図っている(令和6年8月16日改正、最終改正令和7年3月31日)(厚生労働省, 2025b)。
国内でゲノム解析が実施され、2025年11月18日までにGISAIDに登録された123検体のうち、クレードIIbが122検体、クレードIbが1検体であった(GISAID, 2025)。
このうち、クレードIbが確認された症例については、2025年9月16日に神戸市および厚生労働省から国内初となるクレードIbによるエムポックス症例として公表された。当該症例はアフリカへの渡航歴があり、アフリカでの感染が想定されており、国内における感染の可能性は低いとしている(神戸市, 2025、厚生労働省, 2025c)。
なお、感染症法に基づき届出られたエムポックスの直近の報告数においては、感染症発生動向調査週報(IDWR)を参照のこと。
国内における対策
患者の早期発見と積極的疫学調査
エムポックスに対する公衆衛生対応として、ヒトからヒトへの感染連鎖を断つために、引き続きサーベイランス体制の強化が推奨されており(WHO, 2023)、厚生労働省は、2022年5月20日以降、地方自治体に対し、注意喚起と情報提供への協力依頼を行い、情勢に応じて改正を行っている(令和4年5月20日付厚生労働省健康局結核感染症課事務連絡「エムポックスに関する情報提供及び協力依頼について」厚生労働省, 2025b)。2022年以降の常在国外の発生ではその疫学的動向がこれまでの知見と異なっていることから、迅速に積極的疫学調査を行うことが求められる。実施要領については、事務連絡に示されている。また、今般の流行の疫学的知見を踏まえ、厚生労働省は、2022年8月10日に感染症法に基づくエムポックスの届出基準の改正を行った(厚生労働省, 2022b (外部サイトにリンクします))。エムポックスに類似する発疹等の症状がある場合は速やかに医療機関に相談することが望ましい。疑い例に関する暫定症例定義が事務連絡に示されており、特に以下の2に該当する者は、皮疹の出現がないか等、体調の変化に注意を払うことが重要である。 暫定症例定義は以下の1、2を満たす者とするが、臨床的にエムポックスを疑うに足るとして主治医が判断をした場合については、この限りではない。
・発熱
・頭痛
・背中の痛み
・重度の脱力感
・リンパ節腫脹
・筋肉痛
・倦怠感
・咽頭痛
・肛門直腸痛
・その他の皮膚粘膜病変
・発症21日以内に複数または不特定の者と性的接触があった
・発症21日以内にエムポックスの患者、無症候性病原体保有者又は1を満たす者との接触(表. レベル中以上)があった
・臨床的にエムポックスを疑うに足るとして主治医が判断した
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エムポックス患者等との接触の状況 |
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|---|---|---|---|---|---|---|
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創傷などを含む粘膜との接触 |
寝食を共にする家族や同居人 |
正常な皮膚のみとの接触 |
1m以内の接触歴3) |
1mを超える接触歴 |
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適切なPPEの着用や感染予防策 |
なし |
高1) |
高2) |
中1) |
中 |
低 |
|
あり |
― |
― |
― |
低 |
低 |
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エムポックスの患者等への注意事項
皮疹が完全に治癒し、落屑するまでの間(概ね21日程度)は周囲のヒトや動物に感染させる可能性があるため、感染者はヒトやペットの哺乳類との接触を避けるべきである。また、小児や妊婦、免疫不全者との密な接触も避けるべきである。また、性的接触についてはすべての皮疹が消失してから原則8週間は避けるべきである。
接触者についても、接触後21日間は症状が出ないか注意し、発症時には速やかにヒトやペットの哺乳類との接触を避け、医療機関を受診することが求められる。また、症状が出ていない場合でも、小児や妊婦、免疫不全者との密な接触や、性的接触をできる限り控えるべきである。
エムポックスの患者又は疑いとされた方は当面の間、献血は控えるよう厚生労働省から示されている。また接触者は、接触後21日間は献血を避けるべきである(厚生労働省, 2022c、日本赤十字社, 2022)。
推奨される感染予防策については、「エムポックス患者とエムポックス疑い例への感染予防策 (外部サイトにリンクします)」(国立感染症研究所、国立国際医療研究センター国際感染症センター, 2022)、「エムポックス感染対策マニュアル (外部サイトにリンクします)」(国立国際医療研究センター, 2023b)を参照のこと。
