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2024/25シーズンのインフルエンザ分離株の解析

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2024/25シーズンのインフルエンザ分離株の解析

(IASR Vol. 46 p217-222: 2025年11月号)

1.流行の概要

2024/25インフルエンザシーズン(2024年9月~2025年8月)は, 世界的には新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)発生以降, 再流行した2シーズンにみられたはっきりとした二峰性のピークとは異なり, 2023/24シーズン同様, SARS-CoV-2流行前のようにピークが1つであった。流行のピークは, SARS-CoV-2流行前は多くの場合1月であったが, SARS-CoV-2流行以降は12月中にみられ, 2024/25シーズンも同様に12月であった。ウイルスの型としては, A型・B型ウイルスともに検出されたが, A型ウイルスの検出数が多かった。国・地域により割合は異なるが, 全体としてはA型ウイルスではA(H1N1)pdm09が多く検出され, B型ウイルスはすべてがVictoria系統であった。日本の流行は, 2024年第36週以降に報告数が増加傾向となり, 第44週で定点当たりの報告数が1.0を超え流行入りとなった。第52週でピーク(定点当たり報告数は64.4)を迎え, その後減少した。ピーク時の報告数は, 1999年以降の現在の報告体制では過去最高の数値であった。亜型・系統別では, シーズンを通してA(H1N1)pdm09の割合が多かったが, 年明けからA(H3N2)とB型(Victoria系統のみ)も多く報告された。

2.各亜型・型の流行株の遺伝子および抗原性解析

2024/25シーズンに全国の地方衛生研究所(地衛研)で分離されたウイルス株の型・亜型・系統同定は, 各地衛研において, 国立感染症研究所(感染研)から配布された同定用キットを用いた赤血球凝集抑制(HI)試験によって行われた。HI試験が困難な場合はPCR法による亜型同定が推奨されている。感染研では, 感染症サーベイランスシステム経由で情報を収集し, 地衛研で分離および型・亜型同定されたウイルス株の分与を受けた。地衛研から分与された株および供与を受けた臨床検体から分離された株について, ヘマグルチニン(HA)およびノイラミニダーゼ(NA)遺伝子の遺伝子系統樹解析およびフェレット感染血清・ヒトワクチン接種後血清を用いたHI試験による詳細な抗原性解析を実施した。

2-1)A(H1N1)pdm09ウイルス

遺伝子系統樹解析(図1):臨床検体を含む国内545株および海外(ラオス, 台湾, 韓国, モンゴル, ミャンマー)16株について解析を実施した。最近の流行株はサブクレードC.1(K54Q, A186T, Q189E, K308R)(代表株A/Sydney/5/2021)に属しており, C.1.1(P137S, K142R)(代表株A/Wisconsin/67/2022)やC.1.9(T120A, K169Q)が派生している。C.1.1にはD(T216A)(代表株A/Victoria/4897/2022), D.1(R45K), D.2(R113K), D.3(T120A, I372V), D.3.1(I460T, V520A)などが派生しており, C.1.9にはC.1.9.1(P137S), C.1.9.2(N38D, K480R), C.1.9.3(S83P, I510T), C.1.9.4(Q54K, D86N, N125D, I149V)が派生している。世界的にはD.3.1, C.1.9.3, C.1.9が主流となっている。解析した国内株からはC.1.9.3(54.7%), C.1.9(23.1%), D.3.1(17.7%)などが検出され, シーズン後半ではD.3.1が主流であった。

抗原性解析:6-8種類の参照ウイルスに対するフェレット感染血清を用いて, 国内分離株294株および海外(韓国, ミャンマー, モンゴル, ラオス)分離株23株について, HI試験による抗原性解析を行った。その結果, 分離株の多くはサブクレードに関係なく, 2024/25シーズンワクチン株A/Victoria/4897/2022(Dに属する)およびその他の参照ウイルス(C.1.1, D.3.1, C.1.9, C.1.9.1およびC.1.9.3に属する)に対するフェレット感染血清のいずれともよく反応した。ワクチン株やD.3.1, C.1.9.3に属するウイルスのフェレット感染血清との反応性が低下した株は, そのHAの抗原部位にG155E, G155RまたはK156Nのいずれかのアミノ酸置換が認められた。ワクチン接種を受けたヒトの血清を用いた解析においては, C.1.1, D.3.1, C.1.9.3に属するウイルスとよく反応したが, D.3.1に属しK156Nのアミノ酸置換を持つウイルスとは反応性が若干低下した。

