モツ鍋店利用者のO157食中毒事例について
モツ鍋店利用者のO157食中毒事例について
(IASR Vol. 46 p93-94: 2025年5月号)
腸管出血性大腸菌(EHEC)はVero毒素(VT)を産生する大腸菌で, 感染による主な症状は腹痛, 下痢および血便である。また, 溶血性尿毒症症候群(HUS)等の重篤な合併症を引き起こし, 後遺症や死に至る場合もある。
2024年8月, 福岡市内のモツ鍋店において提供された食事を原因とするEHEC O157による食中毒事例が発生したので, その概要について報告する。
事例の概要
2024年8月29日, 山口県周南環境保健所から福岡市宛てにEHEC感染症に関する施設調査依頼があった。当該患者1名は8月14~15日の福岡旅行中に, 友人2名と計3名で福岡市内の飲食店を複数利用していた。また, 同年9月6日, 姫路市保健所から福岡市宛てに患者3名のEHEC感染症に関する情報提供があった。当該患者らは家族5名で8月13~15日に福岡に旅行に来ており, 福岡市内の飲食店を複数利用していた。両グループの患者はいずれも腹痛, 下痢(水様便, 血便), 発熱等の症状を示しており, 8月15~19日にかけて発症していた。また, 患者1名の検便からEHEC O157(VT1&2, VT2), その他患者3名の検便からEHEC O157(VT2)が検出された。
管轄保健所が聞き取り調査を行った結果, いずれのグループも8月14日に福岡市博多区内の飲食店Aを利用し, モツ鍋等を喫食していたことが判明した。また, 患者の菌株について反復配列多型解析(multilocus variable-number tandem-repeat analysis: MLVA)法により解析を行った結果, 同一のMLVA complex(24c035)が検出された。ただし, 患者4名のうち, 飲食店Aを起点としたEHEC O157の潜伏期間に当てはまらない1名は, 本事例の対象に含めないものとした。
患者3名の症状および潜伏期間がEHECによるものと一致したこと, 患者の菌株が同一のMLVA complexであったこと, および患者の共通食は当該施設の食事のみであったこと, から当該施設が調理, 提供した食事を原因とするEHEC O157による食中毒と断定した。
施設調査結果等
- 調理方法等について
当該施設での共通食はモツ鍋のみであったが, ニラを除いた食材は厨房内で十分に煮込んだ後, 客に提供されていた。ニラは洗浄した後, 未加熱のままモツ鍋の上に載せて提供するが, スープに沈めて加熱してから喫食するよう提供時に声がけを行っていた。
当該施設での食材の取り扱い状況を確認したところ, まな板および包丁は野菜用, 肉用, 魚用などの食材ごとに使い分けていた。しかし, 肉用のまな板および包丁については午前中に生のモツの仕込みを行い, 洗浄, 消毒後, 夜の営業時に同じまな板および包丁を使用して, 肉類のサイドメニュー(未加熱で喫食する馬刺し, 牛の酢モツ等)の加工を行っていた。また, 手洗いを器具等洗浄用のシンクで行っており, 用途別にシンクを使い分けしていなかった。
- 汚染経路の追求
当初は患者の共通食がモツ鍋であったこと, 患者3名からEHEC O157が検出されたこと, からEHEC O157に汚染されたモツ鍋を加熱不十分な状態で喫食したことが原因と考えられた。しかし, 調査の結果, モツ鍋は厨房で十分加熱してから提供されていたこと, 肉用の調理器具を仕込み用とサイドメニュー用で兼用していたこと, および手洗いを専用の場所で行っていなかったこと, から二次汚染が原因であることが示唆された。
考察
本件は当該施設が調理提供した食事を喫食した共通行動のない2グループ8名のうち, 腹痛, 下痢, 発熱等の体調不良を呈した患者3名から同一のMLVA complexのEHEC O157が検出されたことから, 当該施設での食事を原因とする食中毒と断定した。患者の共通食がモツ鍋であったことから, EHEC O157に汚染されたモツ鍋を原因食品とする食中毒が疑われた。しかし, モツ鍋は厨房で十分加熱してから提供されていたこと, 従業員の手指や調理器具を介した二次汚染の可能性も否定できないこと, から原因食品の特定には至らなかった。
当該施設では, 食材ごとに器具の使い分けを行っていたが, 肉用のまな板と包丁は1つずつしかなく, 同じ調理器具で生のモツの仕込みと肉類のサイドメニューの切り分けを時間帯で分けて行っており, 器具の取り扱いに関する知識が不足していた。また, 手洗いシンクが決まっていないなど, 衛生的な手洗いに関する知識が不足していた。以上を踏まえ, 二次汚染防止の観点から, まな板および包丁をモツの仕込み専用と肉類のサイドメニュー専用で分けること, 手洗いは専用の手洗い器で行うこと, を指導した。また, 衛生講習会を実施し, 一般衛生管理の見直しをはじめとする再発防止策を講じるよう指導した。
一般的に食肉は, 様々な食中毒細菌に汚染されている可能性があり, 食品等事業者に対し, 食肉の十分な加熱や調理器具の使い分け等を指導している。本件は, 調理器具の管理や手洗い不良による二次汚染が原因と示唆される事例であることから, 衛生検査等において従業員や器具等を介した二次汚染防止対策の指導を一層強化した。
今後もこれらの指導を継続的に行い, 食品等事業者への意識づけや正しい知識の普及を行っていくことが重要であると考えられる。
福岡市保健医療局
保健所地域衛生部博多衛生課
小原井春香 川井淳史 藤田 淳
加藤由希子 杉山祐治(現所属:同西衛生課)