感染者が飼育しているペットに関して、感染者が発症後にペットと接触していない場合、自宅外で世話をしてもらうように知人など依頼し、回復後に自宅を消毒してから自宅に戻すことが推奨される。また、感染者が発症後にペットと接触した場合は、そのペットは、最終接触から21日間、ヒトや他の哺乳類との接触を避けることが推奨される。感染者が自宅でペットの世話をする場合は皮疹を覆い、サージカルマスクを着用することが推奨される。一方で、ペットがエムポックスに感染した可能性がある場合、ケージなどにいれて隔離し、接触する場合は手袋、サージカルマスク、目の防護具、ガウンの着用が推奨される。
検査、治療体制の構築
現在日本では水疱や膿疱の内容液や瘡蓋、組織を用いたPCR検査によるMPXVの遺伝子の検出が一般的な検査診断として用いられている。クレード Iを特異的に判別するPCR検査では、クレードIbを探知できない可能性があるが(Masirika et al., 2024)、「病原体検出マニュアル エムポックス(第4版)(令和5年6月)」で示しているPCR法については、クレードIbを含むMPXVクレード I、II どちらであっても検出できることを国立感染症研究所において確認している。
今回のアフリカにおけるクレードIの流行を受け、地方衛生研究所及び国立感染症研究所において、クレード判定用のPCR検査の実施体制の整備が行われた。
病原体検査のために必要な検体採取、保存方法については、事務連絡(厚生労働省, 2025b)に示されている。
加えて、2025年8月にはPCR検査試薬が保険収載されている(東洋紡, 2025)。
エムポックスはクレードを問わず、支持療法によって致命率を低下させられることが示唆されていることから、適切かつ適時の診断を行ったのち、適切な支持療法、疼痛コントロールを行うとともに、免疫不全、併存疾患などの重症化リスクに応じた経過観察及び治療が必要となる。このため、国内においては、2022年7月以降全国7医療機関でエムポックスに対する治療体制を構築し、体制を維持するとともに、特定臨床研究を実施している。
また、痘そうワクチンとして開発されたLC16m8ワクチン、MVA-BNワクチンがWHOのガイドラインにおいてエムポックスに対して推奨され、複数の国で使用されている。
高リスクグループに対する曝露前接種(Primary preventive vaccination:PPV)と、エムポックス患者の接触者に対する発症予防としての曝露後接種(Post-exposure Preventive Vaccination:PEPV)が推奨されている。
国内においては、痘そうワクチンであるLC16ワクチンのエムポックスへの適応追加が2022年8月2日に承認された。
また、治療薬として、抗ウイルス薬であるテコビリマトが2024年12月にエムポックスに対する薬事承認されており、エムポックスの患者への治療薬の投与、接触者へのワクチン接種に関する臨床研究を実施している。
患者又は接触者が本臨床研究の要件に合致し、当該者が臨床研究に関する説明を受け合意した場合には臨床研究に参加することが可能である。
また、2023年6月1日から10月6日を被験者登録期間として、高リスク者に対して痘そうワクチンを接種し、安全性・有効性を評価する介入研究(外部サイトにリンクします)が実施された。
国内におけるエムポックスの治療指針については、「エムポックス診療の手引き第3.0版」を参照のこと。なお、本手引きは随時更新されていることから、厚生労働省のHPから最新の手引きを確認していただきたい。
リスクコミュニケーションとコミュニティエンゲージメント活動と差別や偏見への対策
リスクコミュニケーションとコミュニティエンゲージメント活動は、重要な感染症アウトブレイク対策のひとつである。
エムポックスのリスクコミュニケーションとコミュニティエンゲージメント活動として、国立健康危機管理研究機構(国立感染症研究所、国立国際医療センター)、MSMコミュニティのCommunity Based Organization (CBO)、厚生労働省、自治体とが協力し、ガイダンスや疾患啓発文書などを作成、全国の自治体や保健所、医療機関等で活用いただくために公開、配布したほか(参考:エムポックスの啓発資料)、MSMコミュニティや医療従事者などのターゲット別に情報発信などの取り組みを実施している(山本, 2023)。CBOなどの当事者との対話を維持することで、コミュニティのニーズや優先順位、情報のギャップや誤情報を理解することが可能である。
また、エムポックスは誰でも感染するリスクのある感染症である。特定の集団や感染者、感染の疑いのある者等に対する差別や偏見は、人権の侵害につながる。さらに、受診行動を妨げ、感染拡大の抑制を遅らせる原因となる可能性がある。偏った情報や誤解は差別や偏見を生むため、客観的な情報に基づき、先入観を排した判断と行動がなされるべきである(WHO, 2022)。
