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診療ガイドライン等に基づくマイコプラズマ肺炎治療の現況

公開日:2024年1月30日

(IASR Vol.45 p10-12:2024年1月号

感染症診療ガイドラインの策定には、地域における年齢による病原微生物の検出頻度等の疫学データならびに、各微生物の抗菌薬感受性に関する情報が必要である。肺炎マイコプラズマ(Mycoplasma pneumoniae: M.pneumoniae)は、マクロライド系抗菌薬、テトラサイクリン系抗菌薬、ニューキノロン系抗菌薬に感受性を有していたが、2000年以降にマクロライド耐性M.pneumoniae株が出現1-3)して増加した。マクロライド耐性株の検出率は、世界的に地域差があり、さらに小児において高率なため、推奨される抗菌薬を含めて診療ガイドラインの内容も、国内外および年齢により差異がある。さらに、2020年以降世界的に流行した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、多くの感染症罹患率に多大な影響をきたした。M.pneumoniaeに関しても、COVID-19パンデミック前に比較して、検出率が激減した報告4,5)が多い。

1.マクロライド耐性状況の推移

2000年以降に小児科領域を中心に出現したマクロライド耐性M.pneumoniaeは、その後増加がみられ、成人では当初マクロライド耐性株は検出されなかったが、小児科領域を追随するペースで耐性株が増加した。2011~2012年の流行時には、83%がマクロライド耐性であったとの報告2)があり、大流行に関してマクロライド耐性M.pneumoniae株の蔓延が要因の1つと認識されている。マクロライド耐性率は、2012年をピークに低下傾向にある。一方、M.pneumoniaeは、P1タンパク遺伝子の相違により、1型、2型系統に分類され、1型系統と2型系統の交代期に大流行が起こる可能性も指摘6,7)されている。2011~2012年にかけて流行の主であった1型系統の検出比率が2015年後半より減少し、代わって2型系統の検出比率が増加している。1型系統はマクロライド耐性遺伝子の保有率が高かったが、2型系統の耐性遺伝子保有は低率である7)。これが、マクロライド耐性株の低下の主因と考えられる。

マクロライド耐性M.pneumoniaeの検出率には世界的に地域差があり、東アジアでの検出率が高く、2017年頃までの状況は、Waitesらの総説1)に詳しい。その後のメタアナリシス等の報告を表18,9)に示すが、アジアを含めて西太平洋地域からの検出率が高い。わが国を含めて、2010年代後半以降のマクロライド耐性率は減少傾向7)にある。

2.COVID-19パンデミック前後におけるM.pneumoniae検出状況

2017~2021年の調査期間についてM.pneumoniae検出状況を比較したデータ4)によると、2020年4月~2021年3月の期間では、2017年~2020年3月までの期間と比較して、ヨーロッパ、アジア、アメリカ、オセアニアともにM.pneumoniaeの検出が激減していた。中国北京の小児病院において、2016~2021年の期間にM.pneumoniae検出率を比較したデータ5)でも、2019年は17.6%、2020年は8.9%、2021年は5.0%と激減している。

3.M.pneumoniae肺炎診療ガイドライン等

現在、わが国で公表されている診療ガイドライン等で、M.pneumoniae肺炎の項を含むものは、JAID/JSC感染症ガイド2023(日本感染症学会・日本化学療法学会)10)、成人肺炎診療ガイドライン2017(日本呼吸器学会、改訂中)11)、小児呼吸器感染症診療ガイドライン2022(日本小児呼吸器学会・日本小児感染症学会)12)M.pneumoniae肺炎に対する治療指針(日本マイコプラズマ学会)13)がある。海外では、American Thoracic Society(ATS)およびInfectious Diseases Society of America(IDSA)14)やAmerican Academy of Pediatrics(AAP)15)より、市中肺炎やM.pneumoniae肺炎に対する抗菌薬療法が推奨されている。

わが国の診療ガイドライン等では、M.pneumoniae肺炎外来治療の第一選択薬はマクロライド系抗菌薬が推奨され、48時間以上臨床的に改善がみられない場合は、テトラサイクリン系抗菌薬(小児では8歳以上)や、ニューキノロン系抗菌薬(小児ではトスフロキサシン)に変更することがおおむね共通して記載されている。一方で、ATSとIDSAによるガイドライン14)には、マクロライド耐性M.pneumoniaeに関する記述や耐性菌感染症を考慮した治療についての言及はみられない。AAPによるRed Book 2021-202415)でも、マクロライド耐性M.pneumoniae株についての記載はあるものの、ニューキノロン系抗菌薬を使用することは推奨されていない。

さらに小児呼吸器感染症診療ガイドライン202212)では、Qプローブ法でマクロライド耐性遺伝子が検出されている場合は、トスフロキサシンやテトラサイクリン系抗菌薬を選択肢に考慮すべきとの記載がある。当院で施行したQプローブ法(Smart Gene)に関する検討では、細胞培養法(国立感染症研究所細菌第二部で実施)に対するSmart Geneの感度、特異度は、各々98.0%、100%であった。さらに、培養で得られた菌株を用いた23S rRNA遺伝子塩基配列分析によるマクロライド耐性遺伝子同定とSmart Geneによる耐性遺伝子変異検出とを比較すると、感度、特異度は、各々100%、97.4%であった。新型コロナウイルス病原体検出の過程で、Qプローブ法検査機器が以前より普及しており、今後耐性遺伝子の有無を確認したうえで、より適切な抗菌薬療法に寄与することが期待される。

