茨城県内保育園における腸管出血性大腸菌O157による集団感染事例―茨城県
茨城県内保育園における腸管出血性大腸菌O157による集団感染事例―茨城県
(IASR Vol. 46 p94-95: 2025年5月号)
2024年7月に, 茨城県内保育園において発生した腸管出血性大腸菌(EHEC)O157 VT2による集団感染事例の概要について報告する。
事例の概要
2024年7月2日にA保育園から保健所に, A保育園に通園する園児がEHEC O157感染症と診断された旨の相談があった。患者は6月28日に腹痛・下痢を呈し, 保育園を早退していたため, 保健所は保育園内の環境消毒等の指導を実施し, A保育園は7月3日を自主休園とした。7月4日, 管内医療機関からEHEC O157 VT2(以下, O157 VT2)の届出が2例(初発例を含む)あり, いずれもA保育園の園児であったことから, 保健所は同日現地調査・指導を実施し, A保育園の園児および職員全員を対象とした接触者検便を開始した。その後, 管内医療機関から園児の届出が2例, 接触者検便により園児5例のO157 VT2感染が確認され, 7月8日に2回目の現地調査・指導を実施した。最終症例の陽性判明から最大潜伏期間の2倍経過, かつ全員の陰性化を確認し, 本事例は終息となった。
発生状況
医療機関および県衛生研究所での検査により, A保育園におけるO157 VT2感染例が9例(患者7例, 無症状病原体保有者2例)確認され, 症例はすべて園児であった(図)。患者の症状は, 下痢7名(100%), 腹痛6名(86%), 血便2名(29%)であり, うち1例が溶血性尿毒症症候群(HUS)を発症した。A保育園では園児全員が合同保育であり, 年齢別発生状況は, 1歳児2名中1名(50%), 2歳児9名中0名(0%), 3歳児3名中2名(67%), 4歳児9名中2名(22%), 5歳児4名中4名(100%), 職員11名中0名(0%)であった。
感染拡大の要因と対応
A保育園では, 園児および職員の手洗い場が幼児用トイレ内の1カ所のみであり, 手洗い場には固形石鹸が直置きされていた。園庭にも水道があるが, 足洗用であり, 石鹸の設置はなかった。また, トイレ専用の履物はなく, 園内はすべて靴下で移動しており, おむつ交換は幼児用トイレ内の手洗い場付近の共用バスタオル上で職員が適切な個人防護具(PPE)を着用することなく行われていた。6月中旬からは園庭でプールが開始され, 原則水着着用としていたが, 水着に着替える前やプールに入る前の臀部洗浄は実施されておらず, プールへの塩素投入も実施されていなかった。なお, O157 VT2感染が確認された園児9名中8名(89%)に発症前後7日以内(無症状病原体保有者の場合は陽性判明検体採取日前後)のプール利用歴があった。また, 調理員および職員の検便, 保存検食, 調理室内のふきとり検体からは, EHECは検出されなかった。
保健所による2回の現地調査結果から, 本事例が食中毒である可能性は低く, A保育園におけるO157 VT2感染拡大の要因として, (1)園内における手洗いが不十分であった可能性, (2)園内の環境汚染が感染源となった可能性, (3)プール利用が感染源となった可能性, の3点が考えられた。
これらの状況を受け, 保健所は手洗いや環境消毒, 適切なPPE着用等の感染対策の強化, プールの適切な管理, 等に関する指導を実施し, A保育園は改善に向けた対応を迅速に行った。
分離された菌株について
県衛生研究所にて, 本事例で分離された9菌株は, 病原性遺伝子stx2aおよびeae等のLEE領域遺伝子群がすべての株で検出され, 高病原性系統の1つであるclade8に分類された。また, 反復配列多型解析(multilocus variable-number tandem-repeat analysis: MLVA)法により解析したところ, すべてMLVA type 21m0325であった。すべてのMLVA typeが同一であったことから, 本事例は集団感染事例であると考えられた。
また, 本事例においてO157 VT2感染が判明した園児の接触者計40名を対象とした検便の結果, 2例のO157 VT2感染が確認され, MLVA typeも同一であった。接触者検便で陽性が判明した2例は, いずれもO157 VT2感染が確認された園児の同居家族であり, 家庭内における二次感染であると考えられた。
まとめ
本事例における明らかな感染原因は不明であったが, 不十分な手洗いや園内の環境汚染, プールの不適切な管理等の複数の要因により感染が拡大した可能性が考えられた。事例探知後, 保健所が現地調査・指導を行い, 保育園が改善に向けた対応を迅速に講じたことにより, 本事例は終息へ至った。
EHEC感染症の主な感染経路は経口感染であり, 患者便や菌に汚染されたものを介して感染するため, 日頃からの手洗いや, 適切なおむつ交換の手技, 夏期に行われるプールの適切な管理等, 園内における基本的かつ包括的な対応を講じるための体制づくりが重要となる。
茨城県保健医療部衛生研究所
宮崎彩子 石川加奈子 高野里美
永田紀子 堀江育子 鈴木優奈
織戸 優 小川郁夫 柳岡知子
内田好明 上野絵里
茨城県保健医療部つくば保健所
齊藤咲良 大崎侑乃 関 愛菜
小坂由紀子 吉田日出子 本多めぐみ