愛知・名古屋アジア・アジアパラ競技大会開催に向けての感染症リスク評価
2026年7月27日
愛知県衛生研究所
名古屋市衛生研究所
名古屋市保健所
国立健康危機管理研究機構 国立感染症研究所
1.目的
2026 年 9 月から 10 月にかけて、名古屋市内と愛知県内各所を中心に、愛知・名古屋アジア・アジアパラ競技大会(以下、愛知・名古屋 2026 大会)が開催される。アジアオリンピック評議会(OCA)及びアジアパラリンピック委員会(APC)に加盟する 45 の国と地域からの選手団が参加を予定しており、訪日外国人(インバウンド)が新型コロナウイルス禍前の水準を大きく超えて増加している中、大会期間中は、大会スタッフ、メディア関係者なども含め、アジア各国からの入国者のさらなる増加が見込まれている。
過去のマスギャザリングイベントでは、参加者に対する安全確保のための医療体制の構築が重要視さ れてきた。加えて、さまざまな地域から多数の人が集まるというマスギャザリングイベントの性質からは、その地域では発生数が少ない感染症が持ち込まれたり拡散したりする危険があり、その場合は開催地の医療・公衆衛生への影響が大きくなる 1)。
愛知・名古屋 2026 大会は国際的大規模マスギャザリングイベントであり、国内で発生しうる感染症を中心とする健康危機事象を想定し、公衆衛生対応に備える必要がある。大会参加者や関係者の感染予防に加えて、海外から持ち込まれた感染症の国内での拡大防止のため、国内外の感染症の発生動向などから適切に感染症のリスク評価を実施し、その結果に基づき、サーベイランス体制の整備など、事前、期間中、事後の準備と対策を講じてゆくことが重要となる。
2.愛知・名古屋 2026 大会の概要(大会会場、開催期間、参加人数)
アジア競技大会は 2026 年 9 月 19 日からの 16 日間の大会期間に 43 競技が 53 会場で開催され、約15,000 人の選手団が参加する。アジアパラ競技大会では 2026 年 10 月 18 日からの 7 日間の大会期間に18 競技が 19 会場で開催され、4,000 人近い選手団が参加する。OCA 及び APC 加盟の 45 の国と地域が参加し、参加国や地域は、東アジア、東南アジア、南アジア、中央アジアから中東までアジア全体に及ぶ。会場は名古屋市、愛知県内が中心であるが、競技によっては他都府県会場での開催が予定されている(図 1、表 1、図 2)。
観客は、国内を中心に、国外も含めて約 150 万人が見込まれている。
図 1 OCA 及び APC 加盟国
表 1 愛知・名古屋アジア・アジアパラ競技大会開催概要
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アジア競技大会 |
アジアパラ競技大会 |
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大会名称 |
第 20 回アジア競技大会 (2026/愛知・名古屋) |
第 5 回アジアパラ競技大会 (2026/愛知・名古屋) |
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大会期間 |
2026 年 9 月 19 日(土) ~10 月 4 日(日) 16 日間 |
2026 年 10 月 18 日(日) ~10 月 24 日(土) 7 日間 |
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実施競技 |
43 競技 |
18 競技 |
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メイン会場 |
名古屋市瑞穂陸上競技場 |
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競技会場 |
53 会場(5 都府県) |
19 会場(2 県) |
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参加国・地域 |
OCA 加盟の 45 の国と地域 |
APC 加盟の 45 の国と地域 |
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選手団 (選手・チーム役員) |
最大 15,000 名 |
3,600~4,000 名 |
図 2 アジア競技大会、アジアパラ競技大会の競技会場の分布
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![]() |
*アジア競技大会 53 会場:愛知県・名古屋市 44、岐阜県 3、東京都 2、静岡県 3、大阪府 1
*アジアパラ競技大会 19 会場:愛知県・名古屋市 17、静岡県 2
*愛知・名古屋 2026 大会では選手村は設置されず、選手団の宿泊はホテルを使用する他、クルーズ船(名古屋港金城ふ頭)及び移動式宿泊施設(名古屋港ガーデンふ頭)に約 6,000 人規模の宿泊拠点を設置する。また、宿泊地については愛知県内に加え、競技会場配置等により県外も使用する。
3.対象
感染症リスク評価及び感染症対策の対象となるのは以下のとおり。
- 大会参加選手、大会関係者、各競技役員、OCA/APC ファミリー
- 競技会場及び大会関連施設で業務に従事する関連のスタッフ(医療従事者、宿泊・警備・清掃従事者、ボランティア)
- メディア関係者
- 国内外からの観客、競技会場周辺自治体の住民
- 関係機関:競技会場及び宿泊施設のある県及び市町村、消防、警察、医療機関
4.リスク評価に当たり考慮した事項
4.1 開催時期
愛知・名古屋 2026 大会の開催期間は 2026 年 9 月 19 日から 10 月 24 日となっており、リスク評価にあたっては以下の点を考慮した。
- 残暑や豪雨・台風の影響を受ける時期を含む
- 食中毒が発生しやすい時期を含む
- 媒介蚊の繁殖時期を含む
4.2 人流及び環境
愛知・名古屋 2026 大会開催時の人流及び環境について、考慮した点は以下のとおり。
- 屋内外を問わず特定の場所に特定の目的で長時間にわたって人が集まる機会がある
