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<特集> HIV/AIDS 2024年

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HIV/AIDS 2024年

(IASR Vol. 46 p191-193: 2025年10月号)

わが国は, 1984年9月にエイズ発生動向調査を開始し, 1989年2月~1999年3月はエイズ予防法, 1999年4月からは感染症法のもとに施行してきた。診断した医師には全数届出が義務付けられている(届出基準はhttps://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-05-07.html)。本特集の統計は, 厚生労働省エイズ動向委員会:令和6(2024)年エイズ発生動向年報に基づいている(同年報は厚生労働省健康・生活衛生局感染症対策部感染症対策課より公表されている:https://api-net.jfap.or.jp/status/japan/nenpo.html)。

新たにHIV感染症と診断され, 届出された者は, HIV感染者とAIDS患者に分類される(定義は下記脚注の通り)。1985~2024年の累積報告数(凝固因子製剤による感染例を除く)は, HIV感染者25,194(男性22,523, 女性2,671), AIDS患者11,181(男性10,252, 女性929)である(図1)。なお, 「血液凝固異常症全国調査」(2024年5月31日現在)によると, 血液凝固因子製剤による感染者は累積1,440(死亡者747)である。2024年, 世界中で約4,080万人のHIV感染者/AIDS患者がおり, 年間約130万人の新規感染者, 約63万人のAIDS関連疾患による死亡者が出ていると推定されている(UNAIDS FACT SHEET 2024; https://www.unaids.org/en/resources/fact-sheet)。

本邦の2024年のHIV/AIDS報告数:2024年の新規報告数は, HIV感染者662(男性625, 女性37), AIDS患者332(男性312, 女性20)であった(図2)。HIV感染者とAIDS患者を合わせた新規報告数に占めるAIDS患者の割合は33.4%(日本国籍32.8%, 外国国籍35.9%)であった。HIV感染者662中, 日本国籍者は539(男性520, 女性19), 外国国籍者は123(男性105, 女性18), AIDS患者332中, 日本国籍者は263(男性253, 女性10), 外国国籍者は69(男性59, 女性10)であった。日本国籍男性, 日本国籍女性, 外国国籍女性のHIV感染者新規報告数はそれぞれ前年より9件, 7件, 10件増加し, 外国国籍男性のHIV感染者新規報告数は前年より33件減少した。日本国籍男性, 日本国籍女性, 外国国籍男性, 外国国籍女性のAIDS患者新規報告数はそれぞれ前年より6件, 5件, 24件, 6件増加した(図3)。

HIV感染者新規報告において, 同性間性的接触(両性間性的接触を含む)が63.0%(417/662)〔日本国籍男性の67.7%(365/539), 外国国籍男性の42.3%(52/123)〕を占め, 異性間性的接触は16.0%(106/662), 静注薬物使用は0%(0/662), 母子感染は0%(0/662), その他は8.3%(55/662), 不明は12.7%(84/662)であった(図4)。日本国籍男性の80.3%(433/539), 外国国籍男性の90.2%(111/123)は20~40代であった(図5)。

注)国籍については, 届出票の記載1日本, 2その他( ), 3不明のうち, 1を日本国籍, 2と3を外国国籍として集計している。

HIV感染者の推定感染地域:1992年までは海外での感染が主であったが, それ以降は国内感染が大部分である。2024年のHIV感染者の推定感染地域は, 国内感染が全体の77.8%(515/662), 日本国籍者の84.8%(457/539), 外国国籍者の47.2%(58/123)であった。

報告地(医師により届出のあった地):東京都(HIV感染者227, AIDS患者63), 東京都を除く関東・甲信越(HIV感染者122, AIDS患者87), 近畿(HIV感染者91, AIDS患者55), 東海(HIV感染者82, AIDS患者36), 九州(HIV感染者64, AIDS患者45), 北海道・東北(HIV感染者39, AIDS患者20), 中国・四国(HIV感染者28, AIDS患者23), 北陸(HIV感染者9, AIDS患者3)の順に多かった。報告地ブロックの区分はエイズ発生動向年報表10-1に基づいている。

