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保育所における腸管出血性大腸菌O26による集団感染事例―群馬県

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保育所における腸管出血性大腸菌O26による集団感染事例―群馬県

(IASR Vol. 46 p98-99: 2025年5月号)

群馬県伊勢崎保健所管内のX保育所において腸管出血性大腸菌(EHEC)O26:H11 VT1による集団感染事例が発生したので報告する。

探知および経過

2024年8月5日, X保育所の1歳園児が県内医療機関にてEHEC感染症と診断された。保健所の調査により, X保育所内で複数の発症者が確認された。0歳児は1歳児とプールやトイレを共用していたため, 0歳児クラスおよび1歳児クラスの園児および職員に対して検便を実施した。

その後, 9月5日に3歳園児が, 近医にてEHEC感染症と診断された。X保育所全体での感染拡大が懸念されたため, 全クラスの園児および職員(すでに陽性が判明していた者を除く)を対象に検便を行った。

結果

(1)陽性者の発生状況

園児および職員約250名, 園児家族約70名に対して検便を実施した。その結果, 2024年8月5日~9月25日までの間に, 園児25名, 職員2名, 園児家族8名の計35名がEHEC O26に感染していたことが判明した(以下, 陽性者)。

調査の結果, 7月下旬から発症者がいたことが明らかになった()。園児のうち96%(24/25)は消化器症状を呈していた。園児では15名が発症から診断までに7日以上を要していた。

園児の陽性者の内訳は, 1歳児クラスが60%(15/25), 3歳児クラスが32%(8/25), 4歳児クラスが8%(2/25)であった。0歳児クラス, 5歳児クラスに陽性者はいなかった。4歳児クラスの陽性者は, いずれも1歳児または3歳児クラスの陽性者の兄弟姉妹であった。園児のうち, おむつを使用していた者は68%(17/25)であった。職員の陽性者2名はいずれも1歳児クラスで業務を行っていた。

(2)観察調査

園内には2カ所のプールがあり, 0歳児および1歳児が使用するプールは塩素消毒が行われていなかった。一方, 2歳児以上が使用するプールは消毒されていたが, 遊離残留塩素濃度は測定されていなかった。

おむつ交換の際は, 便が出た場合のみ手袋を着用していた。0歳児および1歳児クラスでは, トイレの床に直接マットを敷き, その上でおむつ交換が行われていた。おむつ交換用マットの消毒頻度は決められていなかった。また, 未使用のおむつやおしり拭きシートはカゴに収められ, トイレの床上に置かれていた。

(3)菌株解析

群馬県衛生環境研究所で精査したところ, 陽性者35名から分離された株はすべてEHEC O26:H11 VT1であった。反復配列多型解析(multilocus variable-number tandem-repeat analysis: MLVA)を実施したところ, MLVA typeはすべて一致した。本県において, 2024年に同一のMLVA typeを有する株は本事例以外で報告されていなかった。

(4)終息

9月26日以降は新たな陽性者は発生せず, 11月19日をもってすべての陽性者について陰性化が確認できたため, 対応終了とした。

考察

最初に届出があった8月5日以前から園内で発症者がいたが, いずれも軽症で経過していた。このため, 園児の一部は検便を受けるまで感染に気づかないまま登園していた可能性があった。発症日の分布は一峰性でなく, 給食による食中毒の可能性は否定的であった。

排泄が自立していない乳幼児では, 個別のタライ等を用いてプール遊びを行い, 他の園児と水を共有しないことが望ましいとされている1)。また, プールの遊離残留塩素濃度は0.4-1.0 mg/Lに保たれるよう管理することが推奨されている2)。本事例では水の消毒が不十分な状態で, おむつを付けた園児がプールを共用しており, 感染伝播の一因となったと推測された。

トイレ内のおむつ交換場所のすぐ近くには園児用の便器があり, 床は排泄物等の飛散により汚染されやすい状況であった。このため, 清潔区域と不潔区域を明確に区別する必要があると考えられた。また, 標準予防策の観点から, 便, 尿にかかわらず, おむつ交換時に手袋やエプロンを使用することが望ましいと考えられた。

本事例では, 平常時からX保育所内の感染管理に課題があり, 園内で感染伝播した可能性が示唆された。今後, 各施設において感染予防に配慮して保育できるよう, 講習会などを通じた啓発を強化する必要があると考えられた。

謝辞:調査に御協力いただきました園児, 保護者, 保育所職員の皆様に感謝いたします。

参考文献

  1. こども家庭庁, 保育所における感染症対策ガイドライン(2018年改訂版), 2023(令和5)年10月一部修正
    https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/e4b817c9-5282-4ccc-b0d5-ce15d7b5018c/cd6e454e/20231010_policies_hoiku_25.pdf
  2. 厚生労働省健康局長, 遊泳用プールの衛生基準について, 平成19(2007)年5月28日付健発第0528003号厚生労働省健康局長通知別添
    https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/seikatsu-eisei01/pdf/02a.pdf
 群馬県衛生環境研究所
  小林美保 兵藤杏花 河合優子
  高橋裕子 下田貴博 長谷川 駿   猿木信裕
 伊勢崎保健所
  橋本枝里香 小浦方久美子 庄司和人 井田真悟 高木 剛

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