動物におけるエムポックス
エムポックスは1958年にカニクイザルの疾患として初めて報告された疾患であり、アフリカ大陸中央部から西部においてげっ歯類(ネズミの仲間)が自然界における宿主と考えられている。2003年に、アフリカから輸入されたげっ歯類を介して米国に持ち込まれたエムポックスウイルスが動物取扱業者でプレーリードッグに感染し、さらにヒトが感染した事例が報告されている(CDC, 2024)。症状については、サル等の霊長類では、皮疹・粘膜病変、発熱、リンパ節腫脹、呼吸器症状等が見られ、プレーリードッグなどのげっ歯類では、皮疹・皮膚粘膜病変等の症状が見られる一方で、無症状感染も見られる(CFSPH, 2022)。
英国は今回のエムポックスの流行開始後に実施した、エムポックス確定例が自宅で飼育しているペットに関する調査結果を報告した。それによると、2022年6月から9月の間に40例が飼育している154頭(うちイヌ42頭、ネコ26頭)が観察対象となったが、エムポックスの症状を呈したペットはいなかった(Shepherd W, 2022)。一方で、自宅隔離中のエムポックスの感染者と接触したペットのイヌが感染し、皮膚粘膜病変を発症したとされる事例が報告されているが(Seang S, 2022)、感染していたという証拠は不十分であるという指摘がある(Sykes JE, 2022)。現在まで、イヌからヒトへ感染した事例、ヒトからイヌ以外の他の動物種への感染事例の報告はない。
しかし、多くの動物種がエムポックスウイルスを媒介する可能性があることから、エムポックスの感染者は野生動物やペットとの直接の接触を避け、患者が接触したリネン類に動物が接しないように注意すべきである。
WHOによる評価
WHOは、2024年8月のリスク評価でDRC及びその周辺のMPXVクレードIaとMPXVクレードIbの流行が起こっている地域では感染拡大リスクが高く、その他の地域の感染拡大リスクは中程度としていたが、2025年1月には、クレードIa、Ibに関する知見が集積してきたことから、これ以降サブクレードを分けて評価している(WHO, 2025c)。
クレードIaに関してはDRCで持続的なヒト-ヒト感染がおこっており、特にキンシャサではクレードIbと合わせて主に成人の性的接触を中心に感染が広がっているとしている。一方で、これに関連するクレードIaのDRCからの輸出症例は報告されておらず、キンシャサでのワクチン接種が進んでいること、報告数が減少傾向にあることから、国際的な感染拡大のリスクはクレードIbよりも低いとされている。また、致命率が過去の報告よりも低いことが明らかとなっており、エムポックスの流行の中でクレードIaの占める割合が小さいことを合わせて、世界的な公衆衛生リスクは小さいとしている。
クレードIbに関しては、DRCを中心として持続的なヒト-ヒト感染が起こっているものの、報告数の大半を占めるDRC、ウガンダ、ブルンジの3か国での発生は減少しており、ケニアなど一部の国では増加傾向がみられるものの、報告数は少ないまま推移している。一方で、アフリカ地域外の国でもアフリカからの輸出例の報告や、それに伴う国内感染例が報告されており、探知できていない市中での感染伝播の可能性も示唆されている。
クレードIbの致命率はこれまでのクレードIで報告されていた致命率よりも低くなっており、クレードIIbの致命率との差も小さくなっていると報告されている。またHIV感染症など免疫不全を有する患者では重症化しやすくなるといった、重症化リスクに関する知見が蓄積されている。
これらの情報をもとに、市中感染が拡大する懸念はあるものの、適切なケアにより致命率が下げられること、重症化リスクに関する知見が蓄積されたことから、総合的な公衆衛生リスクは中程度としている。
また、アフリカの流行国においては、性的接触による感染ネットワークに関与している集団でHIVの有病率が高いことから、HIV/AIDS及び性感染症対策を含む総合的な公衆衛生対応が必要であるとしている。
クレードIIに関しては、アフリカ地域とそれ以外で評価を分けている。アフリカ地域においては、成人の性的接触を中心とした西アフリカ諸国でのクレードIIbの流行と、クレードIIaの動物からヒトへの感染、それに続くヒト-ヒト感染による小規模な発生が報告されている。シエラレオネを除き、大きな流行にはならずに推移しているものの、クレードIIbの流行が国境を越えて広がったこと、これらの国々では医療システムが圧迫されやすいことから、西アフリカ地域における公衆衛生リスクは中程度としている。
