エボラ出血熱(詳細版)
更新日:2026年07月10日
エボラ出血熱はオルソエボラウイルス属のウイルスによる感染症であり、ラッサ熱、マールブルグ病、クリミア・コンゴ出血熱等とともに、ウイルス性出血熱(viral hemorrhagic fever:VHF)に分類される一疾患である。
エボラ出血熱を引き起こすフィロウイルス科オルソエボラウイルス属のウイルスは複数あり、それぞれが引き起こす疾患との対応表を以下に示す。
表1. オルソエボラウイルス属のウイルスとヒトにおける疾患の対応
※ 感染症法における「エボラ出血熱」は、オルソエボラウイルス属の各ウイルスによるヒト疾患の総称である。
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ウイルス属 |
ウイルス種 |
ウイルス |
ヒトにおける疾患 |
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オルソエボラウイルス属 |
ザイールエボラウイルス種 |
エボラウイルス |
エボラウイルス病 |
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スーダンエボラウイルス種 |
スーダンウイルス |
スーダンウイルス病 |
|
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ブンディブギョエボラウイルス種 |
ブンディブギョウイルス |
ブンディブギョウイルス病 |
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タイフォレストエボラウイルス種 |
タイフォレストウイルス |
ヒトにおける発症例は過去に |
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レストンエボラウイルス種 |
レストンウイルス |
ヒトにおける発症例の報告なし |
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ボンバリウイルス種 |
ボンバリウイルス |
ヒトにおける発症例の報告なし |
エボラ出血熱患者が必ずしも出血症状を呈するわけではないことから、国際的には、エボラ出血熱に代わってエボラ病(Ebola disease: EBOD)と呼称されている。一方で、ザイールウイルス(ZEBOV)は、現在のウイルス分類ではエボラウイルス(EBOV)とされており、これが引き起こす疾患はエボラウイルス病(EVD)と呼ばれている。そこで、混乱を避けるために、本稿では、エボラ病(EBOD)という用語ではなく、国内の感染症法上の呼称である「エボラ出血熱」と総称して記述する。
エボラ出血熱の公衆衛生学上の重要な特徴は、致命率が高いこと、血液や体液との接触によりヒトからヒトへ感染すること、さらに条件が整うと、2014年~2016年に発生した西アフリカでの流行のように、国境を越えた大規模な流行に発展しうることが挙げられる。
病原体
オルソエボラウイルス属のウイルスはオルソマールブルグウイルス属と共にフィロウイルス科(Filoviridae)に分類される。短径が80~100nm、長径が700~1,500nmで、U字状、ひも状、ぜんまい状等多形性を示す。
ヒトに病原性の高いEBOVとSUDVは、非ヒト霊長類に対して、強い病原性を示し、速やかに感染動物を死に至らしめる。病原体は他のVHFウイルスと同様に、BSL-4施設で取り扱う必要のある病原体に分類されており、ウイルス増殖を伴う作業は最高度安全実験施設(BSL-4施設)でなされる必要がある。
疫学
1976年に初めてエボラウイルス(EBOV)が発見されて以降、2026年4月時点までに、30回を超えるエボラ出血熱のアウトブレイクが報告されてきた。エボラウイルスの自然宿主は、複数種のオオコウモリと考えられている。
ウイルス種別エボラ出血熱の事例とその症例数、死亡数(2026年6月時点)
表2. エボラウイルス(EBOV)による主なエボラ出血熱アウトブレイク事例
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発生年 |
発生国 |
症例数 |
死亡数 |
出典 |
|
1976 |
コンゴ民主共和国 (旧ザイール) |
318 |
280 |
1) |
|
1977 |
コンゴ民主共和国 |
1 |
1 |
1) |
|
1994 |
ガボン |
51 |
31 |
1) |
|
1995 |
コンゴ民主共和国 |
315 |
254 |
1) |
|
1996 |
ガボン |
31 |
21 |
1) |
|
1996 |
ガボン |
60 |
45 |
1) |
|
2001 |
ガボン/コンゴ共和国 |
124 |
97 |
1) |
|
2003 |
コンゴ共和国 |
178 |
157 |
1) |
|
2005 |
コンゴ共和国 |
12 |
10 |
1) |
|
2007 |
コンゴ民主共和国 |
264 |
187 |
1) |
|
2008 |
コンゴ民主共和国 |
32 |
15 |
1) |
|
2014 |
コンゴ民主共和国 |
69 |
49 |
1) |
|
2014-2016 ※ |