診断時のCD4値:2019年から診断時のCD4値が発生届に追加され集計が開始された。2024年新規報告のうちCD4値の記載のあったものはHIV感染者で65.9%(436/662), AIDS患者で85.2%(283/332)であった。CD4値の記載のあった2024年HIV感染者新規報告のうち, CD4値<200/μLの割合は33.7%(147/436)〔2023年:34.5%(124/359)〕であった(図6)。

参考情報1 献血者のHIV陽性率:陽性件数および献血10万件当たり陽性件数は4年ぶりに増加し, 2024年は献血件数5,013,064件中31件(男性31件, 女性0件), 10万件当たり0.618であった(図7)。

参考情報2 自治体が実施したHIV抗体検査:自治体が実施する保健所等におけるHIV抗体検査実施件数は, 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行以降の2020~2022年は年間6-7万件前後の低い水準が続いていたが, 2023年(106,137件)は4年ぶりに10万件を超えた。2024年(108,988件)も前年に引き続き10万件を超えたが, COVID-19流行以前の2019年(142,260件)と比較すると低い水準である(図8)。

陽性件数は2024年267件(2019年437件, 2020年290件, 2021年293件, 2022年269件, 2023年316件), 陽性率は2024年0.24%(2019年0.31%, 2020年0.42%, 2021年0.50%, 2022年0.37%, 2023年0.30%)であり, 2005年以降で最も低かった。このうち, 保健所での検査陽性率は2024年0.21%(152/71,751)〔2023年0.22%(156/70,208)〕, 自治体が実施する保健所以外での検査における陽性率は2024年0.31%(115/37,237)〔2023年0.45%(160/35,929)〕で, 後者での検査の陽性率が前年より大きく減少した。

まとめ:2020年以降, 新規報告数が大きく減少する年があった中で, 2024年はHIV感染者新規報告数は前年より7件減少(ただし, 日本国籍男性, 日本国籍女性, 外国国籍女性は前年より増加)し, AIDS患者新規報告数は2年連続で増加した。AIDS患者新規報告数の増加について, 国内で2020年1月に初めて報告されたCOVID-19の流行にともなう検査機会の減少等の影響で, 2020年以降, 無症状感染者が十分に診断されていなかった可能性に留意する必要がある(IASR 42: 213-215, 2021)。前年までと同様に, 日本国籍男性における同性間性的接触を推定感染経路とする新規報告が大半を占めている。外国国籍男性について, HIV感染者新規報告数は2017年をピークとしていったんは減少傾向となっていたが, 2023年に6年ぶりに増加し, 過去最多となり, 2024年は前年より減少した。一方でAIDS患者新規報告数は2年連続で増加し, 2001年に次いで多い報告数となった。特に20代と30代での増加が大きく, 九州以外のすべての報告地ブロックで前年より増加した。外国国籍を有する者に対する検査体制や受診しやすい環境の整備が重要である。

HIV感染症は根治はできないものの, 適切な治療で血中ウイルス量を抑制することにより, 免疫機能を維持・回復し, 良好な予後を見込むことが可能となり, 性交渉による他者への感染を防げることも明らかとなっている。引き続きエイズ予防指針に基づいた予防対策を進め, 人権に配慮したうえで, HIV感染症の早期診断, 早期治療のために検査の必要性を広報し, 多様な場面での検査機会の提供, および自治体での検査体制をより充実させることが求められる。


脚注
HIV感染者:感染症法に基づく届出基準に従い「後天性免疫不全症候群」と診断されたもののうち, AIDS指標疾患(届出基準参照)を発症していないもの。
AIDS患者:初回報告時にAIDS指標疾患が認められAIDSと診断されたもの(すでにHIV感染者として報告されている症例がAIDSと診断された場合には含まれない)。ただし, 1999(平成11)年3月31日までのAIDS患者には病状変化によるAIDS患者報告が含まれている。

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