2-2)A(H3N2)ウイルス

遺伝子系統樹解析(図2):臨床検体を含む国内263株および海外(ラオス, 台湾, 韓国, モンゴル, ミャンマー)7株について解析を実施した。最近の流行株は, HA遺伝子系統樹上のサブクレードG.1.3(D53N, N96S, I192F)に属している。G.1.3内に派生したJ(I140K)(代表株A/Thailand/8/2022)には, J.1(I25V, V347M), J.2(N122D, K276E)(代表株A/Croatia/10136RV/2023)などが派生し, さらにJ.1.1(S145N), J.2.1(F79L, P239S), J.2.2(S124N)(代表株A/Perth/722/2024), J.2.3(N158K, K189R, S378N), J.2.4(T135K, K189R), J.2.5(D104N, S145N, N158K)などが流行の中心となっている。世界的にはJ.2, J.2.2, J.2.3, J.2.4, J.2.5が多く検出されている。国内株はJ.2.2(45.1%), J.2(43.4%), J.2.4(5.7%)であった。

抗原性解析:国内分離株159株および海外(台湾, ラオス)分離株6株について, 6-10種類の参照ウイルスに対するフェレット感染血清を用いてHI試験により抗原性解析を行った。国内外の流行株については, 試験したほとんどの株が, 2024/25シーズンのワクチン株のA/Thailand/8/2022(Jに属する)に対するフェレット感染血清とおおむねよく反応したが, 流行の主流であったJ.2あるいはJ.2.2に属するウイルスに対するフェレット感染血清との反応性の方がより良い傾向にあった。T135KとK189R(J.2.3)またはN158KとK189R(J.2.4)の変異を持つ株は, ワクチン株, J.2およびJ.2.2に属するウイルスのフェレット感染血清に対して反応性が低下した。ワクチン接種を受けたヒトの血清を用いた解析においては, J.2.1に属するウイルスとはよく反応したが, J.2およびJ.2.2のS145Nの変異を持つウイルスとの反応性は低下した。

2-3)B型ウイルス

遺伝子系統樹解析

山形系統:国内外ともに検出報告はなかった。

Victoria系統(図3):臨床検体を含む国内151株および海外(ラオス, 台湾, 韓国, モンゴル)6株について解析を行った。近年のウイルスは, 成熟HAに3アミノ酸欠損を持つサブクレードA.3(162-164アミノ酸欠損, K136E)内のC(A127T, P144L, K203R)(代表株B/Austria/1359417/2021)に属している。C内にはC.3(E128K, A154E), C.5(D197E)などが派生し, さらにC.3内にはC.3.1(D197N)が, C.5内にはC.5.1(E183K), C.5.6(D129N), C.5.6.1(T37I, E128D, T199A), C.5.7(E183K, E128G)などが派生している。世界的にはC.5.6, C.5.7, C.5.1, C.5.6.1が主流である。国内株はC.5.7(45.6%), C.5.6(15.4%), C.5.1(14.2%), C.5.6.1(13.0%)であった。

抗原性解析

山形系統:世界的に解析された株はなかった。

Victoria系統:8種類の参照ウイルスに対するフェレット感染血清を用いて, 国内分離株127株および海外(韓国, 台湾, ラオス)分離株10株について, HI試験による抗原性解析を行った。試験したほとんどの株が, 2024/25シーズンのワクチン株のB/Austria/1359417/2021(Cに属する)に対するフェレット感染血清とよく反応した。ワクチン株やC.5.6, C.5.7に属するウイルスのフェレット感染血清との反応性が低下した株は, C.3およびC.3.1に属し, そのHAの抗原部位にD197Nのアミノ酸置換が認められた。このアミノ酸置換により糖鎖が付加されることで抗原性に大きく影響を及ぼしたことが推測された。ワクチン接種を受けたヒトの血清は, C.5.1, C.5.6.1, C.5.7に属するウイルスとよく反応したが, D197Nの変異を持つC.3.1のウイルスとの反応性は顕著に低下した。