- 期間中、アジア全体からの入国が数万人規模で増加すると推定される
- その多くが公共交通機関を利用することが想定される
- 会場周辺で感染症を媒介する昆虫や生物が生息する環境がある
- 宿泊場所や競技会場のみならず、会場周辺でも飲食物が提供される機会がある
- 大会関係者や観客が、国内の競技場設置地域周辺に移動、宿泊する可能性がある
- 選手用宿泊施設としてクルーズ船(名古屋港金城ふ頭)約 4,000 人、移動式宿泊施設(名古屋港ガーデンふ頭)約 2,000 人規模の宿泊拠点が設置される。
4.3 医療体制
公益財団法人愛知・名古屋アジア・アジアパラ競技大会組織委員会(以下組織委員会とする)により、競技会場や宿泊施設などにおいて、医務室及び救護室の設置が計画されている(表 2)。医務室には医師と看護師を配置し、簡易的な処置及び投薬は可能であるが、X線装置は設置しない。救護室では簡易的な応急処置が可能である。また、会場及び宿泊施設周辺の医療機関に対して、組織委員会より、大会指定病院及び協力依頼病院としての協力を依頼する計画となっている。
表 2 愛知・名古屋 2026 大会における医務室・救護室の設置(組織委員会資料より)
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競技会場 開閉会式会場 |
練習会場 |
選手宿泊施設 (ホテル) |
選手宿泊施設 (クルーズ船) |
その他ホテル (OCAホテル等) |
メディア センター |
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競技エリア |
〇 |
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医務室 |
〇 |
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〇 |
〇(一部のみ) |
〇 |
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救護室 |
〇 |
〇 |
〇 |
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〇(一部のみ) |
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医療体制の基本的な方針は以下のように計画されている。
- 競技エリアの医務室については、国内競技団体から医師・看護師等が派遣される
- その他の医務室及び救護室の運営に必要な人員については、大会指定病院、協力依頼病院、愛知県医師会、愛知県看護協会等から派遣される
- 医務室や救護室での対応能力を超える場合は、組織委員会が調整し、大会指定病院への搬送とする
- 強化サーベイランス対象疾患(詳細は2 強化サーベイランスで後述)などの感染症や食中毒を疑って大会指定病院へ搬送する場合は、保健所とも連携し、組織委員会が調整を行う
- 医務室・救護室の対応状況や感染症疑い患者の発生状況は、組織委員会が情報を集約し、状況に応じて保健所や自治体などの関係機関と情報を共有する
4.4 その他
- 輸入感染症については、一般臨床医の経験が乏しいこと、医療機関レベルでは特異的な検査が行えないことがあり、診断が難しい可能性がある
- 会場に自然災害の被害が発生した場合、破傷風、レプトスピラ症等の災害関連の感染症についても注意が必要となる
- 観客に関しては市中で感染した者が会場を訪れるケースと、会場で感染した者が市中で観光を行い、感染拡大に寄与するケースの双方が存在することに注意を払う必要がある
- メディアの関心が高いと想定され、感染症、その他の健康危機事象が発生した場合、reputation risk(評判や風評に関するリスク)がある
5. 過去のマスギャザリングイベントにおける感染症発生事例
マスギャザリングイベントにおける感染症発生事例としては、イスラム教徒の大巡礼(Hajj)に関連した侵襲性髄膜炎菌感染症がよく知られている 2)。国内における国際的なマスギャザリングに関連した事例としては、2015 年に山口県でおこなわれた世界スカウトジャンボリーにおいて、帰国後の複数の参加者から侵襲性髄膜炎菌感染症の発生が報告された事例がある 3)。
また、オリンピックなどのスポーツ関連イベントにおいても、麻しんやインフルエンザ、ノロウイルス胃腸炎のアウトブレイクの報告がある 4)5)(表 3)。
表3 過去のマスギャザリングイベントにおける感染症発生事例
| 年 | イベント名 | 開催国 | 感染症 |
| 2001 | イスラム教徒の大巡礼(Hajj) | サウジアラビア | 侵襲性髄膜炎菌感染症 |
| 2002 | ソルトレイクシティオリンピック | 米国 | インフルエンザ |
| 2006 | サッカーワールドカップ | ドイツ | ノロウイルス胃腸炎 |
| 2006 | アジア競技大会 | カタール | 水痘 |
| 2007 | 国際青少年スポーツ大会 | 米国 | 麻しん |
| 2014 | ソチオリンピック | ロシア | 麻しん |
| 2015 | 世界スカウトジャンボリー | 日本 | 侵襲性髄膜炎菌感染症 |
| 2018 | 平昌オリンピック | 韓国 | ノロウイルス胃腸炎 |
| 2021 | 東京オリンピック | 日本 | 新型コロナウイルス感染症(COVID-19) |
6. 他のマスギャザリングイベントにおける感染症リスク評価
愛知・名古屋 2026 大会における感染症リスク評価を行うにあたり、東京 2020 オリンピック・パラリンピック競技大会(東京 2020 大会)と 2025 年日本国際博覧会(大阪・関西万博)において、国立健康危機管理研究機構(旧国立感染症研究所)が行った感染症リスク評価を参考にした。
