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麻しんの航空機内接触者調査の対応と関係機関連携

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麻しんの航空機内接触者調査の対応と関係機関連携

(IASR Vol. 46 p140-1416: 2025年7月号)

はじめに1,2)

わが国では, 麻しんの対策は, 「麻しんに関する特定感染症予防指針」〔平成19(2007)年12月28日厚生労働省告示第442号。以下, 予防指針〕に沿って, 発生原因の究明, 発生の予防およびまん延の防止, 医療の提供, 研究開発の推進, 国際的な連携, 評価および推進体制と普及啓発の充実等の対策を行っている。2015(平成27)年の世界保健機関(WHO)西太平洋地域事務局(WPRO)からの麻しん排除認定以降, 2025(令和7)年6月現在も排除認定を維持しており, 土着株の感染伝播(地域や国で, 国内または海外由来にかかわらず, ある麻しんウイルス株が12カ月以上持続的に感染伝播している状態)は認められていないが, 海外からの輸入事例やその輸入事例を発端とした限定的な国内流行については, 2019(令和元)年までは毎年100例以上報告されてきた。

2020(令和2)年の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行以降, 麻しんの報告は低調となっていたが, 2023(令和5)年以降, 世界的にも麻しんの流行が報告されており, 訪日外客数が多い地域である東南アジア地域についても, 世界的に麻しんの症例報告数が多い地域の1つとなっている。日本国内では海外からの輸入症例を契機に二次感染を起こしている事例が報告されており, 国内の麻しんの発生状況は, 感染症発生動向調査より, 2023年は28例, 2024(令和6)年は45例, 2025年は135例(第23週時点, 2025年6月11日現在暫定値)が届出されている。

麻しん患者の航空機搭乗事例とその対応3-5)

2024年2月に東大阪市保健所で届出を受理した麻しん検査陽性例に対して, 感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律〔平成10(1998)年法律第114号。以下, 感染症法〕第15条第1項に基づき, 東大阪市が積極的疫学調査を行ったところ, 感染可能期間に約9時間の飛行時間を要する国際線の航空機に搭乗しており, 航空機内での麻しんの感染伝播の可能性が挙がり, 搭乗者全員を接触者として調査を行うことが必要となったため, 東大阪市からの一報を厚生労働省(厚労省)が受けた。

航空会社からの搭乗者名簿の提供, 厚労省と国立感染症研究所(当時), 大阪府, 東大阪市等との連携, 国際保健規則(International Health Regulation: IHR)に基づく関連国への接触者の情報提供等を行い, 接触者の健康観察を行った結果, 本陽性例に関連した麻しん患者は計14名(本人含む)報告されたが, 接触者の健康観察とともに, 緊急ワクチン接種, 免疫グロブリン製剤投与, 感染対策を行った結果, 三次感染例の報告はなく終息を迎えられた。

麻しんの航空機内接触者調査およびIHRに基づく連携6)

航空会社から搭乗者名簿を提供いただいた後, 国内に所在する接触者については所在地の管轄自治体に健康観察依頼を行い, 接触者対応を感染症法に基づき各自治体が行う。

一方で, 国外に所在する接触者については, IHR第30条の公衆衛生上の観察下にある旅行者(Travellers under public health observation)もしくは, 第44条の協働及び援助(Collaboration and assistance)に基づき, 対象国のIHR国家連絡窓口に通報している。国内のみならず国外での麻しんの感染拡大予防についても, IHRに基づき各国と連携を取りながら行っている。

また, 同様に, 各国から本邦のIHR国家連絡窓口に通報することで, 邦人の麻しんの航空機内接触者情報を通報いただいた際は, 厚労省より管轄自治体に健康観察依頼等を行っている。

総括―麻しん対応の関係機関連携―

予防指針では, 「第二 原因の究明」の「五 麻しん発生時の迅速な対応」において「国は複数の都道府県等にまたがって広域的に感染症が発生した場合に備え, 都道府県の情報共有及び連携体制の方針を示し, 技術的援助の役割を積極的に果たす」ことが示されており, また, 「第六 国際的な連携」の「一 基本的考え方」において「国は, 世界保健機関をはじめ, その他の国際機関との連携を強化し, 情報交換等を積極的に行うことにより, 世界的な麻しんの発生動向の把握, 麻しんの排除の達成国の施策の研究等に努め, 我が国の麻しん対策の充実を図っていくことが重要である。」と示している。

予防指針に基づき, 厚労省では, 「麻しんの国内外での報告増加に伴う注意喚起について(協力依頼)」〔令和7(2025)年3月19日付け厚生労働省健康・生活衛生局感染症対策部感染症対策課・予防接種課事務連絡〕の発出を行い, 「第二 自治体における対応」において「5 患者の行動歴等から広域にわたる麻しん事例の発生が危惧される又は実際に発生がみられる時には, 国や自治体間の連携が非常に重要となることから, そのような事案の発生時においては国立感染症研究所への疫学調査支援の要請を積極的に検討すること。」と示している。

予防指針に「引き続き麻しんの排除の状態を維持することを目標とする」と掲げていることを踏まえて, さらなる関係機関連携による麻しん対応へのご協力を願いたい。

参考文献

  1. 厚生労働省, 麻しんに関する特定感染症予防指針, 平成19年厚生労働省告示第442号
  2. WHO, Regional Office for the Western Pacific, Guidelines on verification of measles and rubella elimination in the Western Pacific Region, 2nd ed, 2019
  3. 吉田香織ら, IASR 45: 155-156, 2024
  4. 佐々木広視ら, IASR 45: 156-158, 2024
  5. 本村和嗣ら, IASR 45: 224-226, 2024
  6. WHO, International Health Regulations(2005)-Third edition, 24 Mar 2016

 厚生労働省健康・生活衛生局感染症対策部
  感染症対策課             
   荒木裕人 佐野圭吾 大塚和子    
   松平 慶 越後屋百合 柿崎伸秀   
   山口有紀(麻しん担当)

          

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