ギニア、リベリア、シエラレオネ等 |
28,616 |
11,310 |
2) |
|
2017 |
コンゴ民主共和国 |
19 |
3 |
2) |
|
2018 |
コンゴ民主共和国 |
54 |
33 |
2) |
|
2018-2020 ※ |
コンゴ民主共和国 |
3,470 |
2,287 |
2) |
|
2020 |
コンゴ民主共和国 |
130 |
55 |
2) |
|
2021 |
コンゴ民主共和国 |
12 |
6 |
2) |
|
2021 |
ギニア |
23 |
12 |
2) |
|
2021 |
コンゴ民主共和国 |
11 |
9 |
2) |
|
2022 |
コンゴ民主共和国 |
5 |
5 |
2) |
|
2022 |
コンゴ民主共和国 |
1 |
1 |
2) |
|
2025 |
コンゴ民主共和国 |
64 |
45 |
2) |
出典:
1)US CDC
https://www.cdc.gov/ebola/outbreaks/index.html
2)WHO
https://www.who.int/emergencies/disease-outbreak-news
表3. スーダンウイルス(SUDV)による主なエボラ出血熱アウトブレイク事例
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発生年 |
発生国 |
症例数 |
死亡数 |
出典 |
|
1976 |
スーダン |
284 |
151 |
1) |
|
1979 |
スーダン |
34 |
22 |
1) |
|
2000 |
ウガンダ |
425 |
224 |
1) |
|
2004 |
スーダン |
17 |
7 |
1) |
|
2012 |
ウガンダ |
17 |
7 |
1) |
|
2022-2023 |
ウガンダ |
164 |
55 |
2) |
|
2025 |
ウガンダ |
14 |
4 |
2) |
出典:
1)US CDC
https://www.cdc.gov/ebola/outbreaks/index.html
2)WHO
https://www.who.int/emergencies/disease-outbreak-news
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発生年 |
発生国 |
症例数 |
死亡数 |
出典 |
|
2007 |
ウガンダ |
131 |
42 |
1) |
|
2012 |
コンゴ民主共和国 |
38* |
13* |
1) |
*:検査室確定例のみ
出典:
1)US CDC
https://www.cdc.gov/ebola/outbreaks/index.html
表5. タイフォレストウイルス(TAFV)によるエボラ出血熱アウトブレイク事例
|
発生年 |
発生国 |
症例数 |
死亡数 |
出典 |
|
1994 |
コートジボワール |
1 |
0 |
1) |
出典:
1)US CDC
https://www.cdc.gov/ebola/outbreaks/index.html
過去にPHEICが宣言されたアウトブレイクの詳細(表2*部分)
※ 発生年の新しい順に記載。
2018年~2020年コンゴ民主共和国
2018年8月、コンゴ民主共和国(DRC)東部の北キブ州でエボラ出血熱のアウトブレイクが確認され、その後イツリ州にも拡大した。本流行は2020年6月まで継続し、累計3,470例、死亡2,287例が報告され、致命率は66%であった。
本流行は武装勢力による治安不安地域で発生し、医療施設への襲撃や住民の不信感などにより対応が困難となった。2019年には隣国ウガンダへの越境感染例や、人口密集都市ゴマでの患者発生も確認された。世界保健機関(WHO)は2019年7月に「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)」を宣言した。
本流行の対応として、接触者に対し、rVSV-ZEBOVワクチンを用いたリングワクチネーション、接触者追跡、感染予防管理の強化などが実施された。また、本流行ではモノクローナル抗体製剤(REGN-EB3、mAb114)の有効性が示された。
WHOは2020年6月25日に終息を宣言した。
2014~2016年西アフリカ
2014年3月、ギニアでエボラ出血熱のアウトブレイクが確認され、その後リベリア、シエラレオネを中心に西アフリカ各国へ拡大した。本流行では累計28,616例、11,310例の死亡、致命率は約40%(ギニア3,814例・致命率67%、リベリア10,666例・致命率45%、シエラレオネ14,122例・致命率28%)であった。都市部での持続的流行や国際的な人の移動に伴う感染拡大が問題となり、WHOは2014年8月にPHEICを宣言した。エボラ出血熱患者の発生は約2年間続き、2016年3月29日にPHEICが解除された。
本流行を契機としてワクチンおよび治療薬開発が大きく進展し、rVSV-ZEBOVワクチンの有効性がギニアでの臨床試験で示された。また、患者接触者を対象とする「リングワクチン戦略」が確立され、その後のDRCにおける流行での対応にも活用された。WHOは2016年6月に終息を宣言した。
臨床症状