新型コロナウイルスによるパンデミックがまだ収束しない中で開催された東京 2020 大会では、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策として、感染対策や行動管理を定めた指針「プレーブック(規則集)」が作成され、選手や関係者の移動・滞在を一定の空間に限定し、外部との接触を極力避ける感染対策方法「バブル方式」がとられた 6)。COVID-19 以外の感染症に対しても、リスク評価が行われ、特に注意すべき感染症として、麻しん、侵襲性髄膜炎菌感染症、中東呼吸器症候群(MERS)、腸管出血性大腸菌感染症が挙げられた 7)8)9)。
2025 年 4 月から 10 月にかけて開催された大阪・関西万博においては、麻しん、侵襲性髄膜炎菌感染症、中東呼吸器症候群(MERS)、食品に関連した腸管出血性大腸菌感染症を特に注意すべき感染症として挙げており、COVID-19、季節性インフルエンザを含めた急性呼吸器感染症の集団発生、会場で提供された食品が原因の集団食中毒についても十分注意が必要とされていた 10)。
また、パリ 2024 大会では、世界保健機関(WHO)と欧州疾病予防管理センター(ECDC)から、公衆衛生当局への提言と観客向けの提言が発信され、脅威となる可能性のある感染症として以下が挙げられた 5)11)。
- ワクチンで予防可能な感染症として、麻しん、髄膜炎菌感染症、百日咳など
- 食品及び水媒介感染症として、ノロウイルス胃腸炎、サルモネラ症、A 型肝炎、コレラなど
- 媒介動物による感染症として、デング熱、チクングニア熱、ウエストナイル熱、出血熱など
- ウイルス性呼吸器感染症として、季節性インフルエンザ、RS ウイルス感染症、COVID-19、中東呼吸器症候群(MERS)など
- その他の呼吸器感染症として、レジオネラ症、結核
- 性感染症及び血液感染症として、HIV/AIDS、梅毒、クラミジア、エムポックス、B 型肝炎、C 型肝炎など
7. リスク評価の方法
7.1 基本的な情報の収集と整理
- 平時における感染症の発生状況として、感染症発生動向調査の全数把握対象疾患の報告結果を分析する。
- アジア地域を中心とした世界的な感染症の発生状況を分析する。
- 感染症発生時の対応マニュアル、感染症予防計画等のガイドラインを確認する。
- ワクチン予防可能疾患に関するワクチン接種率と抗体保有状況を評価する。
7.2 評価項目
以下の項目において注意が必要な疾患を検討する。
- 輸入感染症の増加:国外からの持ち込みが増加する可能性の高い感染症
- 国内における感染伝播:大会により国内(市中)で拡がりやすいと考えられる感染症
- 大会に関連した集団発生:大会参加選手・関係者や会場内、宿泊施設等の関係従事者における集団発生が起こりうる感染症
- 大規模感染の懸念かつ重症度が高い感染症:一度に多数の患者が発生する可能性があり、かつ重症度が高いもの
8. 感染症リスク評価の結果
8.1 国内の感染症の発生状況
2024 年の感染症発生動向調査事業年報 12)に基づいて、年間報告数と輸入指数を用いた対象疾患の分類をおこなった(表 4)。輸入指数は「輸入例/感染地域不明を除く報告症例数」と定義し、2024 年に輸入例が1例以上報告された疾患の輸入指数の中央値 0.12 より高いものを輸入リスクの高い疾患とした。 また、感染症の報告数の程度を、1-9 例、10-99 例、100-999 例、1000 例以上の 4 群に分類した。
東京 2020 大会及び大阪・関西万博においておこなわれた評価 7)10)と比べると、今回の評価では結核が輸入指数の高い疾患に分類された。結核患者の総数は減少しているものの、結核高蔓延地域からの在留外国人の増加とともに若年層での外国出生者結核が増加しており 13)、輸入感染症としての結核への対策が必要となってきている。こうした状況をふまえて、結核患者数が多い一部の国の国籍を有する者のうち、国内での中長期間在留を予定する者に対して、国では 2025 年度から入国前スクリーニングが実施されることになった。愛知・名古屋 2026 大会では、アジア地域の結核高蔓延国からの入国者数の増加が見込まれるため、注意が必要である。

(輸入指数:輸入例/感染地域不明を除く報告症例数)
8.2 世界における感染症の発生状況
2024 年から 2026 年には表 5に示すような感染症の流行が報告された14)。
環境的な要因や社会的な要因によって、感染症の拡大スピードは早まっており、とくに新興感染症ではそれが顕著である。世界の感染症の発生状況は今後も短期間で大きく変化する可能性もあるため、愛知・名古屋 2026 大会開催まで、アジア地域を中心とした流行状況についての情報収集を継続していかなければならない。
表 5 2024-2026 年に流行が報告された感染症 14)。
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新興・再興感染症 |
蚊媒介感染症(デング熱、ジカウイルス感染症、ロスリバー熱、オロプーシェ熱、マラリア) |
2024 年よりアジアと中南米では蚊媒介感染症の患者数が増加している。特に東南アジアと南アジアでデング熱の流行拡大があり、一部ではジカウイルス感染症の増加もみられる。 中南米では蚊媒介感染症であるオロプーシェ熱の流行が拡大している。 オーストラリアでは例年夏に蚊媒介感染症のロスリバー熱が増加する。 2024 年にはコンゴ民主共和国でマラリアを合併した急性呼吸器感染症の流行拡大がみられた。 |
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エボラ出血熱 |
2026 年にコンゴ民主共和国、ウガンダで急速に流行が拡大している。 |
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鳥インフルエンザ |
北米や中南米、中国、東南アジアなどで発生報告が相次いている。 |
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エムポックス |
2024 年にコンゴ民主共和国などのアフリカで急速に流行が拡大した。 |
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ハンタウイルス |
