冷却塔からの曝露が示唆されたレジオネラ症集積事例を経験して(第1報) ~疫学調査と施設対応について~
公開日:2024年7月31日
冷却塔からの曝露が示唆されたレジオネラ症集積事例を経験して(第1報)~疫学調査と施設対応について~
(IASR Vol. 45 p114-116: 2024年7月号)
はじめに
当保健所管内の一定地域(曝露源と示唆された冷却塔を含む半径約1.5km以内)にて、 例年を上回る、 約1カ月間に20名のレジオネラ症患者の発生を経験した。当保健所は曝露源探索のため、 積極的疫学調査を繰り返し行うとともに、 詳細な地区踏査および施設調査等を行った。あわせて、 速やかに患者から喀痰を、 施設から採水検体を確保し、 遺伝子解析を用いた曝露源のさらなる絞り込みを行った。第1報である本稿では本事例における疫学調査と施設対応を、 第2報(本号10ページ)では検査対応および分子疫学的解析を報告する。
積極的疫学調査
患者の行動歴等には、 全員に共通する利用施設等はなかった。また、 2名が利用していた公衆浴場、 遊泳場(採暖槽)から採水し検査したが、 レジオネラ属菌は検出されず、 維持管理状況にも問題はなかった。行動歴に共通項をみつけるため、 複数患者が利用していた施設名等を織り交ぜながら外出をともなう行動歴を再度聞き取ったが、 全員に共通する利用施設等はなかった。そこで、 患者の自立度は高く、 全員外出習慣があったことから、 屋外曝露源等がないか地区踏査を行った。
地区踏査
患者が発生した地域の冷却塔、 水景施設、 ミスト発生機や工事現場等を踏査した結果、 ミスト発生機は確認されず、 水景施設は1施設確認したが、 エアロゾルが飛散するような施設ではなかった。工事現場については、 自然環境に近い状態であった。これらを踏まえ、 感染リスクが高いと考えられる冷却塔等の人工環境を優先して調査を進めた。「建築物における衛生的環境の確保に関する法律」に基づく特定建築物の届出状況、 航空写真、 目視による現場確認等から、 当該地域には、 20施設に冷却塔があると推定された。さらに調査を進めると、 調査時点において使用が確認された冷却塔は12施設25基であった。
検査結果および冷却塔への調査・指導
25基から冷却塔水を採水し、 9施設17基でレジオネラ属菌が検出され、 最高検出菌数はA施設の屋上に設置されたB冷却塔で1.9×105CFU/100mLであった。これら9施設の冷却塔管理者に感染リスクを説明し、 直ちに清掃・消毒を指導した。
パルスフィールドゲル電気泳動(PFGE)の結果、 B冷却塔由来株が、 喀痰培養陽性8名の分離株と類似度90%以上を示した。sequence-based typing(SBT)の結果、 当該冷却塔由来株と7名の患者由来株の遺伝子型は一致し、 残り1名は1遺伝子領域を除いて一致した(本号10ページ第2報参照)。以上より、 B冷却塔が本事案の曝露源と推定され、 施設管理者にさらに徹底した清掃・消毒を再度指導した。その結果、 消毒等後の再検査では、 B冷却塔は陰性に、 その他の冷却塔のレジオネラ属菌数は指針値未満となった。レジオネラ症の潜伏期間(2~10日)等を総合的に勘案し、 B冷却塔の清掃・消毒後14日以降に新たな患者の発生がないことを確認したうえで、 終息とした。
B冷却塔の維持管理状況について
B冷却塔は開放式の直交流型(角型)で、 用途は空調用、 冷却塔水量は約340m3/時、 運転期間(運転時間)は5~10月(9~21時)のほぼ毎日稼働、 補給水は水道水を使用していた。維持管理状況は、 冷却塔水に複合処理薬剤の常時注入や、 年1回使用開始前に冷却塔の清掃とレジオネラ属菌検査を実施、 月1回定期点検で、 冷却塔水の電気伝導率等の維持管理項目の水質検査を実施、 日に1回日常点検で、 稼働状況、 破損状況、 薬品残量を確認していた。
図に示すように、 X-27日の定期点検では冷却塔に異常はなく、 X-18日に判明した水質検査結果はレジオネラ属菌が陰性であった。X-4日の定期水質検査にて冷却塔水で電気伝導率が管理目標値の2倍を超過する値であったことが、 X+7日に判明した。超過した理由として、 電気伝導率を感知し、 自動で給排水を行う自動ブロー用の電磁弁の動作不良等による可能性が、 水質検査機関から指摘されていた。後日、 電磁弁が一時的に固着していたことが判明した。
考察
冷却塔は、 冷凍機等で発生した熱を、 冷却塔水を介して大気へ放出する設備である。冷却塔水は熱を放出する際に一部蒸発し、 徐々に水中の塩類が濃縮され、 微生物の発育に好適な条件が整うことがある。そのため、 レジオネラ属菌が増殖する要因となり得る。曝露源と推定されたB冷却塔は、 冷却塔水が過濃縮し、 水質等が悪化していたこと、 レジオネラ属菌対策としての薬剤を常時添加していたが、 過濃縮した冷却塔水には薬剤効果が低下していたこと、 前年よりも気温が高い気象条件等、 レジオネラ属菌が増殖したと思慮された。また、 B冷却塔は屋上の端部に設置されており、 風を遮る物がなく冷却塔水を拡散し得る状態であった。日常点検、 定期点検、 年1回の清掃等の維持管理を実施していたが、 機械の動作不良を指摘された時点で、 強制ブローなどの水質改善や原因探索が十分になされなかったことがレジオネラ属菌の増殖・拡散に繋がったと考察された。後日、 これらについて管理者から改善計画書の提出があり、 冷却塔管理の見直しに繋がった。
結語
レジオネラ症患者の複数発生について、 当初感染源不明であったが、 分子疫学的解析の結果から、 曝露源の可能性がある施設として冷却塔1基に絞り込むことができた。関係専門職が協働した疫学調査と地区踏査による曝露源の推定や指導等により、 早期に終息することができた。本事例より以下の知見が得られた。患者の自立度が高く、 外出習慣がある患者が集積している場合は、 屋外での曝露を視野に入れる必要がある。特定建築物の空調用冷却塔に限り、 届出ならびに点検・清掃の維持管理基準はあるものの、 レジオネラ属菌の水質検査は法律上規定されていない。それ以外の冷却塔は、 設置に関し法的な届出もないため所在把握が難しく、 その管理も施設側の自主性に任せられている。今後、 届出対象施設の拡大や管理基準項目の拡充等、 制度化に向けた検討を期待したい。
謝辞: 患者調査等に御協力をいただきました医療機関の皆様に感謝申し上げます。また、 本事例の対応にあたり、 専門的助言を賜りました地方独立行政法人 大阪健康安全基盤研究所 柿本健作氏をはじめとする関係各課の皆様に深謝いたします。
大阪府茨木保健所
小林慶吾 井上靖彦 尾沼大輔 板東知子 島野元伸
福村和美 山内一寛 西田伸子 木下 優
大阪府健康医療部
杉山真理子 宮内留美 永井仁美