急性呼吸器感染症サーベイランスの各システムにおける報告例の年齢群別分布の検討、2025年第15~26週
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急性呼吸器感染症サーベイランスの各システムにおける報告例の年齢群別分布の検討、2025年第15~26週
(IASR Vol. 46 p234-236: 2025年11月号)
急性呼吸器感染症(Acute Respiratory Infection: ARI)は感染症法における5類感染症定点把握疾患として位置づけられ1), 2025年4月7日よりARI定点(小児科約2,000, 内科約1,000)から症例定義に該当するARI患者数が報告される「ARIサーベイランス」が開始された。
ARI定点のうち, 約10%(約300カ所)はARI病原体定点に指定されており, 各病原体定点から週当たり5件を目標としてARI患者から鼻咽頭ぬぐい液などの呼吸器検体が採取される2)。この検体を用いた「ARI病原体サーベイランス」では, 病原体の陽性率の算出を目的の1つとしており3), 地方衛生研究所等において, インフルエンザウイルス, SARS-CoV-2, RSウイルス, ヒトパラインフルエンザウイルス, ヒトメタニューモウイルス, ライノ/エンテロウイルス, アデノウイルス等の呼吸器ウイルスについて, 主として核酸増幅検査を行っている。検査結果は, 陰性, 未実施も含め「異常事象検知サーベイランスサブシステム」に登録され, 集計結果が還元されている3)。
さらに「ARI病原体サーベイランス」で陽性検体から検出された病原体の型・亜型等の詳細な検出結果が「病原体検出情報サブシステム」に登録され, 集計結果が還元されている4)(図1)。
本稿は2025年4月7日~6月29日まで(2025年8月13日時点のデータ)に報告されたARI患者, および同期間にARI病原体定点で検体が採取されてその検査結果が, 2つのサブシステムにおける3つのサーベイランス, すなわち異常事象検知サーベイランスサブシステム(ARIサーベイランス&ARI病原体サーベイランス)および病原体検出情報サブシステムに登録された報告例について集計して整理した。
「ARIサーベイランス」には2,553,287例のARI患者が当該期間に報告された。その年齢群別報告数をみると, 1~4歳が最も多く(977,377例, 38.3%), 次いで5~9歳(491,065例, 19.2%)と10~14歳(263,716例, 10.3%)であった。0歳は201,205例(7.9%)であった。また, 20~59歳は325,917例(12.8%)であり, 60歳以上は204,768例(8.0%)であった(図2A)。
「ARI病原体サーベイランス」に報告された10,574例を年齢群別にみると, 小児では, 最も多かった年齢群は1~4歳で3,518例(33.3%)であり, 次いで5~9歳(1,121例, 10.6%)および10~14歳(958例, 9.1%)であった。成人では, 20~59歳が2,288例(21.6%)であり, 60歳以上は1,245例(11.8%)であった(図2B)。性別は男性5,543例(52.4%), 女性5,031例(47.6%)であった。年齢群別の呼吸器ウイルスの陽性数(陽性率)をみると, 50歳未満の年齢群ではライノ/エンテロウイルスが最も多く, 40~49歳の88件(17.6%)から1~4歳の1,350件(38.4%)であった。50~59歳ではパラインフルエンザウイルス, 60歳以上ではSARS-CoV-2が最も多く, それぞれ108件(18.5%), 224件(18.2%)あった(表)。検出された病原体の上位3つは, ライノ/エンテロウイルス3,017件(25.6%), パラインフルエンザウイルス31,850件(15.7%), SARS-CoV-2 739件(6.3%)であった。また, 検出なしは3,765件(31.9%)であった。
