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ハンセン病

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(2016年4月7日 改訂)

ハンセン病は皮膚と末梢神経を主な病変とする抗酸菌感染症で、現在は途上国を中心に患者がいるものの、日本では毎年数名の新規患者の発生で、過去の病気になってきている。しかし、感染症法の前文には「我が国においては、過去にハンセン病、後天性免疫不全症候群等の感染症の患者等に対するいわれのない差別や偏見が存在したという事実を重く受け止め、これを教訓として今後に生かすことが必要である。」と記載されている。
ハンセン病は社会との関係を抜きにしてはこの疾患の本質を理解することはできない。
なお、従来本疾患は「らい」、「癩」などと呼称されてきたが、これらの呼称は現在は偏見・差別を助長するものとして使用せず、「ハンセン病」が正式病名である。

疫学

らい予防法の廃止(1996年)に伴い届け出制度はなくなったが、ハンセン病研究センターなどが新規患者の調査を行っている。

日本の新規患者は毎年、日本人は数名、在日外国人は約4名である。日本人では沖縄県出身者が半数を占めているものの、新規患者の減少が著しく、かつ高齢化している。一方、在日外国人患者についてはブラジルなどの患者の多い国からの出身者が目立つ。

947年から2014年までの日本のハンセン病新規患者数の推移を示す折れ線グラフ。沖縄県(青線)と日本全国(赤線)の2系列で表示。

なお、日本は衛生環境や栄養、経済などの向上により、日本国内で新たに感染・発病する心配はない。一方、世界では年間約22万人の新規患者がいる。インド、ブラジル、インドネシア、ナイジェリア、エチオピアなどに多くの患者がいる。

病原体

ハンセン病の原因であるらい菌(Mycobacterium leprae)は結核菌と同様に抗酸菌の仲間で、1873年(明治6年)にノルウェーの医師ハンセンによって発見された図1。らい菌は31℃前後が増殖の至適温度のため皮膚を好んで侵す。また末梢神経(シュワン細胞)に親和性があり、主に表在の末梢神経に障害を起こす。しかし、心臓や肺、肝臓などの内臓が侵されることは極めて稀であり、ハンセン病が原因で死に至ることはほとんどない。

らい菌を示すZiehl-Neelsen染色の顕微鏡写真(1,000倍)。細長い赤色の菌体(らい菌)が青紫色の背景に散在している。

らい菌のゲノムサイズは3.3Mbである。蛋白質をコードする遺伝子は1,604である一方、1,116の偽遺伝子が存在し、このことが、らい菌が試験管内において培養不能であることの原因ではないかと推測されている

菌に毒力はなく、発病に繋がる感染源は、菌を多くもっている未治療患者からのヒト対ヒトの飛沫感染といわれている。感染成立に重要なのは乳幼児期で、その時期の濃厚で頻回な感染を受けた者以外ではほとんど発病につながらない。感染から発病までには、その人の免疫能、栄養状態、衛生状態、経済状態、菌量、環境要因など種々の要因が関与するため、長期間(数年~数10年)を要し、万一感染しても、発病せずに一生を終えることがほとんどであり、遺伝病ではない。

臨床症状

痒みや痛みなどの自覚症状のない治りにくい皮疹で、白斑、紅斑、環状紅斑図2、結節など多彩である。皮疹にほぼ一致して知覚の鈍麻や麻痺を認める。これは末梢神経がらい菌によって障害されたためである。さらに、毛根や汗腺も障害されて、脱毛や発汗低下も起こる。

ハンセン病(MB, BL型)の臨床写真。胸部から腹部にかけて、中央治癒傾向を示す多数の環状紅斑が認められる。

ハンセン病は他の疾患と異なり、らい菌に対する宿主(ヒト)の反応によって多様な病変(皮疹、神経症状など)を示す。多様性はハンセン病の大きな特徴で、その両極では、全く異なる疾患と見紛う程である。

体内のらい菌の数、皮疹の数や性状、神経障害の程度(知覚障害、神経肥厚、運動麻痺など)、病理組織所見などからハンセン病は4つの病型に分類される。この分類は基本的には患者のらい菌特異的な免疫応答の幅である。すなわち、発症初期のI群、その後らい菌に対し免疫能が高いTT型、全く反応しないLL型、それらの中間のB群(BT型、BB型、BL型)に分類される(Ridley-Jopling分類)。またTT型、I群、BT型の一部は検査でらい菌を検出しにくいので少菌型(paucibacillary:PB)、LL型、BL型、BB型、一部のBT型は検査でらい菌を検出できるので多菌型(multibacillary:MB)とも分類される(WHO分類)。このPBとMBの分類は治療法の選択にも使用される。

治療中、あるいは治療前後、らい菌の菌体成分に対する免疫反応が生じ、急速な末梢神経の障害(疼痛、運動障害など)や皮疹の再燃、新生、発熱等が起こることがある(らい反応)。らい反応の症状で初診することもある。らい反応では重い神経症状をおこし、後遺症を残すことがあるので早期の対処が必要である。

日本では知覚症状を伴う皮疹、神経障害(知覚、運動、肥厚)、らい菌(スメア検査、PCR検査、病理組織検査)、病理組織の4項目を総合して診断する。

病原診断

  1. らい菌検出の検査:らい菌は現在まで培養に成功していないため、皮膚スメア検査と、病理組織検査、PCR検査の3つの検査で検出に努める。可能ならば3検査を全て行う。
  2. 知覚検査:触覚、痛覚、温冷覚を検査する。閉眼させ、正常部と比較させる。さらに皮疹のない部分も検査する必要がある。神経内科では神経伝導速度の検査も行う。
  3. 他の神経学的検査:神経の肥厚(大耳介神経、尺骨神経、橈骨神経、総腓骨神経等)、運動障害(手足の屈曲、物を掴む・挟む運動など)、などを検査する。
  4. 病理組織検査:皮疹部の皮膚、肥厚した神経などをメス等で採取する。通常のHE染色の他、抗酸菌染色(らい菌を観察)、S100染色(神経を観察)などを行う。
  5. 血清抗PGL-I抗体検査:抗PGL-I抗体は感染指標の補助的検査として用いられる。

治療

治療の基本は、不可逆的な後遺症となる神経症状(神経炎、らい反応、後遺症などでおこる)を起こさず、らい菌を生体から排除することである。

治療は世界保健機関(WHO)の推奨する複数の抗菌薬リファンピシン(RFP)、サルファ剤(DDS)、クロファジミン(CLF)をPBでは半年、MBでは数年間内服する(多剤併用療法,MDT)図3ことで治癒する。

WHOが各国に無償提供しているMDT(多剤併用療法)用のブリスターパックの写真。赤色のパッケージに、RFP(リファンピシン)、DDS(ジアミノジフェニルスルホン)、CLF(クロファジミン)の3種類の薬剤が組み合わされている。

ハンセン病による神経炎の治療は抗菌薬療法を継続しながら、炎症を抑制するために、ステロイド内服薬を適宜投与する。さらに日常生活での患者教育も重要である。特に、温痛覚麻痺のある部位に対する外傷や火傷の予防とこれらの傷害の早期発見に努める。手足の隅々まで外傷がないかどうかを、毎日点検する習慣をつける指導を行う。

(国立感染症研究所ハンセン病研究センター 石井則久)

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