2026 年にクルーズ船関連の多国間事例が報告された。 |
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ワクチン予防可能疾患(VPD) |
麻しん |
アジアとアフリカでの流行拡大と欧米での輸入症例が増加している。 |
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侵襲性髄膜炎菌感染症 |
例年サウジアラビアでのイスラムの大巡礼の開催により増加する。 |
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急性呼吸器感染症 |
百日咳 |
2024 年に欧州での流行。2025 年に日本でも流行した。 |
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COVID-19 |
新たな変異株により、各地で流行と収束を繰り返している。 |
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その他 |
ヒトメタニューモウイルス |
2024-2025 年に中国でヒトメタニューモウイルスによる肺炎患者が増加した。 |
8.3 輸入感染症の動向
輸入感染症を、国立健康危機管理研究機構の定期還元情報「日本の輸入感染症例の動向について」15)に準じた15疾患*とし、感染症発生動向調査システム(NESID)から収集されたデータを基に 16)、2018年 1 月から 2025 年 12 月に診断された輸入感染症の推移を示した(図 3)。2020 年からの COVID-19 流行下における渡航制限による渡航者数の減少等により、輸入感染症は大幅に減少したが、2022年 6月からの渡航制限の段階的な解除以降、緩やかな増加に転じている。
* アメーバ赤痢、E 型肝炎、A 型肝炎、クリプトスポリジウム症、細菌性赤痢、ジアルジア症、ジカウイルス感染症、チクングニア熱、腸チフス、デング熱、パラチフス、風しん、麻しん、マラリア、レプトスピラ症
図 3 2018 年 1 月~2025 年 12 月に診断され、感染症発生動向調査において届け出された輸入感染症15 疾患の推移
(2026 年 6 月 3 日時点)

8.4 各種感染症の分類と評価
各種感染症を、ワクチン予防可能疾患(VPD)、急性呼吸器感染症、新興感染症、蚊媒介感染症、食品媒介感染症/急性消化器感染症、その他の疾患群に分類し、(A) 輸入例増加の可能性、(B) 国内における感染伝播、(C) 大会に関連した集団発生、(D) 大規模感染の懸念かつ重症度の観点から評価した(表 6)。
表 6 感染症の分類とリスク評価
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疾患名 |
(A) 輸入例増加の可能性a |
(B) 国内における感染伝播 |
(C) 大会に関連した集団発生 |
(D) 大規模感染の懸念かつ重症度が高い |
発生時の公衆衛生対応等の特記事項 |
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ワクチン予防可能疾患(VPD) |
麻しん |
〇 |
〇 |
〇 |
〇 |
接触者調査、隔離等の発生時対応の負荷が大きい |
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侵襲性髄膜炎菌感染症 |
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|
〇 |
〇 |
接触者調査、隔離、予防内服等の発生時対応の負荷が大きい |
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風しん |
〇 |
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〇 |
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急性呼吸器感染症 |
COVID-19 |
〇 |
〇 |
〇 |
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季節性インフルエンザ |
〇 |
〇 |
〇 |
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新興・再興感染症 |
中東呼吸器症候群 |
〇 |
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〇 |
〇 |
診断の遅れの懸念、行政対応、リスクコミュニケーション等の負荷が大きい |
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エムポックス |
〇 |
|
〇 |
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蚊媒介感染症 |
デング熱/チクングニア熱/ジカウイルス感染症 |
〇 |
|
〇 |
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食品媒介感染症/急性消化器感染症 |
腸管出血性大腸菌感染症 |
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〇 |
〇 |
〇 |
喫食調査・接触者調査など公衆衛生上の負荷が大きい、食品提供による集団発生の懸念がある |
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細菌性赤痢 |
〇 |
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〇 |
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A型肝炎/E型肝炎 |
〇 |
〇 |
〇 |
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||
