2023年度・2024年度風疹予防接種状況および抗体保有状況―感染症流行予測調査2023年度(暫定結果), 2024年度(速報値)
2023年度・2024年度風疹予防接種状況および抗体保有状況―感染症流行予測調査2023年度(暫定結果), 2024年度(速報値)
(IASR Vol. 46 p79-82: 2025年4月号)
はじめに
感染症流行予測調査事業における風疹抗体調査(感受性調査)は1971年度に開始されて以降, ほぼ毎年実施されてきた。本調査は風疹に対する感受性者を把握し, 効果的な予防接種施策を図るための資料にするとともに, 将来的な流行を予測することを目的として, 乳幼児から高齢者まで幅広い年齢層における予防接種状況ならびに抗体保有状況の調査を行っている。
感染症発生動向調査における風疹の届出患者数は, 2013年(14,344人)をピークに減少し, その後一時的に増加に転じたが, 2020年以降は再び報告数が減少し, 2020年101人, 2021年12人, 2022年15人, 2023年12人(暫定値), 2024年9人(暫定値)であった1)。2018~2019年の流行では, 患者の多くは過去に風しん含有ワクチンの定期接種の機会がなく, 風疹に対する抗体保有割合が低い成人男性であった。そのため, この年齢群に対する対策として2019~2021年度まで, 1962(昭和37)年4月2日~1979(昭和54)年4月1日に生まれた男性(2023年度45~61歳, 2024年度46~62歳)が風疹にかかわる定期の予防接種(A類疾病)対象者(第5期)として追加された2)。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)発生にともなう受診控え等の影響を考慮し, 2021年12月に2024年度末(2025年3月末)までの延長が決定された。
今回は, 2023年度と2024年度調査における, 風しん含有ワクチン接種状況および抗体保有状況について報告する。
調査概要
2023年度調査は, 北海道, 茨城県, 栃木県, 群馬県, 千葉県, 東京都, 神奈川県, 新潟県, 石川県, 長野県, 愛知県, 三重県, 滋賀県, 山口県, 高知県, 福岡県の16都道県で実施され, 対象者は4,860人(男性2,694人, 女性2,166人)で, 2024年度調査は, 上記16都道県に加え, 宮城県が参加して17都道県で実施され, 対象者は4,830人(男性2,685人, 女性2,145人)であった。抗体価の測定は各都道県衛生研究所において, 主に7~9月に各地域で採取された血清を用いて赤血球凝集抑制(hemagglutination inhibition: HI)法により行われた。予防接種歴は調査時点における接種状況が調査された。
風しん含有ワクチン接種状況(図1, 図2)
2023年度調査(図1)において, 1回以上接種者(1回・2回・回数不明を含む)の割合は, 1歳の男児で68%, 女児で75%, 2歳の男児で83%, 女児で76%であった。20歳以上群における接種割合は男性が21%(各年齢群の接種率:7-44%), 女性が45%(3-66%)であり, 男性で低かった。風しん含有ワクチンの接種歴が不明であった者の割合は, 0~19歳では男性が7-38%, 女性が2-33%, 20歳以上群では男性が54-87%, 女性が31-84%であり, 20歳以上群では20歳未満群に比べ接種歴不明者が多い傾向にあった。第5期接種対象者(2023年度45~61歳)を含む45~64歳の各年齢群男性の1回以上接種者の割合は, 12-20%であった。
2024年度調査(図2)では, 1回以上接種者(1回・2回・回数不明を含む)の割合は, 1歳の男児で68%, 女児で72%, 2歳の男児で95%, 女児で91%であった。20歳以上群における接種割合は男性が22%(各年齢群の接種率:3-48%), 女性が44%(0-65%)であり, 2023年度と同様に男性で低かった。風しん含有ワクチンの接種歴が不明であった者の割合は, 0~19歳では男性が0-51%, 女性が0-40%, 20歳以上群では男性が45-84%, 女性が34-86%であり,2023年度と同様に20歳以上群では20歳未満群に比べ接種歴不明者が多い傾向であった。第5期接種対象者(2024年度46~62歳)を含む45~64歳の年齢群男性の1回以上接種者の割合は, 10-13%であった。2024年度調査では, 調査対象が10名未満となった男性16歳群は, 調査数が少ないため結果の解釈に注意が必要である。