3.抗インフルエンザ薬耐性株の検出と性状

季節性インフルエンザに対する抗インフルエンザ薬としては, M2阻害剤アマンタジン(商品名シンメトレル), 4種類のNA阻害剤オセルタミビル(商品名タミフル), ザナミビル(商品名リレンザ), ペラミビル(商品名ラピアクタ)およびラニナミビル(商品名イナビル), そしてキャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害剤バロキサビル(商品名ゾフルーザ)が承認されている。M2阻害剤はB型ウイルスに対して無効であり, さらに, 現在国内外で流行しているA型ウイルスはM2阻害剤に対して耐性を示す。したがって, インフルエンザの治療には, 主に4種類のNA阻害剤およびバロキサビルが使用されている。薬剤耐性株の検出状況を継続的に監視し, 国や地方自治体, 医療機関ならびに世界保健機関(WHO)に対して迅速に情報提供することは公衆衛生上非常に重要である。そこで感染研では全国の地衛研と共同で, 薬剤耐性株サーベイランスを実施している。

NA阻害剤については, 地衛研においてA(H1N1)pdm09ウイルスのNA遺伝子解析によるオセルタミビル・ペラミビル耐性変異H275Yの検出を行い, 感染研において薬剤に対する感受性試験および既知の耐性変異の検出を実施した。A(H3N2)ウイルスおよびB型ウイルスについては, 地衛研から感染研に分与された分離株について薬剤感受性試験および既知の耐性変異の検出を行った。バロキサビルについては, 地衛研においてPA遺伝子解析によるバロキサビル耐性変異I38Xの検出を行い, 感染研において薬剤感受性試験および既知の耐性変異の検出を実施した。アマンタジンについては, 感染研において既知の耐性変異の検出を実施した。

3-1)A(H1N1)pdm09ウイルス

NA阻害剤については国内分離株2,042株および海外分離株(韓国, 台湾, ミャンマー, モンゴル, ラオス)29株, バロキサビルについては国内分離株792株および海外分離株(韓国, 台湾, ミャンマー, モンゴル, ラオス)30株の解析を行った結果, 国内でオセルタミビル・ペラミビル耐性株が16株, バロキサビル耐性変異株が3株検出された。アマンタジンについては国内分離株296株および海外分離株(台湾, ラオス)16株の解析を行った結果, すべて耐性であった。

3-2)A(H3N2)ウイルス

NA阻害剤については国内分離株160株および海外分離株(韓国, 台湾, ラオス)8株, バロキサビルについては国内分離株221株および海外分離株(台湾, ミャンマー, ラオス)7株の解析を行った結果, 国内でバロキサビル耐性変異株が2株検出された。アマンタジンについては国内分離株164株および海外分離株(台湾, ミャンマー, ラオス)7株の解析を行った結果, すべて耐性であった。

3-3)B型ウイルス

NA阻害剤については国内分離株113株および海外分離株(韓国, 台湾, モンゴル, ラオス)12株, バロキサビルについては国内分離株148株および海外分離株(韓国, 台湾, ラオス)11株の解析を行った結果, 台湾でザナミビル耐性・ラニナミビル感受性低下株が1株検出された。

本解析は, 「感染症の予防および感染症の患者に対する医療に関する法律」の施行にともなう感染症発生動向調査事業に基づくインフルエンザサーベイランスとして, 医療機関, 保健所, 地衛研との共同で実施された。さらに, ワクチン接種前後のヒト血清中の抗体と流行株との反応性の評価のために, 新潟大学大学院医歯学総合研究科国際保健学分野・齋藤玲子教授の協力を得た。海外からの情報はWHOインフルエンザ協力センター〔米国疾病予防管理センター(CDC), 英国フランシスクリック研究所, 豪州ビクトリア州感染症レファレンスラボラトリー, 中国CDC〕から提供された。本稿に掲載した成績は全解析成績をまとめたものであり, 個々の成績は感染症サーベイランスシステム内の病原体検出情報サブシステムにより毎週地衛研に還元されている。また, 本稿は上記事業の遂行にあたり, 地方衛生研究所全国協議会と感染研との合意事項に基づく情報還元である。


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