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ウエストナイル熱/ウエストナイル脳炎

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(IDWR 2002年第27号掲載)

ウエストナイルウイルスは1937年に初めて、ウガンダのWest Nile地方で発熱した女性から分離された。本ウイルスは鳥と蚊の間で感染環が維持され、主に蚊を介してヒトに感染し、発熱や脳炎を引き起こす。我が国において感染例は認められていないが、近年まで報告のなかったヨーロッパやアメリカなど西半球に1990年代中頃から流行が発生している。北米の流行では従来と異なり、感染鳥の発病や死亡率、ウマとヒトにおける流行、重篤な脳炎患者の発生が顕著である。新興感染症・輸入感染症として注意が必要な疾患である。

疫学

ウエストナイルウイルスはアフリカ、ヨーロッパ、中東、中央アジア、西アジアなど広い地域に分布している(図1)。最近のウエストナイル脳炎の流行は、アルジェリア(1994)、ルーマニア(1996~1997)、チェコスロバキア(1997)、コンゴ共和国(1998)、ロシア(1999)、アメリカ(1999~2001)、イスラエル(2000)などで発生している。2001年末までに、北米では149例のウエストナイル脳炎患者が発症し、死亡者は18人認められている。CDCによれば、北米のウエストナイルウイルスは東海岸から中部諸州に拡大し、カリブ海諸国にも拡がっている。ウマでの流行はモロッコ(1996)、イタリア(1998)、アメリカ(1999~2001)、フランス(2000)などで発生している。媒介蚊は主にイエカの仲間であるが、我が国では、日本脳炎のベクターであるコガタアカイエカやヤマトヤブカなどもなり得ると考えられる。本ウイルスが本邦に侵入すると、蚊や鳥を介して広範囲に拡がる可能性がある。

  • ウエストナイルウイルスと日本脳炎ウイルスの世界分布を示す地図。三色で地域を区分:緑色(ウエストナイルウイルス)は主にヨーロッパ、アフリカ、中央アジアを、青色(ウエストナイルウイルスおよび日本脳炎ウイルス)は南アジアの一部を、オレンジ色(日本脳炎ウイルス)は東アジアと東南アジアを示している。その他の地域(南北アメリカ、オーストラリアなど)は白色で示されている。地図の下部に凡例があり、各色の意味が説明されている。

    図1. ウエストナイルウイルスと日本脳炎ウイルスの分布地域

  • 電子顕微鏡で撮影されたウエストナイルウイルスを示す白黒画像

    図2. ウエストナイルウイルスの電子顕微鏡写真
    (Vero細胞に感染した本ウイルス:多数の粒子が細胞間に並んでいる)
    (原図:国立感染症研究所)

病原体

ウエストナイル熱/ウエストナイル脳炎は節足動物を介してヒトに伝播するアルボウイルス感染症の一つで、日本脳炎ウイルスと同じフラビウイルス属のウエストナイルウイルスによってひきおこされる。本ウイルスの感染環は鳥と蚊によって維持されている。アジアではコガタアカイエカが主要な媒介蚊である。ヒト、動物は終宿主であり、低レベルのウイルス血症が認められる。フラビウイルス属の中でも、特に日本脳炎ウイルス、セントルイス脳炎ウイルス、マレー渓谷脳炎ウイルス、Kunjinウイルスと相同性が高く、抗原的に交叉反応を示す日本脳炎血清型群(Japanese encephalitis serocomplex)に分類される。本ウイルスの電子顕微鏡像を図2に示す。
ウエストナイルウイルスは成熟期のメス蚊の吸血時に増幅動物である鳥類に伝播され、腸で増殖後、唾液腺へ運ばれる。鳥類は曝露に続いて1~4日の間にウイルス血症を起こす。流行には渡り鳥の存在や感染蚊の移動の関与が示唆されているが、成熟蚊の越冬や経卵性伝播の報告もある。その他、ダニの自然感染例や、節足動物の媒介なしでハムスターおよびマウスの実験感染例も報告されている。

臨床症状

ヒトにおける潜伏期間は3~15日である。感染例の約80%は不顕性感染に終わる。発症した場合多くは急性熱性疾患であり、短期間(約1週間)に回復する。一般的に、3~6日間程度の発熱、頭痛、背部痛、筋肉痛、筋力低下、食欲不振などがみられる。皮膚発疹が約半数で認められ、リンパ節腫脹を合併する。時にデング熱と似た熱型を取る。さらに重篤な症状として、頭痛、高熱および方向感覚の欠如、麻痺、昏睡、震え、痙攣などの髄膜炎・脳炎症状が挙げられるが、重篤な症状を示すのは感染者の約1%といわれている。これらは主に高齢者にみられ、致命率は重症患者の3~15%とされる。アメリカ合衆国の患者のデータでは、筋力低下を伴う脳炎が40%、脳炎が27%、無菌性髄膜炎が24%にみられている。

病原診断

検体として血清や脳脊髄液を用い、ウイルスRNAの検出、培養細胞や乳飲みマウスを用いたウイルス分離が行われる。RT‐PCR法によりウイルスRNAを検出する方法は検出感度が高く、特異性にも優れている。ウイルス分離は発病早期の血液または脳脊髄液から可能である。
ウイルス分離できなかった場合は血清診断に頼らざるを得ない。しかし、血清診断は、日本脳炎血清型群に属するウイルス間での交叉反応があるため、注意を要する。実際的にはELISA法、中和試験、補体結合試験、赤血球凝集抑制反応試験などが用いられている。IgG捕捉ELISA、補体結合試験、赤血球凝集抑制反応は他のフラビウイルスに対して交叉反応を示す。IgM捕捉ELISA法でも、日本脳炎と極めて近い抗原性を示すため、多少の交叉反応を示す。感染しているフラビウイルスを鑑別するためには、中和試験が最も特異的である。急性期と回復期の血清または髄液での中和抗体価が4倍以上上昇すれば、陽性と判断できる。ペア血清の採取には2週間以上の期間を空けることが望ましい。
これらの検査は、国立感染症研究所ウイルス第一部、長崎大学熱帯医学研究所分子構造解析分野で可能である。

治療・予防

一般に、臨床症状を呈したヒト、ウマなど動物における本症に対する治療法はない。実験感染動物(マウス)においてゲンタマイシン、メラトニン、ステロイドなどによって回復例が報告されている。一般的には対症療法を行う。ワクチンは未だ開発段階であるが、動物実験モデルで日本脳炎ワクチンにより感染を防御する可能性を示唆する報告がある。日本のように未だ発生のない地域においては、初期の段階でウイルス検査を迅速に実施することが、感染の広がりを最小限に抑えることにつながる。鳥類の感染の把握、特にカラスの死亡などはウイルスの活動動向を知る上で最高の指標となる。あるいは、蚊のコントロールおよび動向の把握と公衆衛生教育、確定診断を行うための検査法の確立と普及も重要となる。発生地域においては、個人的に蚊との接触を防ぐことが重要である。また、海外渡航者で発熱・精神症状が認められウイルス性脳炎が疑われる患者、あるいは髄液細胞増多、発熱を伴ったギランバレー症候群、非細菌性髄膜炎、あるいは急性弛緩性の麻痺を呈した患者に対しては、本症の可能性を考慮する必要がある。

感染症法における取り扱い(2012年7月更新)

全数報告対象(4類感染症)であり、診断した医師は直ちに最寄りの保健所に届け出なければならない。
届出基準はこちら(外部サイトにリンクします)

(国立感染症研究所ウイルス第一部 伊藤美佳子)

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