風疹HI抗体保有状況(図3, 図4)
HI法で陽性と判定されるHI抗体価1:8以上を有する者の割合は, 移行抗体の消失にともない乳児期前半~後半にかけて低下し, ワクチン接種の実施とともに上昇し, 2023年度および2024年度の調査では2歳で95%を超える。
2023年度調査におけるHI抗体価1:8以上の抗体保有割合は, 生後0~5か月で85%, 生後6~11か月で16%, 1歳で72%であった。2歳以降の年齢・年齢群では, おおむね90%以上であった。男女別に比較をすると, 女性では2~64歳の年齢・年齢群において, おおむね90%以上(88-100%)であった。男性40~64歳では90%を下回り, 40~44歳群, 45~49歳群, 55~59歳群が88%, 50~54歳群で89%, 60~64歳群で85%と, 女性に比べて低い傾向であった〔図3男性・女性(▲)〕。2024年度調査におけるHI抗体価1:8以上の抗体保有割合は, 生後0~5か月で67%, 生後6~11か月で14%, 1歳で67%であった。2歳以上の年齢・年齢群では, おおむね90%以上であった。男女別に比較をすると, 女性では2歳以上の年齢・年齢群において, おおむね90%以上(89-100%)であった。男性では45歳以上の年齢群で90%以下(88-90%)となり, 女性に比べて低い傾向であった〔図3男性・女性(■)〕。
1962年4月2日~1979年4月1日生まれ(2023年度45~61歳, 2024年度46~62歳)の者は, 女性のみが風疹の定期接種対象者となっていたことから, この年齢群の男性の風疹抗体保有割合が低い傾向がみられる。2015~2020年度調査では継続して80%前後で推移しており, 定期接種の機会があった1979~1989年度生まれの男性と比較して低かった。2021年度調査では抗体保有率の増加がみられ, 2022~2024年度においては80%後半を維持し, 1979~1989年生まれの男性や同年代の女性と比較して低いものの, その差は減少していることが確認された(図4)。
まとめ
2023年度調査では, 風疹の追加対策(第5期)対象者(2023年度45~61歳, 2024年度46~62歳)の抗体保有割合は, 開始前と比較し増加が認められ, 男女の差は減少する傾向がみられた。1962~1978年度生まれの男性を対象とした風疹の第5期定期接種事業の影響を評価するためにも, 今後も本調査を継続して実施することが重要と考えられた。
参考文献
- 国立健康危機管理研究機構感染症情報提供サイト, 風疹に関する疫学情報:2025年1月29日現在
https://id-info.jihs.go.jp/surveillance/idwr/graph/diseases/rubella/010/index.html - 厚生労働省, 風しんの追加的対策について
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/rubella/index_00001.html
2023年度, 2024年度風疹感受性調査実施都道県
福岡県保健環境研究所 濱崎光宏
群馬県衛生環境研究所 河合優子 兵藤杏花
三重県保健環境研究所 矢野拓弥
山口県環境保健センター
安本早織 川崎加奈子 松本知美
北海道立衛生研究所 三津橋和也 駒込理佳
東京都健康安全研究センター
岡田若葉 糟谷 文 高橋久美子 長島真美
神奈川県衛生研究所 政岡智佳 大屋日登美
長野県環境保全研究所
竹節愛莉 加茂奈緒子 橋井真実
高知県衛生環境研究所
野口 優 佐藤 亘 下元かおり 松本一繁
愛知県衛生研究所 諏訪優希 安井善宏
新潟県保健環境科学研究所
田澤 崇 昆 美也子
栃木県保健環境センター 永木英徳 若林勇輝
茨城県衛生研究所 絹川恵里奈 阿部櫻子
石川県保健環境センター
城座美夏 木村恵梨子 北川恵美子 倉本早苗
千葉県衛生研究所 竹内美夏 吉住秀隆
宮城県保健環境センター
沖田若菜 坂上亜希恵 鈴木優子 佐々木美江
滋賀県衛生科学センター 河原 晶 青木佳代
国立感染症研究所
ウイルス第三部
森 嘉生 坂田真史 梁 明秀
感染症疫学センター
林 愛 菊池風花 新井 智
神谷 元 鈴木 基