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2024年末~2025年始の爆発的なインフルエンザの流行によって地域医療が受けた影響―金沢市

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2024年末~2025年始の爆発的なインフルエンザの流行によって地域医療が受けた影響―金沢市

(IASR Vol. 46 p214-216: 2025年11月号)

2024/25シーズンのインフルエンザ発生動向

図1に, 2023年第19週~2025年第36週までの全国のインフルエンザおよび新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の定点当たり報告数を示す。COVID-19は, 2023年5月に5類定点報告疾患に変更された後も季節に関係なく報告数のピークがみられたのに対し, インフルエンザは例年通り年末年始をピークに感染が拡大した。この流行はA/H1pdm09亜型によるものであり, COVID-19の流行期間中にインフルエンザに対する集団免疫が低下していたことが, 急速な感染拡大の一因と考えられる。特に2024/25シーズンは, 2024年第52週において定点当たり報告数が64.39, 患者報告数が317,812人に達し, 記録的な大流行となった。しかし, 2025年第1週には定点当たり報告数33.82, 第5週には5.87と急速に減少した1,2)

図2は, 2021~2025年における金沢市のインフルエンザ定点からの報告数を示す。いわゆる「コロナ禍」〔2020年1月30日の世界保健機関(WHO)による「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」発出から, 2023年5月5日の終了宣言までの約3年3カ月間〕終了直後から, インフルエンザの発生が再び顕著となり, 2023/24および2024/25のシーズンは, コロナ禍以前と同様の流行パターンを示した。特に2024/25シーズンは, 年末年始の9連休に流行のピークが重なり, 2024年第51週には定点当たり報告数が20を超え, 2025年1月第5週までの約1カ月間にわたり急峻な流行がみられた3)。感染拡大のタイミングが学校の冬休みと重なったため, 感染者の多くは小児よりも成人であり, 年末年始の地域医療体制に大きな混乱をもたらした。

金沢市の時間外救急医療体制

金沢市は人口45.5万人(2025年1月時点)の県庁所在地で, 中核市移行以前から保健所を設置している。石川県中央医療圏(4市2町)に位置し, 病院43施設, 有床診療所21, 無床診療所342(施設内を除く)と医療資源に恵まれている。時間外診療体制は, 休日の日中(9:00~18:00)に12カ所の当番医(歯科含む)を金沢市医師会・歯科医師会に委託。診療科は, 内科4, 小児科1(年末年始・ゴールデンウィークは2), 整形外科, 産婦人科, 耳鼻咽喉科, 眼科, 皮膚泌尿器科, 外科, 歯科が各1カ所ずつである。

また, 夜間の一次救急診療は金沢駅西福祉健康センターを大規模改修し, 2018年4月に内科・小児科の夜間急病診療所(金沢広域急病センター4))を開設(金沢健康福祉財団へ運営委託)。診療時間は19:30~23:00で, 内科は市医師会から, 小児科は中央医療圏内の医師会から医師を派遣。薬剤師は市薬剤師会, 看護師は財団が独自に雇用している。

2024年末~2025年始における金沢市内の救急状況

(1)金沢市休日当番医(図3

年末年始の休日(12月29日~1月3日, 1月5日)は, 9診療科13医療機関が9:00~18:00に診療を実施し, 広く市民に周知された。この7日間で延べ91医療機関が開設され, 1日200人以上の受診があった医療機関は6カ所(最大251人受診), 100人以上は19カ所に及んだ。12~2月の3カ月間は, インフルエンザ流行に関連する内科(4カ所), 小児科(2カ所), 耳鼻咽喉科(1カ所)の受診者数のうち, 年末年始の連休中に集中した割合は55.1%に達した(図3中の参考表)。また, 薬剤の供給もひっ迫しており, 抗インフルエンザ薬, 解熱剤, 鎮咳剤などは出荷調整がかかり, 薬局在庫が枯渇した。連携する調剤薬局での調剤拒否には至らなかったものの, 代替処方の検討や医師への疑義照会に多くの時間がかかり, 薬局も医療機関と同様にひっ迫した。

車内で診察を待つ患者が多く, 駐車場に収まりきらない車が近隣道路にあふれ, 交通渋滞となり, 警察の出動に至る事例も発生した。

(2)金沢広域夜間急病センター(図3

2024年12月29日~2025年1月3日, 1月5日の計7日間開設。日中は小児科(9:00~18:00), 夜間は内科2名・小児科2名の4名体制(19:30~23:00)で対応。受付開始前から電話が鳴りやまず, 電話が繋がらなかった市民が直接来所した。熱発者が殺到し, トリアージや動線確保も追いつかなかった。電話回線はパンクし, 医師の急な欠勤対応にも支障をきたした。日中開設の休日当番医では想定以上の受診者数となったため, 受付を早期に終了したクリニックもあり, 受診できなかった患者が夜間急病センターに集中した。待合スペースからあふれ, ビル管理者に夜間の全館空調を緊急要請する事態となった。

