兵庫県におけるエコーウイルス11型の検出・分離状況, 2013~2024年
兵庫県におけるエコーウイルス11型の検出・分離状況, 2013~2024年
(IASR Vol. 46 p110-112: 2025年5月号)
エコーウイルス11型(E11)は新生児において, 脳炎, 心筋炎, さらにウイルス血症や肝炎の原因となり重症化する場合があることで知られ, 2023年からその流行が世界的に懸念されている1-3)。黄疸と大量出血, 肝臓, 腎臓の機能不全が起こり致死的なことがある1,2)ため, E11の流行状況の把握は重要である。
そこで, 過去12年間(2013~2024年)に兵庫県の感染症発生動向調査において臨床検体からE11が検出された患者についてまとめたので報告する。この期間に病原体サーベイランスの小児科定点で採取され, エンテロウイルスの検査をした検体は, 手足口病(250名, 283件), ヘルパンギーナ(87名, 94件), 無菌性髄膜炎(172名, 386件), 上気道炎(404名, 485件), 急性脳炎(88名, 248件), その他感染性胃腸炎, 咽頭結膜熱等(2,997名, 4,186件)の合計3,998名の患者から採取された5,682検体であった。3,998名のうち, 臨床症状に肝機能障害の記載があったのは155名248検体であった(2025年4月現在)。
エンテロウイルスの検査は病原体検出マニュアルに準じたPCR法(RT-PCR)により, VP1 and/or VP4-VP2領域の検出と塩基配列による型別を行った4)。その結果, エンテロウイルスが505名565検体から検出され, そのうちE11陽性は15名25検体であった。E11が検出された患者は, 0歳児が最も多く, 11名(73%)を占め, うち6名は生後2週間以内の新生児であった(表)。
E11陽性の0歳児の年別の内訳は次のとおりであった。
2013年:4名から検出され, 上気道炎が1名, 無菌性髄膜炎が2名, 中枢神経系障害, 腎機能障害等を発症した心肺停止が1名であった。全員が生後3か月以内であり, 無菌性髄膜炎と心肺停止(いずれも生後2か月)の乳児2名に肝機能障害が認められた。
2014年:4名から検出。そのうち3名は生後2週間以内の新生児であり, 2名に肝機能障害が認められ, うち1名は劇症肝炎と診断された。
2018年:2名から検出。1名が敗血症(臨床症状として, 肝機能障害・出血傾向・循環不全), 1名が無菌性髄膜炎と診断された。
2024年:1名から検出。無菌性髄膜炎と診断された。
1歳以上の陽性者は4名で, 無菌性髄膜炎2名および上気道炎患者2名からE11が検出された。上気道炎患者のうち1名は咽頭結膜熱と診断され, アデノウイルスのヘキソン領域の塩基配列により5), E11の他にアデノウイルス3型も検出された。この1名を含めた15名のE11陽性患者(25検体)すべてについてRD-18SおよびVero-E6細胞を使用したウイルス分離を行った結果, いずれの細胞でも15名中10名(67%)が陽性で同様の結果が得られ, 9名からE11, 1名からアデノウイルス3型が分離された(表)。髄液検体からの分離陽性率は9症例からの9検体中3件(33%)で, 便検体は5症例5検体すべてから分離が可能であった。
現在, E11は, 日本を含む世界各国で2022年に新規に出現した変異株lineage 1の重症例の発生が報告されており, その流行が懸念されている6,7)。E11分離株9件について, CODEHOP法4)によるVP1領域の部分配列の解析を実施したところ, 2024年の分離株はlineage 16,7)に分類され, 他の分離株は異なるlineageであった(図)。我々の結果から, 2013年, 2014年および2018年にlineage 1以外のE11が兵庫県内で重篤な新生児の感染症を散発的に引き起こしていたことが示唆された。E11がエンテロウイルスの中で新生児の重症感染症を引き起こすことは1980年代にはすでに報告されており, 系統の遺伝的変化が病原性に影響を及ぼしているかどうかについては, さらなる調査が必要と考えられる6)。
新生児エコーウイルス感染のレビューでは70%の症例からE11が検出されており, 新生児の重篤なエコーウイルス感染症による罹患数と死亡率の調査において, 死亡率は肝炎83%(34/41名)で, 中枢神経感染(CNS)19%(3/19名)より高い傾向が報告されている2)。今回対象とした肝機能障害155名中11名からエンテロウイルスが検出され, うちE11が5名, コクサッキーウイルスB3が3名, E18, コクサッキーウイルスB1, A6が各1名と型別された。
2025年2月に厚生労働省からE11感染症の実態把握についての事務連絡が発出され8), E11の流行への対策が呼びかけられているが, 兵庫県では, すでに神戸市から2024年の新生児期のlineage 1を含むE11感染例が報告されており9), E11への警戒(特に新生児への感染対策)が重要と考えられた。また, E11のみならず, コクサッキーウイルスB群(いずれもエンテロウイルスB種)も重篤な新生児感染症を引き起こすので1), コクサッキーウイルスB群による新生児感染についても留意する必要がある10)。
なお本研究は, 倫理審査(国立感染症研究所および一般社団法人兵庫県薬剤師会)を受け, AMEDの課題番号24fk0108627j0703の支援を受け実施された。
謝辞:本調査にご協力いただきました定点医療機関の皆様および兵庫県保健医療部疾病対策課, 県内の健康福祉事務所(保健所)の皆様に深謝いたします。
参考文献
- White DO and Fenner F, Medical Virology: 391-398, 1994
- Modlin JF, Rev Infect Dis 8: 918-926, 1986
- Abzug MJ, Paediatr Drugs 6: 1-10, 2004
- 国立健康危機管理研究機構感染症情報提供サイト, 手足口病 病原体検査マニュアル, 令和5(2023)年6月 Ver.2
https://id-info.jihs.go.jp/relevant/manual/010/HFMdis20230704.pdf - 国立健康危機管理研究機構感染症情報提供サイト, 咽頭結膜熱・流行性角結膜炎 検査・診断マニュアル(第4版)改訂第1版, 令和7(2025)年1月
https://id-info.jihs.go.jp/relevant/manual/010/AdenoVirus_PCF_EKC20250202.pdf - Grapin M, et al., Euro Surveill 28: 2300253, 2023
- Fernandez-Garcia MD, et al., Euro Surveill 29: 2400221, 2024
- 厚生労働省健康・生活衛生局感染症対策部感染症対策課, エコーウイルス11型(E-11)感染症の実態把握について(協力依頼), 令和7(2025)年2月6日
https://www.mhlw.go.jp/content/001345107.pdf - 久保萌加ら, IASR 46: 38-41, 2025
- Wang LC, et al., Frontiers in Pharmacology 13: 1014823, 2022
兵庫県立健康科学研究所感染症部
荻 美貴 押部智宏 大岡徹彦
加古川中央市民病院小児科
西山敦史 森沢 猛
公立豊岡病院組合立豊岡病院小児科
港 敏則
兵庫県立尼崎総合医療センター
小児感染症内科
伊藤雄介
岡藤小児科医院
岡藤隆夫
国立健康危機管理研究機構
国立感染症研究所真菌部
藤本嗣人