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マクドナルドで提供されたタマネギによる腸管出血性大腸菌食中毒事例調査―米国

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マクドナルドで提供されたタマネギによる腸管出血性大腸菌食中毒事例調査―米国

(IASR Vol. 46 p107-108: 2025年5月号)

米国疾病予防管理センター(CDC)は, マクドナルドで提供されたタマネギに関連して米国の複数州にわたり発生した腸管出血性大腸菌(EHEC)の広域アウトブレイク事例について, 2024年10月22日に公表した(最終更新日:同年12月3日)。本事例の疫学調査の概要は以下の通りである。

アウトブレイクの探知(2024年10月22日時点)

CDC, 複数州の公衆衛生および規制部局, 米国食品医薬品局(FDA)および米国農務省食品安全検査局(USDA-FSIS)は疫学情報をはじめとする様々なデータを収集し, EHEC O157:H7による複数州にわたる広域事例の調査を開始した。

疫学情報からは, マクドナルドで提供されたクォーターパウンダー・ハンバーガーの喫食と発症の関連が示唆された。

調査初期の10月22日の時点では, アウトブレイクに関連する菌株が検出された49人の感染者が10州から報告され, 最初の症例の発症日は9月27日であった。10人が入院し, 1人が溶血性尿毒症症候群(HUS)を発症した。州の公衆衛生部局が18人に対して発症前の喫食状況を調査したところ, 18人全員(100%)がマクドナルドを利用し, そのうち16人がハンバーガーを喫食していた。さらに, 14人中12人(86%)がクォーターパウンダー・ハンバーガーを喫食していたことも判明した。

調査初期の段階では, クォーターパウンダー・ハンバーガーが感染源として疑われ, クォーターパウンダー・ハンバーガーに使用されていたタマネギや牛肉パテがEHECに汚染されている可能性があるとして, さかのぼり調査が実施された。

疫学調査, 曝露源の絞り込み(2024年12月3日時点)

疫学調査の結果, 最終的に14州から計104人の感染者が報告され, 感染者の発症日は2024年9月12日~10月21日までであった()。

情報が得られた98人の症例のうち34人が入院し, 4人がHUSを発症した。また, コロラド州の高齢者1人(HUS非発症者)が死亡した。感染者の特徴として, 年齢中央値は28歳(範囲:1~88歳)であった。性別は男性が60%, 女性が40%であり, 人種は白人が95%であった。

なお, 受診せずに回復した人や検査を受けていない人が報告よりも相当数いると考えられることから, 本アウトブレイクの実際の患者数は報告された数を大きく上回る可能性があった。少なくとも7人が他州への旅行時にマクドナルドを利用しており, 報告のあった14州以外にも患者が存在している可能性が考えられた。

アウトブレイクの発生を受けて, 州の公衆衛生部局は症例への聞き取り調査を実施した。その結果, 症例の多くは発症前の1週間以内にマクドナルドを利用していたことが判明した。回答が得られた81人中80人(99%)がマクドナルドで飲食したことを報告し, そのうち喫食した具体的なメニューを覚えていた75人中63人(84%)が, 生のスライスタマネギを使用したメニューを喫食していた。当初は, スライスタマネギと牛肉パテが感染源として疑われたが, 調査が進むにつれて, 生のスライスタマネギの方が感染源としてより強く示唆されるようになった。

さかのぼり調査(2024年10月30日時点)

FDAはTaylor Farms社のタマネギ加工施設(コロラド州)とタマネギの栽培業者(ワシントン州)へ立入り調査を実施した。

一方, コロラド州農政部局(CDA)の検査部門はマクドナルドの店舗から採取した生または冷凍の牛肉パテの全ロットを検査した。いずれの検体からも大腸菌は検出されなかった。また, USDA-FSISはマクドナルドで提供されたクォーターパウンダー・ハンバーガーに使用された牛肉パテのさかのぼり調査を実施した。牛肉パテに使用された牛肉のサプライチェーンの特定には至らず, 牛肉パテが感染源である可能性を示す根拠は認められなかった。

病原体解析

CDCのPulseNetシステムを通じた全ゲノム解析の結果, このアウトブレイクで報告された感染者から検出されたEHEC菌株は, 遺伝子配列的に密接な関連のある株であることが判明し, 感染者らは同一の感染源から感染した可能性が示唆された。さらに, 全ゲノム解析から, これらの菌株は複数の抗菌薬に対して耐性を示すことが予測されたが, EHEC感染症の治療ガイダンスでは抗菌薬の使用が推奨されていないため, 治療方針への影響はないと考えられる。

一方, FDAはリコール対象となったタマネギや, タマネギの栽培者の環境検体を検査した。O157以外のEHECが検出されたが, 今回のアウトブレイクに関連するEHEC菌株は検出されなかった。

公衆衛生対策

マクドナルドは, 感染源が特定されるまでの間, 複数州の店舗でスライスタマネギと牛肉パテの使用を中止し, 一部の州ではクォーターパウンダー・ハンバーガーの販売を一時的に停止した。

また, Taylor Farms社は10月22日に, マクドナルドへ供給していた当該スライスタマネギのリコールを開始し, マクドナルドを含む販売先に対して当該品の撤去を要請した。

出典:CDC, E. coli Outbreak, Onions Served at McDonald’s-November 13, 2024
https://www.cdc.gov/ecoli/outbreaks/investigation-update-e-coli-o157-2024.html

 抄訳担当:国立健康危機管理研究機構国立感染症研究所
      実地疫学専門家養成コース(FETP)
       森 秀哉 村井達哉 田才愛子 中満智史 立花佳弘 高良武俊 
       中村夏子 折目郁乃 椎木創一 村井晋平 塩本高之 高橋佑紀 
      応用疫学研究センター
       八幡裕一郎 塚田敬子 島田智恵 砂川富正
      感染症サーベイランス研究部
       高橋琢理 高原 理      

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