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ポリオ(詳細版)

更新日時
2025年5月12日

世界保健機関(World Health Organization:WHO)が推進する世界ポリオ根絶計画により、1988年以降、ポリオの発症件数は99.9%減少した。2024年12月現在、6つのWHOの地域事務局のうち東地中海地域(Eastern Mediterranean Region:EMR)を除く地域でポリオ根絶(ワクチン由来ポリオウイルスを除く、野生株ポリオウイルスの根絶)がWHOにより認定されている。 EMRに属するアフガニスタンとパキスタンでは野生株ポリオウイルス(wild poliovirus:WPV)の流行が続いていること、​また根絶を認定された国からも、近年、伝播型ワクチン由来ポリオウイルス(circulating vaccine-derived polioviruses:cVDPV)の環境水からの検出や、感染患者が報告されていることから、発生状況の把握と対策は国際的にも重要な課題である。

疫学

ポリオウイルスの自然宿主はヒトのみである。ポリオ流行の記載は18世紀頃からみられ、1950年代まではしばしば世界各地で流行した。しかしその後、不活化ワクチン(inactivated poliovirus vaccine:IPV)に次いで生ポリオワクチン(oral poliovirus vaccine:OPV)が開発され、定期接種化されることにより多くの国でポリオ患者は激減した。

日本におけるポリオは、1940年代頃から全国各地で流行がみられ、1960年には北海道を中心に5,000名以上の患者が発生する大流行となった。そのため1961年にOPVを緊急輸入し、一斉に投与することによって流行は急速に終息した。その後、野生株ポリオウイルスによるポリオ麻痺患者は1980年の1型ポリオの症例を最後に確認されていない。その後に報告されているのは全てワクチン株によるワクチン関連麻痺(vaccine-associated paralytic poliomyelitis:VAPP)の患者である。

本邦におけるポリオ排除宣言に向けた対策として、1998年5月1日よりポリオ様疾患の発生動向調査が行われた。この調査では、ポリオが疑われる急性弛緩性麻痺(acute flaccid paralysis:AFP)患者を診断した医師は保健所に連絡するとともに、確定診断のための検体(糞便)を発症14日以内に2回採取することが求められた。また、日本国内でいくつかの地域を選定し、1998年1年間のAFP患者の発生調査、1999年1月から2000年3月までは、ギランバレー症候群を含めたAFP患者全員から2回糞便を採取し、ポリオウイルスの確認検査も行われた。これらの結果、国内のポリオ患者発生がないことが臨床的、ウイルス学的に確認され、本邦におけるポリオ排除が国際的にも認められた。

日本が所属しているWHO西太平洋地域においては、1997年のカンボジアでの症例が最後であり、その後の1999年の中国での症例については、他国からの輸入株によるもので土着のものではないと判断された。その結果2000年10月の京都会議において、この地域でのポリオ根絶宣言がなされた。

感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(感染症法)にもとづく感染症発生動向調査における報告状況

「急性灰白髄炎」は全数把握疾患(2類感染症)であり、診断した医師は直ちに最寄りの保健所に届け出なければならない。前述のように1980年を最後に野生株ポリオウイルスによる感染例の報告はない(2025年3月時点)。一方でOPV接種によるワクチン関連麻痺(VAPP)は、2007年から2013年の間に計7例報告されている。本邦では2012年にOPVからIPVに切り替えられ、2014年以降のVAPPの報告はない。

2018年5月1日より、15歳未満のAFPが5類感染症全数把握疾患として追加され、医師は診断後7日以内に管轄の保健所へ届け出ることが義務付けられた。AFP報告数は2018年から2024年(暫定値)の期間、25例~141例(中央値47例)で推移しているが、ポリオに起因するものは報告されていない。

2019年からはWHOの基準にもとづき、AFPとして届け出られた患者に対しては、全例、便を用いたPCRではなくWHO標準法であるウイルス分離法での2回の検査を国立健康危機管理研究機構で実施しポリオの除外を求めている。さらにWHOの「ポリオ根絶戦略2022-2026」に基づく加盟国への求めに応じ、2024年にポリオウイルスによるAFPが否定できない症例について、国立健康危機管理研究機構において個別に評価を行い、WHOの基準に基づいてポリオの疑いがあるか否かの分類を行う体制が整備された。