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感染性胃腸炎(ノロウイルス胃腸炎を含む) |
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〇 |
〇 |
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その他 |
結核 |
〇 |
〇 |
〇 |
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梅毒 |
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〇 |
〇 |
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HIV/AIDS |
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〇 |
〇 |
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9. 愛知・名古屋 2026 大会において特に注意すべき感染症
世界的な流行状況、輸入例増加の可能性、国内における感染伝播、大会に関連した集団発生、大規模感染の懸念かつ重症度に分けてまとめた(表 6)。大規模感染の懸念、かつ高い重症度を考慮すると、愛知・名古屋 2026 大会において特に注意すべき感染症として、麻しん、中東呼吸器症候群(MERS)、侵襲性髄膜炎菌感染症、腸管出血性大腸菌感染症が挙げられる。加えて、大会に関連した原因不明の重症の感染症疑い(疑似症)の発生、会場で提供された食品が原因の集団食中毒について十分注意が必要である。特に注意すべき 4 疾患それぞれについて、発生・流行状況の評価を行った。
9.1 麻しん
2019 年には多くの国で麻しんのアウトブレイクが発生したが、2020 年からの COVID-19 流行時には世界的に麻しん患者数は低値で推移した 17)。しかし COVID-19 流行時の医療機関の逼迫による定期予防接種率の低下もあり、2022 年以降は麻しん患者が増加している(図 4)。
近年の主な報告地域は、米州地域、アフリカ地域、南東アジアの 3 地域であり、全体の74%を占める。感染患者の増加は全世界に拡大している(図 5)。特にアジアでは直近6 か月(2025 年8 月~2026 年1 月)の報告上位国にインド、インドネシア、パキスタン、ラオスが含まれている。この感染拡大はワクチン接種率の低下が主な原因と考えられており、麻しん排除が達成されていた米国やカナダでも 2025 年以降、大規模な流行が報告され、2025 年9 月には欧州地域でも、英国やオーストラリアを含む6か国で麻しん排除ステータスの喪失が確認された 18)。WHO は、世界の半数以上の国々が麻しんの流行リスクに直面しており、緊急に予防対策を講じないと、そのリスクは国によっては非常に高くなると警告している 19)
図 4 2021 年~2026 年 4 月までの世界の麻しん患者数の推移
出典:WHO. Global Measles and Rubella Monthly Update. (https://immunizationdata.who.int/global?topic=Provisional-measles-and-rubella-data&location=)より引用
図 5 2025 年 10 月~2026 年 3 月までに報告された麻しん患者の地理的分布

出典:WHO. Global Measles and Rubella Monthly Update. (https://immunizationdata.who.int/global?topic=Provisional-measles-and-rubella-data&location=)より引用
COVID-19 流行以降、国内の麻しん症例報告数は年間 10 例以下に減少していたが、2023 年には 28 例、 2024 年は 46 例、2025 年は265 例に増加している(図 6)。さらに 2026 年第 1 週から第 20 週( 2026 年 5 月 20 日時点)のみで累積は 498 例となり、急増している。18) 2026 年第 1 週以降の麻しんの報告は、インドネシアなど近年麻しんが流行している国への海外渡航者による輸入症例以外に、国内感染例の増加が認められている。18)世界的にも麻しん症例報告数は増加しており、国内における輸入例の発生と輸入例を発端としたアウトブレイクの発生が懸念される状況となっている。近年の麻しん発生の多くは輸入例を発端とするものであり、今後も海外からの麻しん持ち込みリスクがより高まることが予想される。
図 6 2014 年 1 月1日から 2025 年末までの感染症発生動向調査における麻しん患者届出数の推移
(2026 年 6 月 2 日時点)

愛知県及び名古屋市でも、2025 年はこれまでより明らかに多い発生がみられている(図 6)。全国での傾向と同様に輸入例を発端とするものが多く、世界的にも麻しんが多く報告されている地域の一つである東南アジアをはじめ、アジア各国から多数の入国者が見込まれる愛知・名古屋 2026 大会においては、輸入例を発端としたアウトブレイクが発生するリスクが高い。
麻しん感染者の海外からの流入に起因する集団発生を抑え込むためには、2 回の定期接種の接種率を 95%以上に維持し、麻しんに対する抗体保有率をすべての年齢層で高く維持することが必要となる。2024 年度の全国の麻しん含有ワクチン接種率は第 1 期 92.7%、第 2 期 91.0%18)、愛知県では第 1 期 93.4%、第 2 期 92.0%でいずれも 目標値である95%を下回り20)、前年度からさらに低下した。また、2024 年度感染症流行予測調査では、麻疹抗体陽性と判断されるEIA抗体価 4.0 以上の抗体保有率は全国で86.6%であり、接種年齢に満たない0-1歳児や、10 代等で抗体保有率の低さが指摘されている21)。