一方で、アフリカ地域以外の国々におけるクレードIIbに関しては、引き続きMSMを中心に性的接触による感染伝播が続いており、散発的な流行が世界各地で報告されている。しかしながら、リスクコミュニケーションとコミュニティエンゲージメントによるリスク集団の行動変容とリスク集団における集団免疫の確立により2022年7月から8月をピークに報告数は減少していることから、世界的な公衆衛生リスクは低いとしている。
WHOは対策として、ヒトからヒトへの感染伝播の排除を目指し、継続した対策の実施を求めており、この疫学調査、診断、医療者や高リスクグループへの周知などの対策を2023年8月21日に恒常的勧告として発出した。PHEICには該当しないことが宣言されて以降も、この勧告は継続する必要があるとして、その効力が延長されている (WHO, 2024d、WHO, 2025b)。
リスク評価と対応
感染リスク
クレードIはアフリカの一部の国では小規模な感染が続いているが、報告数が減少しており、アフリカ地域外の国での市中感染はほとんど報告されていないものの、欧米諸国においてMSMの集団での感染を示唆する報告がある。クレードIIbは、アフリカ外の国で引き続きMSMの集団において散発的な報告がみられているが、全世界的に報告数が減少している。
いずれのクレードも、一部家庭内での濃厚接触による感染も報告されているが、主な感染経路は性的接触であり、一般的な生活環境で感染するリスクは極めて低く、接触感染対策により予防することが可能である。
特にエムポックスが流行している国においては、体調不良や皮疹のある者との性的接触や皮膚の濃厚接触を避けることが推奨される。避けられない場合は直接の皮膚、粘膜の接触を避け、接触後は手洗い、手指消毒を徹底することが重要である。
重症化リスク
WHOや複数の研究報告によれば、MPXVクレードIa、Ibのいずれにおいても、致命率は以前の報告よりも低いと報告されており、適切な支持療法を行うことで、致命率はさらに低下するとされる。また、アフリカ地域外でのクレードIによる死亡例の報告はなく、日本国内の医療体制下におけるエムポックスによる死亡リスクは低いと考えられる。
適切な支持療法に繋げるために、早期受診を促し、早期診断が重要であるとともに、免疫不全がある場合は重症化リスク、死亡リスクが高いことから、HIVを含めた免疫不全のあるものは感染リスクに十分注意する必要がある。
2024年8月に宣言された2回目のPHEICは、2025年9月に終了となったが、引き続き恒常的勧告に従った対策が推奨されている。
クレードIに関する知見が蓄積し、クレードによる致命率や感染・伝播性などの主要な疫学的特性に大きな差はないと考えられることから、クレード別に異なる対応を行う必要はないものの、疾患に関する啓発や相談体制を確保するとともに、免疫不全がある場合には重症化するリスクが高いことに留意して、適切な診断、治療体制を提供することが重要である。
関連項目
- 国立健康危機管理研究機構 国立感染症研究所 エムポックス
- 国立健康危機管理研究機構 国立感染症研究所 病原体検出マニュアル エムポックスウイルス 第4版
- 国立健康危機管理研究機構 国立国際医療センター 国際感染症センター 感染症対策支援サービス エムポックス(外部サイトにリンクします)
- 厚生労働省 エムポックスについて(外部サイトにリンクします)
- 厚生労働省 エムポックス診療の手引き 第3.0版(外部サイトにリンクします)
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更新履歴
2025/11/28 複数国で報告されているエムポックスについて(第8報) クレードI、II共に最新の流行状況を反映、リスク評価を更新
2025/9/8 エムポックスの発生状況とその暫定評価
2025/3/28 アフリカ大陸におけるクレードIによるエムポックスの流行について(第3報)
2024/8/23 アフリカ大陸におけるクレードIによるエムポックスの流行について(第2報)
2024/03/21 複数国で報告されているエムポックスについて(第7報)
2023/12/12 コンゴ民主共和国におけるクレードI によるエムポックスの流行について
2023/11/08 複数国で報告されているエムポックスについて(第6報)
2023/05/26 政令改正に伴い、「サル痘」から「エムポックス」に名称変更
2023/05/10 複数国で報告されているエムポックスについて(第5報)
2022/11/09 複数国で報告されているエムポックスについて(第4報)
2022/09/13 複数国で報告されているエムポックスについて(第3報)
2022/07/12 複数国で報告されているエムポックスについて(第2報) 注)第1報からタイトル変更
2022/05/24 アフリカ大陸以外の複数国で報告されているエムポックスについて(第1報)
作成
ウイルス第一部
応用疫学研究センター
感染症サーベイランス研究部
感染症疫学センター
感染症危機管理研究センター
