IASR 44(8), 2023【特集】ポリオ 2023現在
公開日:2023年8月30日
(IASR Vol.44 p113-114:2023年8月号)
急性灰白髄炎(ポリオ)は、ポリオウイルスが中枢神経に感染し、運動神経細胞を不可逆的に障害し、弛緩性麻痺等を生じる感染症である。ポリオウイルスには、3つの血清型(1、2、3型)がある。治療薬は存在せず、3つの血清型のポリオウイルスに対するワクチン接種が、ポリオの発症予防・流行制御の基本戦略になる。
日本では、ポリオは感染症法において2類感染症に分類され、診断した医師は、ポリオを発症した患者(すべての株のポリオウイルスによるもの)および無症状病原体保有者(1および3型のワクチン株以外のポリオウイルスによるもの)を届け出なければならない(https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-02-01.html(外部サイトにリンクします))。ポリオのサーベイランスでは、ポリオの典型的な症状である急性弛緩性麻痺(AFP)を発症した患者の便検体からポリオウイルスを分離し、分離株の同定・遺伝子解析が行われる。なお、AFPは2018年5月1日から5類感染症全数把握対象疾患に追加された。
ポリオ根絶の進行状況
野生株ポリオウイルス(WPV)
1988年、世界保健機関(WHO)は世界ポリオ根絶計画を提唱した。2022年のWPVによるポリオ症例数は全世界で30症例であり、1988年当時の推計(35万以上の症例数)から大幅に減少した。3つの血清型のうち、2型WPVによる症例は1999年のインドの症例が最後であり、2015年9月に世界ポリオ根絶認定委員会により2型WPVの根絶が宣言された。3型WPVによる症例は2012年のナイジェリアの症例が最後であり、2019年10月に3型WPVの根絶が宣言された。2023年の時点で流行しているWPVは1型のみであり、流行国はパキスタンとアフガニスタンの2カ国のみである(図)。しかし、2021~2022年には、流行地域に由来するWPVが流行地から遠く離れたアフリカのマラウイ、その後モザンビークで流行を引き起こすなど、WPVの根絶達成の見通しは楽観できない状況である(本号3ページ)。
ワクチン由来ポリオウイルス(VDPV)
2000年にハイチおよびドミニカ共和国で生じたVDPV流行の報告以来、低いワクチン接種率が原因で感受性者が増加し、その間で流行が継続することにより病原性が復帰したVDPVが世界各地から報告されている。2023年の時点では、主にアフリカで伝播型(circulating)VDPV(cVDPV)が報告されている(図)。2022年のcVDPVによる確定症例数は全世界で868症例と、WPVによる症例の20倍以上であり、世界ポリオ根絶計画の大きなリスク要因になっている。WHO西太平洋地域(WPR)では、2000年にWPV伝播の終息が宣言されたが、2015年にラオスにおいて1型cVDPVの流行、2018年にパプアニューギニアにおいて1型cVDPVの流行、2019~2020年にはフィリピンおよびマレーシアにおいて1型および2型cVDPVの同時流行が発生した(本号4ページ)。WPR外では、2022年に、イスラエルで流行していた株と遺伝的な関連を持つ2型cVDPVによるポリオ症例(米国のみ)およびウイルスの伝播が米国、英国、カナダで確認された(本号3ページ)。そのため、WPVが排除された地域においても、cVDPVが出現あるいは伝播するリスクが無視できない状況である(本号4ページ)。
ポリオワクチンの状況
日本では、2012年9月に、定期接種で用いられるワクチンが三価経口生ポリオワクチン(tOPV)から不活化ポリオワクチン(cIPV)に切り替えられ、11月からは世界に先駆けてワクチン株であるSabin株を不活化したsIPVとジフテリア・百日せき・破傷風混合ワクチンを混合した4種混合ワクチンDPT-sIPVが導入された。ワクチン接種率は、研究班による調査により95%以上であることが報告されている。感染症流行予測調査における感受性調査により、2022年の時点で5歳未満における高い抗体保有率が確認されている(本号8ページ)。現在、国内および国外において、新たなワクチンの開発が進められている(本号10ページ)。
日本におけるポリオサーベイランス
日本では、感染症法に基づくポリオとAFP症例の全数届出、および感染症流行予測調査事業における感染源調査により、WPVおよびVDPVの輸入・伝播を検出する体制が整備されている(本号3ページ、11ページ)。感染源調査では、2013年度から不顕性ポリオウイルス感染によるウイルス伝播を捕捉するため、環境水からのポリオウイルス調査を行っている。日本では、2012年に発症し2013年に診断されたワクチン株によるワクチン関連麻痺症例(1例)以降、ポリオ確定症例は届出されていない。
ポリオウイルスの実験室診断およびバイオリスク管理
世界ポリオ根絶計画におけるポリオサーベイランスでは、WHO標準法に基づいて、便検体から培養細胞を用いてポリオウイルスの分離・検出が行われている。分離されたポリオウイルスは、real-time RT-PCRによる型内鑑別(WPV、ワクチン様株、VDPVの鑑別)が行われる。WPVもしくはVDPVと判定されたポリオウイルス分離株は、塩基配列の解析が行われ、型内鑑別(WPV、ワクチン様株、VDPVの鑑別)が確定される。1、2、3型ポリオウイルスでは、VP1領域の塩基配列にワクチン株と比較して各々10、6、10個以上の核酸変異が入っていた場合にVDPVと分類される。ワクチン株と比較してVP1領域の塩基配列が85%未満の相同性を示した場合には、WPVと分類される。WPV、VDPVおよび2型ポリオウイルス(2型についてはワクチン様株を含む)が分離された場合には、WHOに速やかに報告しなければならない。
2022年にWHOより公開されたポリオウイルス・バイオリスク管理に関する世界的行動計画改訂第四版(GAP4)では、ポリオウイルス封じ込めを目指し、厳格化されたポリオウイルスの取り扱い基準が示された(本号13ページ)。感染性ポリオウイルス取り扱い基準の厳格化に対応し、培養細胞を用いずに検体からポリオウイルスの核酸を直接検出する方法の開発が現在進められている。
今後の課題
WHOポリオ根絶の最終段階戦略とその実施計画2022~2026(Delivering on a Promise: Polio Eradication Strategy 2022-2026; https://polioeradication.org/wp-content/uploads/2022/06/Polio-Eradication-Strategy-2022-2026-Delivering-on-a-Promise.pdf(外部サイトにリンクします)(PDF:8.8 MB))では、1型WPVおよびcVDPVの根絶がゴールとして掲げられており、2023年に1型WPVの伝播終息および2型cVDPVの最後の分離、2026年に1型WPVの根絶宣言および2型cVDPVの伝播終息が期待されている。これと並行して、GAP 3/4に定められたポリオウイルスのバイオリスク管理体制の整備が進められており、サーベイランス、試験、ワクチン製造において、可能な限り感染性ポリオウイルスを用いない技術の開発が求められている。
日本ではIPVによる高いワクチン接種率が維持されており、ポリオ患者の発生リスクは低いと想定される。しかし、海外ではいまだにポリオが流行している地域もあるため、WPV/cVDPVの輸入・伝播に対する監視を今後も継続する必要がある。