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RSVワクチン(高齢者の立場から)

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RSVワクチン(高齢者の立場から)

(IASR Vol. 46 p123-124: 2025年6月号)

高齢者向けRSVワクチン

現在, 高齢者向けのrespiratory syncytial virus(RSV)ワクチンは, 2製品が国内で使用可能である(表1)。両ワクチンともランダム化試験で複数年の有効性が調べられた。事前に規定された1シーズン目の中間解析で主要評価項目であるRSVの下気道感染の予防効果が示された。その結果を受けて, 上記ワクチンは各国で使用の承認がおりた。国内で現在使用可能なRSVワクチンは不活化ワクチンである。

RSVに感染すると, 鼻汁, 咳, 痰, 呼吸困難などの上・下気道症状を呈しやすい。しかし, 高齢者では, 心臓や肺に慢性疾患を有することが多く, それらの基礎疾患の症状とRSV感染症による症状の悪化を区別することは難しい。そのため, 主要評価項目の定義が試験により大きく異なる。また, 1つの試験でも主要評価項目の定義が2つある場合もある。RSVPreF3 OAワクチン(AREXVY)ではRSV下気道感染に対する有効率は82.6〔96.95% 信頼区間(CI):57.9-94.1〕%であった1)。2価RSVPreFワクチン(ABRYSVO®)では, 主要評価項目は2つ(下気道感染の症状・所見が2つ以上, または3つ以上)存在する。それぞれの有効率は66.7(96.66% CI:28.8-85.8)%, 85.7(96.66% CI:32.0-98.7)%であった2)。また, 現在は2シーズン目までの試験結果が判明しており, 少なくとも2シーズン目までの有効性があると考えられる。AREXVYでは2シーズン目までの有効性は, 67.2(97.5% CI:48.2-80.0)%となっている3)。一方, ABRYSVO®は, RSV下気道感染に対する2つの基準での有効率は, それぞれ58.8(95% CI:43.0-70.6)%, 81.5(95% CI:63.3-91.6)%であった4)。ただし, 各試験で有効性の定義や対象患者が異なり, 有効性の数字を直接比較することはできない。また, 主な副反応は局所症状であった。市販後の調査などから, RSVワクチンにギランバレー症候群を増加させる可能性が指摘された。ギランバレー症候群の増加は100万回の接種に対し, 10例以内と推定されており, 極めて稀であるため, 米国食品医薬品局(FDA)ではワクチン接種の有益性がリスクより上回る, と現状では結論付けている5)

リアルワールドデータでのRSVワクチンの有効性

リアルワールドデータでの解析では, RSVワクチンが使用可能になった2023年の冬季シーズンに, 米国の60歳以上を対象にしたケースコントロール研究が報告されている。この研究では, 臨床的にRSVが疑われ, RSVの検査が行われた入院患者を対象に, 陽性者と陰性者でRSVワクチンの接種歴を調べ, ワクチンの有効性を評価している。研究期間内に36,706人がRSVを疑う症状を有して入院し, RSVの検査が行われ, 1,926(5%)が陽性であった。免疫不全者を除く患者で, RSVによる入院に対するワクチン効果は80(95% CI:71-85)%, RSVによる重症(ICU入室または死亡)に対するワクチン効果は81(95%CI:52-92)%と示された。この結果から, 1シーズンにおける入院抑制効果が観察された。また, 入院回避の点でも, AREXVYは83(95% CI:73-89)%, ABRYSVO®は73(95% CI:52-85)%と, ワクチンの違いで有意な差は認めていない6)表2に示すように米国, 英国では, 75歳以上は基礎疾患がない場合でもRSVワクチン接種が推奨されている。また, 米国では60~74歳で重症化リスクの高い方への接種も推奨している7,8)

まとめ

高齢者向けのRSV不活化ワクチンは, 2シーズン目までRSVによる下気道感染を防ぐ効果が示されている。

参考文献

  1. Papi A, Ison MG, et al., N Engl J Med 388: 595-608, 2023
  2. Walsh EE, et al., N Engl J Med 388: 1465-1477, 2023
  3. Ison MG, et al., Clin Infect Dis 78: 1732-1744, 2024
  4. Walsh EE, et al., N Engl J Med 391: 1459-1460, 2024
  5. FDA, FDA Requires Guillain-Barré Syndrome (GBS) Warning in the Prescribing Information for RSV Vaccines Abrysvo and Arexvy
    https://www.fda.gov/vaccines-blood-biologics/safety-availability-biologics/fda-requires-guillain-barre-syndrome-gbs-warning-prescribing-information-rsv-vaccines-abrysvo-and(2025年3月9日アクセス)
  6. Payne AB, et al., Lancet 404: 1547-1559, 2024
  7. CDC, Respiratory Syncytial Virus Infection (RSV), RSV Vaccine Guidance for Older Adults
    https://www.cdc.gov/rsv/hcp/vaccine-clinical-guidance/older-adults.html(2025年4月20日アクセス)
  8. Department of Health & Social Care, Independent report, Respiratory syncytial virus (RSV) immunisation programme for infants and older adults: JCVI full statement, 11 September 2023, Updated 11 September 2023
    https://www.gov.uk/government/publications/rsv-immunisation-programme-jcvi-advice-7-june-2023/respiratory-syncytial-virus-rsv-immunisation-programme-for-infants-and-older-adults-jcvi-full-statement-11-september-2023#conclusions-and-adviceb(2025年4月20日アクセス)

  杏林大学医学部臨床感染症学
   倉井大輔

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