国内には 2 回の接種未完了者が一定数存在することから、大会参加選手、大会関係者関連スタッフ(医療、宿泊、警備、清掃、ボランティア)においては、罹患歴がなく、2 回のワクチン接種歴が明らかでない場合には、接種を推奨する 22)。また、入国する大会参加選手、大会関係者に対しても入国までにワクチン接種歴を確認し、必要に応じてワクチン接種を行っておくことが推奨される。
9.2 侵襲性髄膜炎菌感染症
侵襲性髄膜炎菌感染症も、マスギャザリングイベントにおいて注意すべき感染症のひとつとして位置付けられている 23)24)。西~中央アフリカのサハラ砂漠以南のいわゆる「髄膜炎ベルト地帯」が最も流行の大きな地域ではあるが、アジア地域でも発症者は確認されており、北米やヨーロッパ諸国でもアウトブレイクの事例が報告されている 25)。世界では毎年約 30 万人の患者が発生し、約 3 万人が死亡している。国内でも過去に集団感染の事例が報告されている 26)。
国内では2013 年から 2019 年までは年 20-40 例の報告があり、COVID-19 流行下では減少したが、 2023 年は 21 例、 2024 年は 66 例、 2025 年には過去最多の 86 例となった。愛知県、名古屋市での患者数は年間数例と少ないが、最近の国内における報告数は増加傾向である。致命率 10-15%とされる重症度の高い疾患であり、国際的マスギャザリングイベントでの集団発生のリスクを常に念頭に置くべき疾患である。
図 7 2014 年 1 月1日から 2025 年末までの感染症発生動向調査における侵襲性髄膜炎菌感染症患者届出数の推移
(2026 年 6 月 3 日時点)
東京 2020 大会では、希望する医療関係者に対して髄膜炎菌ワクチンの接種が実施された、国内初の取り組みとなった 26)。愛知・名古屋 2026 大会においても、感染リスクを踏まえ、医務室及び救護室に従事する医療従事者のうち希望者に対し、ワクチン接種を実施する。
9.3 中東呼吸器症候群(MERS)
ヒトコブラクダを宿主とする MERS コロナウイルスによる呼吸器感染症で、2012 年の報告以来、中東地域を中心に感染が拡大した。致命率は 30-40%と非常に高い。家族間、感染対策が不十分な医療機関などにおける限定的なヒト‐ヒト感染も報告されている。
2019 年 7 月以降の感染報告は、サウジアラビアを中心とする中東地域に限られ(図 8)、発生状況も低調である(図 9)。輸入のリスクはかなり低くなっていると考えられるが、大会関係者で発生した場合は、地域の医療・公衆衛生への負荷が大きくなるため、注意すべき感染症である。

(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou19/mers.html)より引用

9.4 腸管出血性大腸菌感染症
病原性大腸菌のうち、ベロ毒素を産生する腸管出血性大腸菌によって発症する腸管出血性大腸菌感染症は、無症状から致死的なものまで様々な臨床症状が知られている。特に、腸管出血性大腸菌感染に引き続いて 7-9%が溶血性尿毒症症候群(HUS)を発症するとされ、腎障害や中枢神経障害を合併する重篤な病態となる。
全国では年間 3000-4000 件、愛知県内では年間 150 件前後の発生が報告されている(図 10)。発生時
期は初夏から初秋に多いが、冬でも発生する(図 11)。愛知・名古屋 2026 大会の開催時期である 9月中旬から 10 月下旬は、発生時期のピークは過ぎているものの、依然として発生件数が多い時期である。
図 10 2014 年 1 月 1 日から 2025 年末までの感染症発生動向調査における腸管出血性大腸菌感染症患者届出数の推移
(2026 年 6 月 3 日時点)
図 11 週別の腸管出血性大腸菌感染症患者数(全国)
腸管出血性大腸菌による食中毒事例は、食肉を生や加熱不足で食べて感染する事例が多いが、生鮮野菜での感染事例も発生している。汚染された食品の流通が広域にわたる場合、複数の自治体で患者が発生する事例もみられる。食品を介した大会関係者での感染拡大に注意が必要であり、会場内外における食品衛生管理体制の構築が重要である。
10. その他の感染症
表 7 その他の感染症のリスク評価
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疾患名 |
リスク評価 |
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ワクチン予防可能疾患(VPD) |
風しん |
国内外で流行状況は低調ではあるものの、ワクチン接種率の低い集団において、輸入例を発端とする集団感染とそれに伴う妊婦における先天性風しん症候群発生の懸念がある。 |
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急性呼吸器感染症 |
COVID-19 |
国内外において増減を繰り返す。早期探知が困難。 |
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季節性インフルエンザ |
国内では例年 10 月頃から増加。アジア諸国の中でもこの時期に感染者数の増加がみられる地域もあり、大会関係者での感染拡大の懸念がある。 |
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新興・再興感染症 |
エムポックス |
2024 年にコンゴ民主共和国を中心としたアフリカ諸国で急増。輸入のリスクと大会関係者での感染拡大リスクはある。 |
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蚊媒介感染症 |
デング熱/チクングニア熱/ジカウイルス感染症 |
国内では持続的な流行はみられていないものの、2014 年には輸入例を発端とした大規模な国内伝播例があった。大会会場周辺ではウイルスを媒介する蚊が生息する環境があり、大会開催時期と蚊の繁殖時期が重なることから、大会関係者のみならず、周辺住民への感染拡大のリスクがある。 |