潜伏期間は通常2~21日であり、多くは曝露後8~10日程度で発症する。発症初期には発熱、倦怠感、筋肉痛、頭痛、咽頭痛などの非特異的症状を呈し、マラリアやインフルエンザ等との鑑別が困難な場合がある。その後、食欲低下、嘔気、嘔吐、下痢、腹痛などの消化器症状が出現し、発疹、結膜充血、肝機能障害、腎機能障害を伴うことがある。重症例では脱水、ショック、多臓器不全に進展する。出血症状はEVDを特徴づける症状として知られるが、必ずしも全患者に認められるわけではなく、主として病期後半にみられる。死亡例ではショックや多臓器不全を伴い急速に重症化することがある。
病原体診断
血液や、咽頭拭い液などがウイルス学的検査材料である。ウイルスゲノムのRT-PCRもしくはリアルタイムRT-PCRによる検出法、ウイルス抗原検出ELISAによる検出法がある。抗体検出法としてIgG-ELISA、IgM-ELISA、間接蛍光抗体法がある。血液、体液等からウイルスを分離する検査法も重要な検査法であるが、通常1週間以上を要する。
JIHS国立感染症研究所ウイルス第一部が、エボラ出血熱を含むウイルス性出血熱の検査を他の部・センターと連携して担当している。次のいずれかが満たされた場合、「エボラ出血熱」とする。
- 被験検体からRT-PCR法でオルソエボラウイルス属のウイルスゲノムが検出された。
- 被験検体からオルソエボラウイルス属のウイルスが分離された。
なお、下記の場合も「エボラ出血熱」と診断するが、感度・特異度がRT-PCR法やウイルス分離法に比べて低いことから、確定診断のための病原体検査として確立されていない。
- 被験検体から抗原検出ELISA法で、オルソエボラウイルス属のウイルス抗原(核タンパク質)が検出された。
- IgG-ELISA、IgM-ELISA、間接蛍光抗体法で、オルソエボラウイルス属のウイルスに対する特異的抗体が検出された。
感染経路と感染対策
エボラ出血熱は、エボラ出血熱患者またはオルソエボラウイルス属のウイルスに感染した動物の血液などの体液と直接接触した場合に感染する。アフリカでは、自然宿主と考えられているオオコウモリや、感染した動物に接触することにより、ヒトへの感染がおこると推定されている。
エボラ出血熱を発症した患者の体液(血液、唾液、分泌物等)に直接接触すること、または体液で汚染された環境への間接的な接触により、創傷のある皮膚や粘膜を介してヒトーヒト感染が起こる。エボラ出血熱の流行では、地域で行われている葬式の風習(会葬者が遺体に直接触ること)も地域伝播に寄与する。接触感染予防対策が適切になされないこと、適切に実施できない環境にあることが、感染リスクとなる。エボラ出血熱の回復後にも、免疫応答や炎症反応などが起こりにくい、いわゆる免疫回避組織である、精巣、眼球内部、中枢神経系において、ウイルスが存在し続けることがある。
本ウイルスに感染しないようにするためには、流行地域において患者や感染動物との接触を避けることが重要である。患者や遺体に接触する際は、個人防護具の使用などの接触感染対策を行い、排泄物を含む患者の体液や患者が触れたものを直接触らないように注意する必要がある。発症6か月後の性交渉による感染伝播事例が報告されたことから、WHOはウイルス感染後の性行為は発症後12か月まで又はRT-PCR法で2回陰性の結果が得られるまで、コンドームを装着することを推奨している。
治療・予防
治療は輸液・循環管理等の支持療法が基本となるが、近年ではエボラウイルス(EBOV)によるウイルス性出血熱の治療薬として、atoltivimab、maftivimab、odesivimabの3種の抗体を組み合わせたモノクローナル抗体製剤(Inmazeb®)、または単一抗体製剤ansuvimab(Ebanga®)が使用されている。また、予防として、rVSV-ZEBOV(Ervebo®)ワクチンが開発され、2019年以降、米国食品医薬品局(FDA)および欧州委員会等により承認されるとともに、WHO事前認証を取得している。
エボラウイルス(EBOV)によるウイルス性出血熱の発生時には、接触者に対するリングワクチネーションや、医療従事者を含む感染リスクの高い者に対するワクチン接種が実施されている。
一方で、エボラウイルス(EBOV)以外のウイルスによるエボラ出血熱に対して有効性が確立された抗体医薬品、抗ウイルス薬、ワクチンは現時点で実用化されていない。
感染症法における取り扱い
エボラ出血熱は全数把握対象疾患(1類感染症)であり、次に掲げる診断または検案した医師は、直ちに最寄りの保健所に届け出なければならない。
- 患者(確定例)
- 無症状病原体保有者
- 疑似症患者
- 感染症死亡者の死体
- 感染症死亡疑い者の死体
届出基準は厚生労働省ホームページをご確認ください。(外部サイトにリンクします)
学校保健安全法における取り扱い
第1種の感染症に定められており、治癒するまで出席停止とされている。 また、次に掲げる場合も出席停止期間となる。
- 患者のある家に居住する者又はかかっている疑いがある者については、予防処置の施行その他の事情により学校医その他の医師において感染のおそれがないと認めるまで。
- 発生した地域から通学する者については、その発生状況により必要と認めたとき、学校医の意見を聞いて適当と認める期間
- 流行地を旅行した者については、その状況により必要と認めたとき、学校医の意見を聞いて適当と認める期間
