保育施設における腸管出血性大腸菌O26の集団感染事例―同一MLVA typeの菌株が検出された2事例
保育施設における腸管出血性大腸菌O26の集団感染事例-同―MLVA Typeの菌株が検出された2事例
(IASR Vol. 46 p99-101: 2025年5月号)
はじめに
2024年5月, 宮崎県都城保健所管内の2つの保育施設(直線距離で2km程度)で腸管出血性大腸菌(EHEC)O26(VT1)の集団感染が発生し, その事例間で同一の反復配列多型解析(multilocus variable-number tandem-repeat analysis: MLVA)typeを示す菌株が検出された。
細菌学的検査の結果を受け, 疫学調査を実施したが原因究明には至らなかった事例について, 保育施設に対する感染拡大防止対策も含め報告する。
集団感染事例の概要(図)
(1)事例1
2024年5月X日, 管内の医療機関からEHEC O26(VT1)の届出があり探知した。
通園先のA保育施設への疫学調査を踏まえ, 園児28名, 職員13名の便検査(行政検査)を実施した。園児6名よりEHEC O26(VT1)と, 園児1名よりEHEC O157(VT1&2)が確認され, いずれも下痢等の症状が確認された。また, 行政検査で陰性であった園児1名は経過観察中に症状が出現し, 医療機関よりEHEC O26の届出があった。
発症経過等から, EHEC O157陽性の園児を除き, 施設内での集団感染の可能性が考えられた。
なお, EHEC O26陽性園児の2家族, 計2名からもO26が確認された。
(2)事例2
2024年5月X+25日, 管内の医療機関からEHEC O26(VT1)の届出があり探知した。
通園先のB保育施設への疫学調査を踏まえ, 園児32名, 職員18名の便検査(行政検査)を実施した。園児2名よりEHEC O26が確認され, いずれも軟便等の症状が確認された。事例1と同様, 発症経過等から, 施設内での集団感染の可能性が考えられた。
なお, B保育施設のEHEC O26陽性の園児らの発症日は, A保育施設の園児らより後であった。
保育施設への対応
両事例に対し, 1例目を探知した同日, 園児および職員の健康状態を確認した。また, 現地にて排泄介助や環境整備, 手指衛生等の現状確認を行った。1例目の園児はいずれもおむつを使用し, 排便時は沐浴槽で臀部を洗っていたこと等から, 高頻度接触面も含めた次亜塩素酸ナトリウムによる環境整備や, 排泄介助時の使い捨て手袋およびエプロンの着用, 手洗いの励行等について指導を行った。
細菌学的検査結果
EHEC O26の12株(事例1:9株, 事例2:3株)について宮崎県衛生環境研究所でMLVAを実施した。国立健康危機管理研究機構 国立感染症研究所から付与されたMLVA typeはすべて24m2023であった。他都道府県では同一のMLVA typeは報告されていない。事例1で経過観察中にEHEC O26陽性となった園児1名については菌株の確保ができず, MLVAは実施しなかった。
なお, 行政検査で判明したEHEC O26のH血清群はいずれもH11であり, EHEC O157はH7であった。
疫学調査
細菌学的検査の結果を受け, 当初実施した疫学調査に加え, 以下の調査を行った。
(1)調査対象:2024年5月にAおよびB保育施設でEHEC O26と診断された者(MLVAを実施しなかった者および家庭内感染者含む13名)
(2)調査期間:2024年6月12~23日まで(期間中に延長あり)
(3)調査方法:電話にて依頼し, 回答は県の電子申請システムを活用(電話応答がなかった場合は直接ショートメールを送付)
(4)調査内容:
ア 周囲でのEHEC罹患者の有無(同じ保育施設での罹患者除く)
イ 2024年5月1日以降, 調査対象者の1回目の病原体の消失が確認された日までの行動歴
1)行事等への参加, 2)プール等の利用, 3)公園等の利用, 4)習い事等への参加, 5)飲食店の利用
ウ 調査対象者を含む家族の日頃の食品購入場所と頻度
(5)結果(表):11名(9世帯)の保護者等から回答を得た(回答率84.6%)。周囲でのEHEC罹患者は確認されなかった。なお, 同時期に管内で調査対象者以外のEHEC O26陽性者は確認されていない。また, 2つの事例間での接触機会や同一食の摂取状況は確認されず, 調査対象者宅から比較的近い店舗aの利用世帯が9世帯中7世帯(77.8%)であったが, 感染源の同定には至っていない。
まとめ
2024年5月に管内の2つの保育施設でEHEC O26の集団感染が発生した。それぞれ症状の経過等から, 施設での共通食による食中毒の可能性は低かった。
また, 両事例から同一のMLVA typeを示す菌株が検出された。そのため, 関連性について疫学調査を行ったが, 感染源の同定には至らなかった。しかしながら, 事例間において, 同一店舗の利用割合が高かったことから何らかの共通した感染源があった可能性があると考えられた。
今回, 事例1は7例, 事例2は2例の施設内での感染が確認された。感染拡大を防止する観点から, 平時から施設に対する感染対策の周知が必要である。
なお, EHEC O157陽性の1例は, 一連の行政検査で判明し, 集団感染とは関連のないものと思われた。
謝辞:執筆にあたり御助言をいただきました国立健康危機管理研究機構 国立感染症研究所・応用疫学研究センターの八幡裕一郎先生に深謝いたします。
宮崎県都城保健所
宮内麻理 塚本善枝 長谷川久美子
益留真由美 坂元昭裕
宮崎県衛生環境研究所
小川恵美 岡部祐未 山口 凌
矢野浩司 藤崎淳一郎