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食品媒介感染症 |
細菌性赤痢 |
輸入指数の高い感染症であり、輸入のリスクと、食品を介した大会関係者での感染拡大リスクがある。 |
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A型肝炎/E型肝炎 |
輸入のリスクと、食品を介した大会関係者での感染拡大リスクがある。A型肝炎については、性行為感染症としての側面があることにも注意を要する。 |
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感染性胃腸炎(ノロウイルス胃腸炎を含む) |
大会時期、国内の流行状況は例年低調な時期ではあるが、過去の夏季大会でのノロウイルス感染症の散発例の報告、冬季大会での大会関係者に集団発生の報告あり、注意は必要。 |
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その他 |
結核 |
国内では外国生まれ結核患者の割合は増加しており、特に若年層でその割合が高い。外国人労働者や訪日客といったインバウンドの増加に伴う外国由来の結核の割合増加は、輸入のリスクを示している。 |
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梅毒 |
国内でも感染者の増加が顕著であり、性交渉を介した大会関係者への感染波及の懸念がある。 |
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HIV/AIDS |
輸入のリスクと大会関係者での感染拡大のリスクがある。 |
11. 対策
感染症リスク評価の結果を踏まえ、想定されうる感染症対策 を以下に挙げた。
11.1 事前の対策
関係自治体
- 地域住民に対しての感染症対策に関する啓発
- 麻しん・風しんワクチン接種の啓発(特に観光業を中心とした不特定多数と接する機会のある業務の従事者について)
- 医療機関における、輸入感染症を中心とした普段診療することが少ない感染症に関する認知向上
- 輸入感染症を中心とした比較的まれな感染症の検査体制の確認と周知
- 食品・環境衛生関連の部署との連携強化
- 事例発生時対応機能(愛知県、名古屋市、関係自治体、国との連携)の強化(感染症発生訓練、患者搬送訓練等による)
組織委員会
大会関連施設
- 各会場の医療・救護体制の構築
- 各会場の水質管理・衛生管理体制の構築
- 各会場の食品の衛生管理体制の構築
大会参加者、大会関係者、大会関連スタッフ(医療、宿泊、警備、清掃、ボランティア)
- 基本的な感染症対策に関する教育、訓練及び啓発
- 麻しん・風しんなどの VPD ワクチン接種の推奨等
☆大会関連の医務室や救護所等で患者対応する医療従事者については希望者に髄膜炎菌ワクチンの接種を行う
11.2 強化サーベイランス
特に注意すべき感染症である麻しん、中東呼吸器症候群(MERS)、侵襲性髄膜炎菌感染症、腸管出血性大腸菌感染症の4疾患を強化サーベイランス対象疾患とする。強化サーベイランス期間は2026 年 9 月 1 日から 11 月 7 日(愛知・名古屋 2026 大会終了 2 週間まで)とする。
関係自治体
- 強化サーベイランス対象疾患に対し、異常探知時における対応手順を作成し、関係者間で共有する。感染症サーベイランスシステムを活用し、医療機関の感染症対策担当者との情報共有体制を確立する
- 組織委員会と関連自治体の公衆衛生担当局(特に感染症、食品衛生)との連携を強化し、担当窓口の明確化、役割分担、情報(サーベイランス情報や感染症(疑い)発生状況)の共有、公表基準等の共有を行う
- 医療救護施設と地域の公衆衛生担当部局との連携体制を確認し、窓口の明確化、情報共有を行う
- 強化サーベイランス対象疾患および疑似症サーベイランスについて事例発生時の関係機関の連携体制の確認のため、運用に関する説明および訓練の実施を行う
組織委員会
- 大会参加選手・関係者、大会関連スタッフの健康状態を把握し、情報収集及び評価体制を強化する
12. 結語
愛知・名古屋 2026 大会における感染症リスク評価を行い、それに対する対策を検討した。本大会においては、現在の世界的な流行状況、輸入例増加の可能性、大規模感染の懸念かつ重症度などを考慮し、特に注意すべき感染症を、麻しん、中東呼吸器症候群、侵襲性髄膜炎菌感染症、腸管出血性大腸菌感染症とした。しかし、大会開催までに感染症の流行状況は刻々と変わる可能性があり、今後も変化しうる国内及び国外の感染症発生状況に対し、情報を的確に判断し柔軟に対応する姿勢を続ける必要がある。
愛知・名古屋 2026 大会の感染症対策として、事前においてはリスク評価と感染症に対する知識やワクチン接種などの啓発活動、期間中においてはサーベイランスの強化と関係機関との情報共有、事後においては大会を振り返っての評価を行い、得られた経験や構築したシステムを今後の感染症対策にレガシー(遺産)として生かすことが期待される。
13. 謝辞
本感染症リスク評価の作成に当たり、ご協力を賜りました名古屋市立大学大学院医学研究科 感染症学分野 伊東直哉教授、名古屋大学大学院医学系研究科 分子病原体細菌学 柴山恵吾教授に深謝いたします。
14. 文献及び資料
1) World Health Organization (WHO). Public health for mass gatherings: key Geneva: WHO; 2015. Available at:
https://www.who.int/publications/i/item/public-health-for-mass-gatherings-key-considerations
2) Yezli S, et Meningococcal disease during the Hajj and Umrah mass gatherings. Int J Infect Dis. 2016;47:60–64.