「病原体検出情報サブシステム」に報告された症例は4,501例(重複を含む)であった。年齢群別にみると, 1~4歳:1,975例(43.9%)が最も多く, 次いで0歳:554例(12.3%), 5~9歳:396例(8.8%)の順であり, 10歳未満が全体の65.0%を占めた。また20~59歳:658例(14.6%)で, 60歳以上:433例(9.6%)であった(図2C)。性別は男性2,322例(51.6%), 女性2,178例(48.4%), 不明が1例であった。年齢群別に検出病原体をみると, 0歳と1~4歳ではパラインフルエンザウイルスが最も多く報告された。それ以上の年齢群ではライノ/エンテロウイルスが最多であったが, 30~39歳および50~59歳ではパラインフルエンザウイルス, 60歳以上はSARS-CoV-2が最多であった(表)。検出された病原体の上位3つは, ライノウイルス1,172件, パラインフルエンザウイルス3型1,086件, SARS-CoV-2 363件であり, 全体の58.2%を占めていた。「ARI病原体サーベイランス」の検査項目に含まれていない細菌の報告は55件で, 内訳はマイコプラズマ・ニューモニエ29件, A群溶血性レンサ球菌14件, 百日咳菌12件であった。
「ARIサーベイランス」および「ARI病原体サーベイランス」では, ゴールデンウィークの影響が考えられる第18~19週には報告数が減少した。その後第25, 26週にかけて再び減少したが, おおむね第15~17週と同じ水準で推移していた(図2A, B)。「病原体検出情報サブシステム」では, 第20週以降は, 第15週~17週の報告数よりも少ない水準で推移していた。理由はあきらかではないが, ライノ/エンテロウイルスで型別検査を行わなかった場合には入力は不要, 等の周知が進み, 全体の報告数が減少した可能性が考えられる。
「ARIサーベイランス」および「ARI病原体サーベイランス」の報告における10歳未満の割合はそれぞれ65.4%と52.2%であった。ARI定点が, 小児科に多く設定されていることが, 10歳未満が相対的に多い理由として考えられる。2つのサーベイランスの報告に差があったのは, 検体のとりやすさ, あるいは年齢を考慮した割り付けを医療機関で行ったことが考えられる。一方で, 「ARI病原体サーベイランス」では15~59歳の割合は27.0%を占めており, 「病原体検出情報サブシステム」での同年齢群の割合は17.9%であった。この差の理由として, 「ARI病原体サーベイランス」では陰性も報告していることが考えられる。60歳未満の年齢群では, ライノ/エンテロウイルスないしパラインフルエンザウイルスが最も多かったが, 60歳以上の年齢群では, SARS-CoV-2が最も多く報告された。
ARIサーベイランスにおける3つのサーベイランスでの比較を行ったところ, 「病原体検出情報サブシステム」を除いて, 週当たりの報告数のトレンドは同様であったが, 各システムでの年齢群の割合には差異がみられた。全体的にサーベイランスの設計を反映して小児に偏っているが, 「ARI病原体サーベイランス」は10歳未満の割合が少なく, 60歳以上の割合が多かった。また今回の集計はインフルエンザ, 新型コロナウイルス感染症(COVID-19), あるいはRSウイルス感染症の発生動向が低い水準である期間を対象としたものであったが, 年齢群別に最も多く報告された病原体にも違いがみられ, 60歳以上ではSARS-CoV-2が最も多かった。これらの背景を踏まえながらARIの報告数を引き続き分析・解釈していく必要があると考えられる。
参考文献
- 厚生労働省健康・生活衛生局感染症対策部感染症対策課, 感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律第12条第1項及び第14条第2項に基づく届出の基準等について(一部改正), 令和7(2025)年3月26日付感感発0326第8号
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001464047.pdf - 厚生労働省健康・生活衛生局感染症対策部感染症対策課, 急性呼吸器感染症(ARI)サーベイランスに係る具体的な方針について(報告)
https://www.mhlw.go.jp/content/10906000/001314356.pdf - 国立健康危機管理研究機構感染症情報提供サイト, 急性呼吸器感染症(ARI), 急性呼吸器感染症サーベイランス週報
- 国立健康危機管理研究機構感染症情報提供サイト, IASR速報グラフ ウイルス
国立健康危機管理研究機構
国立感染症研究所
感染症サーベイランス研究部
閻 芳域注) 高原 理注) 大谷可菜子
滝沢木綿 木村哲也 神垣太郎
注)両者は本文に対し同等の貢献をした