病原体

病原体はポリオウイルスで、エコーウイルス、コクサッキーウイルスとともにエンテロウイルス属(腸内ウイルス属)に分類される。抗原性により1型、2型、3型の3種類に分けられる。エーテル、クロロホルム、非イオン界面活性剤では不活化されないが、熱、ホルムアルデヒド、塩素、紫外線、およびエタノール(エンテロウイルスの中で例外的にポリオウイルスに有効)により速やかに不活化される。

ポリオウイルスは経口的にヒトの体内に入り、咽頭や小腸の粘膜で増殖し、リンパ節を介して血流中に入る。その後に脊髄を中心とする中枢神経系へ達し、脊髄前角細胞や脳幹の運動神経ニューロンに感染し、これらを破壊することによって典型的なポリオの症状を惹起する。発症後1~2週間を経過すると、咽頭分泌液にはウイルスはほとんど排泄されなくなるが、糞便には3~6週間ウイルスが排泄され、感染源としての問題を生じる。

臨床症状

感染者の90~95%は不顕性に終わり、約5%(4~8%)では、発熱、頭痛、咽頭痛、悪心、嘔吐などの感冒様症状に終始し(不全型)、1~2%では上記の症状に引き続き無菌性髄膜炎を起こす(非麻痺型)。

定型的な麻痺型ポリオを発病するのは感染者の0.1~1%である。その場合には6~20日の潜伏期をおき、前駆症状が1~10日続いた後、四肢の非対称性の弛緩性麻痺が出現する。この場合、特に小児における前駆症状は二相性となることが多く、初期の軽い症状の後1~7日の間隔をあけて、表在反射消失、筋肉痛、筋攣縮などの前駆徴候がみられ、その後麻痺に進展する。しかし、前駆症状が全くないまま麻痺が現れる症例もある。

ポリオによる麻痺は下肢に多くみられ、知覚障害はみられない。麻痺型としてはこのような脊髄型が大部分であるが、延髄障害による球麻痺を合併して、嚥下、発語、呼吸が障害されることもある。多くの場合、麻痺は完全に回復するが、発症から12カ月過ぎても麻痺あるいは筋力低下が残る症例では、永続的な後遺症を残す可能性が高い。致命率に関しては、小児では2~5%であるが、成人では15~30%と高くなり、特に妊婦では重症になる傾向がある。球麻痺を合併した場合の致命率は、25~75%と高率である。髄液検査では、リンパ球優位の細胞数増多(10~500mm3 )、蛋白増加(40~50mg/dL)などが見られる。

病原診断

確定診断はウイルス分離及び血清診断によるが、糞便からのウイルス分離がもっとも重要であり、血清診断は補助的である。ウイルス分離は比較的容易であるが、麻痺の出現後できる限り早い時期に検査材料(糞便など)を2回採取する必要がある。初発症状出現後、咽頭分泌液からは約1週間、糞便からは約2週間ウイルスが分離できる。髄液からウイルスを分離できれば診断的価値は非常に高いが、分離率は低い。ポリオウイルスが検出された場合は、ワクチン由来株か野生株かの鑑別が必要となる。

血清中和抗体は、急性期と回復期のペア血清で4倍以上の上昇が認められれば診断的価値があるが、発症早期から上昇するために確定できないこともある。

治療・予防

特異的な治療法はなく、対症療法が中心となる。呼吸障害や分泌物喀出不全が認められる例では、気管切開、挿管、あるいは補助呼吸が必要となる。

日本を含む多くの国々では、IPVあるいはOPVの普及により、野生株によるポリオ患者発生は殆どみられなくなった。しかし、いまだに世界的には野生株ポリオウイルス(WPV)及び伝播型ワクチン由来ポリオウイルス(cVDPV)が流行ないし存在している地域がみられ、本邦への侵入も警戒する必要がある。本邦では1960年のポリオ流行を受け1961年にOPVが緊急措置として導入されたのち、同年に予防接種法が改正され、ポリオワクチンは定期接種として位置づけられた。以降OPVが使用されていたが、2012年に全面的なIPVへの切り替えが行われ、同年11月に四種混合ワクチン(沈降精製百日せき・ジフテリア・破傷風・不活化ポリオ)として、定期接種の中に位置づけられたのち、2024年度からは四種混合ワクチンにヘモフィルス・インフルエンザ菌B型ワクチンを加えたDPT-IPV-Hibの五種混合ワクチンが用いられている。初回免疫として生後2か月以降に1回0.5mLずつ3回、いずれも20日以上の間隔で皮下または筋肉内に接種し、追加免疫は初回免疫終了後6か月以上の間隔をおいて0.5mLを1回皮下または筋肉内に接種する、計4回の接種スケジュールとなっている。

