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保育施設での腸管出血性大腸菌O111による集団感染事例

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保育施設での腸管出血性大腸菌O111による集団感染事例

(IASR Vol. 46 p96-97: 2025年5月号)

1. はじめに


2024年6月, 岩手県一関保健所管内の保育施設(以下, A園)において腸管出血性大腸菌(EHEC)O111(VT1&2産生)による集団感染事例が発生したので, その概要を報告する。

2. 事例の探知および経過

<1例目の患者発生>

2024年6月, 管内医療機関より, A園園児についてEHEC感染症の届出がされた。当該届出を受け, 当所では積極的疫学調査を実施。聞き取りの結果, 当該園児は発生届出の8日前に発症し, 以降A園には登園していないことが判明した。この時点では, 明確な感染源は不明であり, 接触者健康診断として同居家族の検便を実施したが, 全員陰性であった。

A園に対して, 聞き取り調査を実施。有症状者4名が確認されたが, 1例目と同じクラスの園児はおらず, 4名ともクラスが異なるとのことであった。経過観察を依頼し, 有症状者が増加した場合は, 当所へ連絡するよう依頼した。

1例目については, 届出から7日目に菌陰性化が確認された。その際, A園への聞き取り調査を再度実施したが, 有症状者の増加はみられないとの回答であった。

<2例目の患者発生, A園立ち入り調査の実施>

1例目の発生届出日から16日後, 当所管内の医療機関より, A園でのEHEC感染症患者発生の届出があった(園児・2例目)。当該届出を受け, 患者に対する積極的疫学調査およびA園へ立ち入り調査を実施した。A園の直接聞き取りを行った結果, 有症状者が19名発生していたことが判明した。

以降, 上記EHEC感染症患者2名の他, A園関係者については, 医療機関受診により8名, 当所が実施した接触者健康診断により10名のEHEC O111感染が判明した。その中には, 1例目と同じクラスで1例目発症から3日後に発症していた者も含まれていた(表1,2,3)。

EHEC感染症患者総数20名に対する積極的疫学調査および家族等の検便を実施し, 当該事例をA園における集団感染事例と判断した。

<終息の判断>

今回の集団感染事例において, 無症状病原体保有者は1名で, その他は何らかの症状を呈していたが入院者はおらず, 全員が回復した。1例目の発症から63日が経過した時点で, 最終患者の発生から最大潜伏期間の2倍以上が経過し, かつすべての陽性者の菌陰性化を確認した。管内で他に関連する患者の発生もなかったため, この時点で終息と判断した。

3. 細菌学的検査結果


本集団感染事例におけるEHEC O111の20株のうち, 14株について岩手県環境保健研究センターで反復配列多型解析(multilocus variable-number tandem-repeat analysis: MLVA)が実施された。MLVA typeは24m3023が7件, 24m3024が7件であったが, complexはすべて24c301であった。2024年には当該保育施設関係者以外に同一のMLVA type株は報告されていない。

4. 感染拡大の原因と指導


患者の発生動向や調査の結果から, 食中毒の可能性は否定され, A園内で園児間の感染が拡大し, 家族へ二次感染したと推測された。

A園内で感染が拡大した要因として, 3歳児未満の患者が多く, 清潔行為の徹底が難しく, 園児同士の接触の中で感染が拡大したと予測された。さらに, A園の保育方針の影響からなのか, 失禁で汚れた下着類の管理方法をはじめとしたA園の感染症対策等については, 不十分な対応が見受けられた。

A園との間では, 感染症対策と保育方針の調整に苦慮したが, 感染拡大, 重症者発生のリスク等を指導し, 施設内の消毒実施や保護者への注意喚起, 感染症対策の修正等の対応がとられた。

また, 1例目発生時点でA園が有症状者を正確に把握できていなかった等, 不適切な健康観察方法が集団感染の探知を遅らせた要因とも考えられる。このことに対しては, 施設立ち入り後, 健康観察の結果を当所へ毎日報告することとし, 健康観察の徹底を図った。

また, 陽性者の菌陰性化までに長期間を要したことから保護者の疲労も蓄積し, 患者保護者への丁寧な対応も求められた。その中で, A園保護者向けに二次感染予防に関するチラシも作成し, 配布した。

5. まとめ


本事例を通じ, 保育方針と感染症対策との調整の難しさを感じた。保健所では, 対象保育施設の保育方針も理解しつつ, 感染症発生時と平時との感染症対策にメリハリをつける等, 適切な感染症対策の指導が必要であると考える。

保育施設は, 抵抗力の弱い乳幼児が長時間, 集団で生活する場であり, 感染症が拡大しやすい環境下にある。保健所においては, 保育施設関係者が感染症を発症した場合には, 状況によっては早期から保育施設へ立ち入り, 健康観察の徹底や感染対策について直接指導することが重要となる。

当所では, 保育施設職員に対する感染症対策研修会を開催し, 感染症対策の周知に努めている。有事の際に保育施設から保健所へ相談しやすい関係性も感染症の早期発見へつながる一助となると考えることから, 引き続き実施していく。

患者の発生がたとえ1例であっても, 保育施設の場合には集団感染のリスクが高いということを痛感した事例であった。

本事例でみえた課題等を踏まえ, 今後も引き続き適切に対応していきたい。

 岩手県一関保健所
  三田江美 大道祐季 糠盛里実
  長岡浩一 福士 昭 木村博史

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