当初, 内科・小児科ともに各1名ずつの体制であり, 各2名体制にするため, 複数の医師への応援要請個別連絡を試みた。年末年始の休暇中のため, なかなか連絡が取れなかったが, 何とか内科・小児科とも2名体制を確保した。最終診察は連日深夜1時を過ぎ, 調剤・会計を終える頃には2時近くになる日が続いた。

また, 2024年は年末まで流行がみられなかったため, 備蓄していた薬剤・検査キットは早期に枯渇した。追加発注を行ったが, 休日配送が困難な業者もあり, スタッフが自ら問屋に出向いて納品するなど, 対応に追われた。

(3)総合病院

2022/23シーズンはCOVID-19の流行ピーク, 2023/24シーズンは能登半島地震関連の救急搬送が重なり, 病棟はほぼ満床となり, ウォークイン患者(救急搬送ではなく自力で救急外来を受診する患者)は少なかった。一方, 2024年末~2025年始は, 急性期病院の時間外外来における受診者の60-80%が紹介状なしのウォークイン患者で, 本来の救命救急機能に支障をきたす状況となった。

(4)高齢者施設・その他

高齢者入所施設では, 入所者の多くがインフルエンザワクチンを接種しており, 施設内クラスターや重症化による救急搬送は例年を上回ることはなかった。通所施設は年末年始休業と重なり, 感染拡大はほとんどみられなかった。

また, 学校や保育所も冬休みに入っていたため, 教育・保育現場での流行もなかった。

(5)救急搬送件数

金沢市消防局の救急出動件数(12~1月)は, 2022/23シーズンは3,960件, 2023/24シーズンは4,741件, 2024/25シーズンは4,773件であった。2025年1月は2,468件で, 2024年1月の能登半島地震の影響による2,635件に比べ若干減少し, 特段の急増はみられなかった。

2024/25シーズンの総括と2025/26シーズンに向けての対応

2024年末~2025年始のインフルエンザは, 学校の冬休みに入ってから爆発的に感染が拡大したため, 外来受診者は成人が多かった。高齢者施設や病院内でのクラスターや重症例は少なく, 救急搬送も多発しなかったが, 急峻な流行の立ち上がりと年末年始の9連休が重なり, 休日当番医や夜間急病センター, 総合病院の救急外来に発熱患者が殺到し, 地域医療は大きな混乱に見舞われた。

2025年末~2026年始も9連休が予定されているため, シーズン前のインフルエンザワクチン接種, また特に高齢者や基礎疾患をもつ方への新型コロナワクチンの接種勧奨を強化する必要がある。一方, 金沢市保健所のサーベイランス情報をリアルタイムにわかりやすく広報するなどして, 住民への啓発も前倒しで行いたい。

また, 金沢市および中央医療圏の一次救急体制を強化し, 急性期病院へのウォークイン受診を抑制するとともに, 薬剤師会や医薬品卸業者と連携し, 休日当番薬局や夜間急病センターに必要な薬剤・検査キットを十分に確保するように促している。

金沢市が設立した広域夜間急病センターに関しては, 市の担当部局, 医師会, 薬剤師会, 運営を委託している健康福祉財団と協議をはじめ, 十分な医療スタッフの確保と応援体制の確立, 受診予約システムの導入, 電子カルテおよび受付と会計用のパソコンの増設等を行っている。

昨シーズンの混乱を踏まえ, 今後は行政, 医師会, 薬剤師会等が一枚岩となって「命を守る!地域医療を守る!」ために万全の対策で臨みたい。

参考文献

  1. 厚生労働省, インフルエンザに関する報道発表資料 2024/2025シーズン
    https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou01/houdou_00018.html
  2. 国立健康危機管理研究機構感染症情報提供サイト, インフルエンザ流行レベルマップ, 2024/25シーズンのインフルエンザ流行レベルマップについて
    https://id-info.jihs.go.jp/diseases/a/influenza/020/flu-map.html
  3. 金沢市, 金沢市の感染症発生動向調査
    https://www4.city.kanazawa.lg.jp/soshikikarasagasu/chiikihokenka/1_1/1_2/1_2_4/1_2_4_6/24603.html
  4. 金沢広域急病センター
    https://www.kanazawa-kouiki.jp/
  金沢市福祉健康局担当局長   
  金沢市保健所長        
  (兼)金沢広域急病センター管理者
   越田理恵

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