2012年まで使用されていたOPVには1~3型のポリオウイルスが混合されていたが、ある型が腸管内で先に増殖すると、干渉作用により他の型のウイルスが増殖できずに免疫が得られないことがあった。そのため、OPVを使用していた時期は3型に対する抗体価が低い傾向があったが、2012年より中和抗体誘導効果が高いIPV含有ワクチンが開始されたことで3型に対する抗体保有割合も改善した。また、流行予測調査事業によるポリオ中和抗体保有状況によると、1975~1977年生まれの世代において1型の抗体価が低い傾向がある。この年齢群を含めて、ポリオ患者が発生している国に渡航する場合はポリオワクチンの追加接種の検討が推奨される。(参考:FORTH 海外渡航のためのワクチン(予防接種):https://www.forth.go.jp/moreinfo/topics/useful_vaccination.html)

ポリオワクチンと根絶に向けての課題

前述のとおり、ポリオワクチンにはIPVとOPVがあり、本邦でも両方が使われてきた。OPVは腸管免疫の獲得を通してポリオウイルスの感染拡大防止に優れている。しかしながら、OPVによる重篤な副反応としてワクチン関連麻痺性ポリオ(VAPP)が知られており、OPV投与200~300万人に1人の割合でVAPPが出現すると報告されている。接種者周辺における感染(vaccine contact case:VCC)も本邦では530万投与あたり1例みられた。VAPPという副反応に対応すべく、不活化ワクチン(IPV)の導入が本邦を含む先進国では進められた。

本邦でも2012年にOPVの廃止、IPVへの全面的な切り替えが行われた。IPVは血中の中和抗体産生に優れており、腸管免疫の獲得はOPVより弱いものの、野生ポリオ株の排除を達成している本邦においては十分な予防効果を発揮すると考えられる。

現在では、WHOの推奨のもと世界のほとんどの国でIPVが導入され、OPVとの併用接種を行っている国もあるが、全面的なIPVへの切り替えを実施したのは主に先進国である。2025年3月現在、野生株ポリオウイルス(1型)が流行しているのはアフガニスタン・パキスタンのみに限られるが、伝播型ワクチン由来ポリオウイルス(cVDPV)の流行はアフリカ大陸中心に世界各地で継続している。VDPVは、OPVに含まれる弱毒化されたポリオウイルスがOPV接種率が不十分な集団内で長期間増殖・伝播することで遺伝子変異が蓄積し、麻痺を引き起こす病原性を再獲得して出現する。

VDPVの懸念が高まる中、WHOは2016年に三価OPV(trivalent OPV:tOPV)から、既に根絶が確認されていた野生株2型を除いた二価OPV(bivalent OPV:bOPV)への切り替えを求めたが、2型のVDPVの流行は継続しており、単価2型OPV(monovalent OPV2:mOPV2)でのアウトブレイク対応を余儀なくされてきた。そこで、VDPV出現リスクを軽減するために、OPVのSabin株に遺伝子改変を行うことで安定性を高めた株を使用した新規2型OPV(novel OPV2:nOPV2)の開発が進められてきた。2020年にWHOがnOPV2の緊急使用リスト収載(emergency use listing:EUL)を承認して、各地で使用されている(2023年にはWHO事前承認・Prequalificationを取得)。1型および3型のVDPVの出現も認められるため、それぞれに対するnOPVの開発も進められている。OPVが使用され続ける限り、VDPVの出現を完全に防ぐ事はできず、WHOおよび世界ポリオ根絶イニシアティブ(global polio eradication initiative:GPEI)では、定期接種におけるbOPV廃止を目指している 。

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