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腸管出血性大腸菌O26による未就学児施設での集団感染事例

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腸管出血性大腸菌O26による未就学児施設での集団感染事例

(IASR Vol. 46 p97-98: 2025年5月号)

2024年9月に, 山口県宇部環境保健所管内の未就学児施設(以下, 施設)において腸管出血性大腸菌(EHEC)O26:H11(VT1産生)(以下, O26)による集団感染事例を経験したので, その概要を報告する。

端緒

2024年8月29日, 管内医療機関から成人のEHEC感染症(O26)の発生届があった。接触者健診の結果, 9月1日に施設を利用する1歳児1名のO26感染が判明した。保健所は直ちに患者調査を行い, 感染症法に基づく行政対応(家族への健診勧告)や家庭内での感染対策について助言するとともに, 9月2日に1回目の施設調査を実施した。

経過

<1例目の発生と対応>

施設調査の結果, 9月2日時点の1歳児クラスの有症状者は1名で, 手足口病による下痢と診断されていた。当時, 施設では手足口病の流行にともない, 基本的感染対策をしており, 原因不明の体調不良者はいなかった。給食調理員の定例保菌検査が9月4日に予定されていたこと等から, この予定にあわせて関係者検査を行った。保菌検査は8名(給食調理員2名, O26に感染した1歳児と接触した職員等6名)が受検し, 全員陰性であった。施設には手洗いやアルコール消毒等基本的感染対策の継続, 環境消毒および施設利用者・職員の健康観察を依頼した。

<2例目の発生と対応>

1回目の施設調査から1週間後の9月9日, 別の管内医療機関から3歳児のEHEC感染症(O26)の発生届があり, 同患者が前出の施設を利用していることが判明した。直ちに患者調査を実施したところ, 家族での先行発症者やO26の陽性者はいなかった。調査から, 家庭内感染は考えにくい状況であった。また, 2例目の発症日は9月2日であり, 施設が1例目の発生を受けて感染対策を強化した9月2日以前に感染した可能性が考えられた。同一施設から2例のO26患者が発生し, 2回目の施設調査でも感染源・感染経路が特定できなかったため, 当所は施設関係者全員(利用者および職員)の検査を9月11日から実施した。

結果

本事例の検査対象者133名(施設利用者110名, 職員23名)のうちO26陽性者は8名(有症状者4名, 無症状病原体保有者4名)であった。この陽性者8名との接触者は40名(いずれも同居家族や飲食等をともにした親族等)おり, これらの接触者40名全員に対して接触者健診を実施した。その結果, 無症状病原体保有者が2名(同居家族)判明した。施設におけるO26の陽性者は合計12名となったが, 入院を要する重症者はおらず, 全員が回復した。12名の属性は年齢中央値が2.5歳(範囲:0~31歳)で, 性別は男性5名, 女性7名であり, 職業は園児が10名(83%)であった。0歳児クラスが4名, 1歳児クラスが2名, 2歳児クラス1名, 3歳児クラス1名, 4歳児クラス2名であった。4歳児クラスの2名はいずれも0歳児クラスの兄姉であった。無症状病原体保有者2名はいずれも0歳児クラス患者の同居家族であった。発症日は初発が8月29日, 最終発症日は9月10日であり, 9月18日が最終の診断日であった。陽性者の施設最終利用日が9月14日であったため, 健康観察期間を2週間後(最大潜伏期間の2倍)の9月28日までとし, 利用者・職員の健康観察を実施した。10月4日, すべての陽性者の就業制限解除とともに最終確認を施設に行ったところ, 新たな有症状者がいないことから今回の集団発生の終息とした。

施設では手洗いや手指消毒, 園児ごとの手袋交換は実施していたものの, 使い捨てエプロンの未使用, おむつ交換時のマットの交換なし, 等の状況であり, 衛生面で不十分な対応であった。

細菌学的検査結果

今回12名から分離されたO26の12株は, 反復配列多型解析(multilocus variable-number tandem-repeat analysis: MLVA)法を実施したところ, MLVA complex 24c206(MLVA type 24m2075が6名, 24m2076が6名)と判明した。初期に発症した2名は異なるMLVA typeであり, これら2名は異なるクラスであった。クラス別および合同保育利用者のMLVA typeはそれぞれに2つのMLVA typeの存在が確認された。利用者の同居家族は同一のMLVA typeであった。

考察

本事例は初発患者と施設における患者・無症状病原体保有者全員のMLVA complexが一致した。本事例の原因は同一感染源からの曝露による施設利用者の感染であり, 施設内での伝播および同居家族への伝播の可能性が推察された。また, MLVA解析の結果, 初発患者と1日違いで発症した1歳児は別のMLVA typeであり, 施設内で同時に2つのMLVA typeの感染が広がっていたことが判明した。MLVA typeが2つあることから, 初期の2名は別々の経路で感染した可能性もあると考えられた。

感染経路は特定できなかったが, 初発患者は排泄が自立していない1歳児であり, 同じく排泄が自立していない児に多数の感染者が判明した。また, 施設の衛生面での対応は不十分であったことから, おむつ交換時に共有していた布製マットや, 合同保育時間中の子供同士の接触, おもちゃや職員等を介した感染が考えられた。4歳児クラス患者, 患者家族についてはいずれも0歳児クラス患者の家族であったため, 施設で広がったEHECが家庭内に持ち込まれた結果, 二次感染が起こった可能性が高いと思われた。施設では当時プール使用があり, 3~5歳児クラスはベンザルコニウム塩化物液濃度が低い腰湯を共有していたが, 患者家族以外の感染者はなかった。本事例では, 腰湯を通じた感染拡大はみられなかったが, 保健所が実施している福祉施設向け感染対策研修会を活用し, 施設職員へ消毒薬の濃度や, トイレ・水回りの清掃等, 感染対策を周知した。また, 一斉検査実施前の9月10日には地元医師会に対して, 注意喚起や対応方針の共有を図った。このため患者対応に関して混乱は生じなかった。

感染力の高いEHECが施設に持ち込まれた場合, 疾患の特性から無症状病原体保有者の存在を念頭に, 発生当初から施設に限らず家庭内での二次感染防止として, 流水・石鹸による手洗いの励行や, おむつ等汚物の適切な処理を広く伝える必要がある。発症患者の年齢や発達段階が感染予防行動にも大きく影響することを意識し, 啓発方法や一斉検査の実施時期を検討することが必要である。今回, 施設1例目の患者から施設内外に広がっていったと考えられた事例であったが, MLVA法の解析結果から別々の感染源による感染拡大であった可能性が考えられた。異なる市中感染であれば, 食品の流通や生活環境を詳細に聞くことが必要となる。今後, 集団感染が起こった場合は, とくに患者調査における喫食調査において原因となった菌がどこから来たのかを意識して聞き取りを行っていきたい。

謝辞:山口県環境保健センター, 国立健康危機管理研究機構 国立感染症研究所・応用疫学研究センターの皆様に深謝します。

 山口県宇部環境保健所
  柳井千代 本田由起恵 野村洋子
  磯村聰子 柴田祐美 前田和成 

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