マイコプラズマ肺炎に関して、わが国の感染症サーベイランス(本号特集および本号8ページ参照)のデータでは、2020年4月以降ほとんど報告されない状況が持続したが、2023年秋以降にわが国でもM.pneumoniae肺炎の報告がみられるようになり、今後の流行が予測される。2020年春に、こつぜんと検出されなくなったM.pneumoniae感染症であるが、再流行する場合に、前述した1型あるいは2型のいずれが立ち上がってくるのか、マクロライド感受性について感受性株・耐性株のいずれが多くを占めるのかは、感染症疫学的にも興味深いが、臨床現場に多大な影響を及ぼす可能性がある。現在のわが国の医薬品流通状況に関して、鎮咳薬、去痰薬のみならず、抗菌薬に関しても出荷制限が反復されている16-21)。このような状況下で、2011~2012年や2016年のような規模でM.pneumoniae肺炎の流行が生じると、処方薬不足など、現場がさらに混乱する事態になることが危惧される。

参考文献

  1. Waites KB, et al., Clin Microbiol Rev 30: 747-809, 2017
  2. Kawai Y, et al., Antimicrob Agents Chemother 57: 4046-4049, 2013
  3. Yamazaki T and Kenri T, Front Microbiol 7: 693, 2016
  4. Sauteur PMM, et al., Euro Surveill 27: 2100746, 2022
  5. Cheng Y, et al., Front Cell Infect Microbiol 12: 854505, 2022
  6. Kenri T, et al., J Med Microbiol 57(Pt 4): 469-475, 2008
  7. Kenri T, et al., Front Cell Infect Microbiol 10: 385, 2020
  8. Kim K, et al., JAMA Netw Open 5: e2220949, 2022
  9. Wang G, et al., J Antimicrob Chemother 77: 2353-2363, 2022
  10. JAID/JSC感染症治療ガイド・ガイドライン作成委員会(三笠桂一委員長), 日本感染症学会・日本化学療法学会, JAID/JSC感染症治療ガイド2023, 成人の肺炎. 市中肺炎 Mycoplasma pneumoniae, p.115, 2023
  11. 日本呼吸器学会成人肺炎診療ガイドライン2017作成委員会(河野 茂委員長), 日本呼吸器学会, 成人肺炎診療ガイドライン2017, p.21-22, 2017
  12. 小児呼吸器感染症診療ガイドライン作成委員会(日本小児呼吸器学会・日本小児感染症学会), 日本小児感染症診療ガイドライン2022, 小児のマイコプラズマ感染症に対して, 抗菌薬投与は推奨されるか, 石和田稔彦, 新庄正宜監修, 協和企画, 2022
  13. 日本マイコプラズマ学会, 肺炎マイコプラズマ肺炎に対する治療指針
    https://plaza.umin.ac.jp/mycoplasma/guidelines(外部サイトにリンクします)
    https://plaza.umin.ac.jp/mycoplasma/wp-content/themes/theme_jsm/pdf/shisin.pdf(2014年8月初版, 2019年7月改訂)(外部サイトにリンクします)(PDF:1,568 KB)
  14. Metlay JP, et al., Am J Respir Crit Care Med 200: e45-e67, 2019
  15. Kimberlin DW, et al., Red Book: 2021-2024, Report of the Committee on Infectious Diseases(32nd ed), American Academy of Pediatrics: 543-546, 2021
  16. ジスロマック細粒小児用10% 一時的な出荷停止及び限定出荷のご案内(2023年12月)
    https://www.kansensho.or.jp/uploads/files/news/gakkai_231207.pdf(外部サイトにリンクします)(PDF:156 KB)
  17. クラリスロマイシンドライシロップ10%小児用「大正」に関する出荷停止のご連絡とお詫び(2023年11月)
    https://medical.taisho.co.jp/di/oshirase/others/202310agcld.pdf(外部サイトにリンクします)(PDF:112 KB)
  18. クラリスロマイシン錠50mg小児用「日医工」出荷停止に関するお知らせ(2023年10月)
    https://www.nichiiko.co.jp/medicine/files/20230927cI1.pdf(外部サイトにリンクします)(PDF:508 KB)
  19. オゼックス錠・細粒・錠小児用, トミロン細粒限定出荷のご連絡とお詫び(2023年6月)
    https://asset-hc.fujifilm.com/hc/fftc/files/news/2023-06/05d13266795923c1b94d7e04136c7d4e/fftc_news_230613.pdf(外部サイトにリンクします)(PDF:398 KB)
  20. ジェニナック錠 200mgに関する限定出荷のご連絡とお詫び(2023年6月)
    https://asset-hc.fujifilm.com/hc/fftc/files/news/2023-06/f31ceb241d16e1e9a17ead0177069fd7/fftc_news_230601.pdf(外部サイトにリンクします)(PDF:166 KB)
  21. 供給状況(限定出荷・出荷停止)・一部包装欠品 対象製品一覧(2023年12月閲覧)
    https://med.sawai.co.jp/pdf/announce/announce13.pdf(外部サイトにリンクします)(PDF:272 KB)

若葉こどもクリニック
山崎 勉

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