感染症発生動向調査に届け出された腸管出血性大腸菌感染症における溶血性尿毒症症候群, 2024年
感染症発生動向調査に届け出された腸管出血性大腸菌感染症における溶血性尿毒症症候群, 2024年
(IASR Vol. 46 p106-107: 2025年5月号)
溶血性尿毒症症候群(hemolytic uremic syndrome: HUS)は腸管出血性大腸菌(EHEC)感染症の重篤な合併症の1つである。本稿では, 2024年に感染症サーベイランスシステムの感染症発生動向調査に届け出されたEHEC感染症のHUS発症例に関するまとめを報告する。
EHEC発生状況
感染症発生動向調査に基づくEHEC感染症の届出数(2025年4月9日現在, 以下暫定値)は, 2024年〔診断週が2024年第1~52週(2024年1月1日~2024年12月29日)〕は3,748例(うち有症状者2,294例:61.2%)であった。有症状者の性別は, 男性1,057例, 女性1,237例で, 年齢群・性別にみると0~4歳が285例(男性141:女性144), 5~9歳が197例(同111:86), 10~14歳が166例(同84:82), 15~64歳が1,333例(同595:738), 65歳以上が313例(同126:187)であった。
HUS発症例
EHEC感染症例のうち届出時にHUSの記載があった届出は73例であった。性別は男性23例, 女性50例で, 女性が多かった(1:2.2)。年齢は中央値が7歳(範囲: 1~86歳)で, 年齢群別では0~4歳が22例(30.1%)で最も多く, 女性が15例であった。またHUS発症例の年齢は10歳未満が約半数を占めていた。
有症状者に占めるHUS発症例の割合は全体で3.2%, 年齢群別では0~4歳が7.7%で最も高く, 次いで5~9歳が7.6%の順であった(図)。
EHEC診断方法と分離菌およびO抗原凝集抗体
診断方法は, 便からの菌の分離が55例(75.3%), 血清からのO抗原凝集抗体の検出が16例(21.9%), 便からのVero毒素(VT)検出が2例(2.7%)であった(表)。
55例から分離された菌のO血清群(O群)とVT型は, O群別ではO157が48例(89.1%), O172とO86が各1例(1.8%)で, VT型ではVT2陽性株(VT2単独またはVT1&2)が47例(85.5%)を占めた。
感染原因・感染経路
確定または推定として報告された感染原因・感染経路は, 経口感染が40例(54.8%), 接触感染が10例(13.7%), 動物・蚊・昆虫等からの感染が1例(1.4%), 「記載なし」または「不明」の報告が22例(30.1%)であった。経口感染と報告された40例中30例に肉類の喫食の記載があり, うちユッケ2例, 生レバー2例の報告があった。
臨床経過(症状・転帰)
届出に記載されたHUS発症例の臨床症状は, 血便67例(91.8%), 腹痛65例(89.0%)が多かった。また痙攣4例(5.5%), 昏睡1例(1.4%), 脳症は7例(9.6%)であった。なお, 届出時の死亡は1例であった。
病原体検出情報
感染症サーベイランスシステムの病原体検出情報サブシステムに報告されたEHEC検出例のうち, HUS発症例は17例であった。報告されたO群はすべてO157で, 反復配列多型解析(multilocus variable-number tandem-repeat analysis: MLVA)法による解析結果が入力されていた報告は12例であった。その内訳は21m0325:2例, 24m0248:2例, 21m0054, 22m0066, 22m0163, 23m0161, 23m0705, 24m0057, 24m0438, 24m0558は各1例であった(2024年3月21日現在報告数)。
考察
2024年に届け出られたEHEC感染症の有症状者数(2,294例)は, 2023年(2,548例)と比べて254例減少した。有症状者に占めるHUS発症例は73例(3.2%)で, 2023年の68例(2.7%)と比べ増加していたが, 2012~2024各年のHUS発症例数と割合〔58-112例(2.6-4.3%)〕と同等であった。
感染原因・感染経路に関する記載では, 2024年においても例年同様「肉類の喫食」が一定数報告され, うちEHEC感染リスクが高い生肉喫食の記載も依然として数例報告されており, 引き続き注視する必要がある。EHEC感染にともなうHUS等の重症化の機序は不明な点が多いため, EHECの感染そのものを予防することが重要である。EHECの感染予防策としては, 生肉(加熱不十分な肉を含む)の喫食を避けること, 食事前に手を洗うこと, 等の基本的な食中毒予防策の実施を励行することが重要である。また, 患者や動物との接触感染予防のための手洗いの実施などの基本的な感染症対策を励行することも大切である。
国立健康危機管理研究機構国立感染症研究所
感染症サーベイランス研究部第一室