doi:10.1016/j.ijid.2016.04.007
3) Kanai M, et Meningococcal disease outbreak related to the World Scout Jamboree in Japan, 2015. Western Pac Surveill Response J. 2017 May 8;8(2):25-30.
doi: 10.5365/WPSAR.2016.7.3.007.
4) 和田耕治. 厚生労働行政推進調査事業費補助金(新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究事業)分担研究報告書. 国際的なマスギャザリング時のリスクマネジメント. 2019.
5) European Centre for Disease Prevention and Control (ECDC). Mass gathering events and communicable Considerations for public health authorities. Stockholm: ECDC; 2024. Available at:
6) 国立健康危機管理研究機構. 東京オリンピック・パラリンピック競技大会開始に向けての感染症リスク評価(更新版). 2021 年 6 月 23 日
7) 厚生労働省健康局結核感染症課 事務連絡. 「2020 年東京オリンピック・パラリンピック競技大会に向けての感染症のリスク評価~自治体向けの手順書~」について. 2017 年 10 月 5 日.
8) 国立健康危機管理研究機構. マスギャザリングイベント(東京 2020 大会)と感染症対策. 病原微生物検出情報(IASR). 2022; 43(7): 153-154
9) 国立健康危機管理研究機構. 東京 2020 オリンピック・パラリンピック競技大会中の強化サーベイランス活動とリスク評価について. 病原微生物検出情報(IASR). 2022;43(7):155-156
10) 国立健康危機管理研究機構. 2025 年日本国際博覧会(大阪・関西万博)に向けての感染症リスク評価. 2024 年 1 月 9 日
11) European Centre for Disease Prevention and Control (ECDC)/World Health Organization Regional Office for Europe (WHO Europe). Joint public health advice for travellers attending the 2024 Summer Olympic and Paralympic Stockholm: ECDC; 2024. Available at:
12) 国立健康危機管理研究機構. 感染症発生動向調査事業年報 2024. 2026 年 3 月 2 日
13) 公益法人結核予防会. 結核の統計 東京: 結核予防会: 2025
14) World Health Organization (WHO). Disease Outbreak News (DONs). Geneva: WHO; Available at:
https://www.who.int/emergencies/disease-outbreak-news
15) 国立健康危機管理研究機構. 日本の輸入感染症例の動向について. 2026 年 5 月 11 日.
16) 国立健康危機管理研究機構. 感染症発生動向調査週報(IDWR).
17) World Health Organization (WHO). Measles and Rubella Global Update July Geneva: WHO; 2024. Available at:
https://immunizationdata.who.int/global?topic=Provisional-measles-and-rubella-data&location=
18) 国立健康危機管理研究機構. 麻しんの発生に関するリスクアセスメント(2026 年第一版). 2026 年 6月 2 日
19) World Health Organization (WHO). UNICEF and WHO warn of perfect storm of conditions for measles outbreaks, affecting children. Geneva: WHO; 2022. Available at:
20) 厚生労働省健康・生活衛生局感染症対策部予防接種課 国立健康危機管理研究機構国立感染症研究所予防接種研究部 都道府県別麻しんワクチン接種率 2024年度最終評価 接種対象群別結果一覧 2026 年 6 月 30 日
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou21/dl/250929-02.pdf
21) 国立健康危機管理研究機構感染症情報提供サイト. 麻疹の抗体保有状況―2024年度感染症流行予測調査(暫定結果). IASR Vol.46 p142-144, 2025年7月号. 2026 年 6 月 30 日
22) 国立健康危機管理研究機構. 東京 2020 オリンピック・パラリンピック競技大会における感染症対策としての麻しんワクチン接種. 病原微生物検出情報(IASR). 2021;42(9):185-187
23) 日本感染症学会. 国際的マスギャザリングに関連したワクチン. 2025 年 4 月 13 日
https://www.kansensho.or.jp/ref/vaccine.html
24) 国立健康危機管理研究機構. 侵襲性髄膜炎菌感染症発生時対応ガイドライン(第二版). 2025 年 3月 28 日
25) S. Centers for Disease Control and Prevention(CDC). Meningococcal Disease. Atlanta: CDC; 2024. Available at:
https://www.cdc.gov/meningococcal/index.html


