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2024年度感染症流行予測調査におけるインフルエンザ予防接種状況および抗体保有状況(2025年9月現在)

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2024年度感染症流行予測調査におけるインフルエンザ予防接種状況および抗体保有状況(2025年9月現在)

(IASR Vol. 46 p222-224: 2025年11月号)

はじめに

感染症流行予測調査事業は厚生労働省健康・生活衛生局感染症対策部感染症対策課が実施主体となり, 毎年度健康局長通知に基づいて全国の都道府県と国立感染症研究所が協力して実施している予防接種法に基づいた事業である。本稿では, インフルエンザ流行前シーズンにおけるワクチン株に対するインフルエンザ予防接種状況と抗体保有状況の2024年度調査結果について報告する。

方法

2024年度の感染症流行予測調査のうちインフルエンザ感受性調査は, 15都道県(北海道, 茨城県, 栃木県, 群馬県, 東京都, 神奈川県, 新潟県, 福井県, 山梨県, 長野県, 静岡県, 愛知県, 三重県, 愛媛県, 高知県)で実施が計画された。対象は主に2024年7~9月(2024/25インフルエンザ流行シーズン前かつワクチン接種前)の期間に採取された血清(計画数:各都道県当たり198検体, 合計2,970検体)1)を用いて, 各都道県衛生研究所において赤血球凝集抑制試験(HI法)により測定が行われた。2024年度の調査株は下記に示した2024/25シーズンのインフルエンザワクチン株で, 各インフルエンザウイルスの卵増殖株由来のHA抗原を測定抗原として用いた。

2024/25シーズンのインフルエンザワクチン株2)

・A/ビクトリア/4897/2022(IVR-238)[A(H1N1)pdm09亜型]

・A/カリフォルニア/122/2022(SAN-022)[A(H3N2)亜型]

・B/プーケット/3073/2013(B/山形系統)

・B/オーストリア/1359417/2021(BVR-26)(B/ビクトリア系統)

予防接種歴調査は上記の15都道県に宮城県, 富山県, 大阪府, 山口県, 福岡県を加えた20都道府県において, 前シーズン(2023/24シーズン)における接種状況を調査した。

結果

1.インフルエンザ抗体保有状況

対象数は計画より多く, 3,707名についてHI抗体価の測定が実施された(暫定結果)。対象者数はそれぞれ0~4歳320名, 5~9歳205名, 10~14歳322名, 15~19歳316名, 20~24歳277名, 25~29歳361名, 30~34歳376名, 35~39歳307名, 40~44歳208名, 45~49歳212名, 50~54歳247名, 55~59歳206名, 60~64歳178名, 65~69歳96名, 70歳以上76名であった。本稿では感染リスクを50%に抑える目安と考えられているHI抗体価1:40以上の抗体保有割合について, 2024年度の調査結果と過去3年度の合計4年度の状況を示す。2024/25シーズンのワクチン株は, B/山形系統は2015年の調査から同一調査株であり, A(H1N1)pdm09亜型およびB/ビクトリア系統は前シーズンと同じ株であったが, A(H3N2)亜型は前シーズンから変更された。本調査では, これらワクチン株を用いて抗体保有状況を調査した。

A(H1N1)pdm09亜型に対する抗体保有割合:A(H1N1)pdm09亜型は前シーズンよりは陽性率が上昇したものの, 全年齢で約30%未満と低い保有割合であった。

A(H3N2)亜型に対する抗体保有割合:A(H3N2)亜型は, 5~9歳群, 10~14歳群, 15~19歳群を除き40%未満の割合であった。

B/山形系統に対する抗体保有割合:B/山形系統は過去3年間の調査結果と同様の傾向を示し, A型と比べ高い傾向にあり, 35~39歳群がピークであった。年齢群別では35~39歳群(77%)と55~59歳群(48%)の二峰性のピークを示した。

B/ビクトリア系統に対する抗体保有割合:B/ビクトリア系統は前年度と同様の傾向であった。保有割合のピークは55~59歳群(39%)で, 前年度より若干低値であった。50~54歳群以下では25%未満の保有割合で推移しており, 30代が最も低い保有割合であった。

2.2023/24シーズンにおけるインフルエンザ予防接種状況

抗体調査を実施した15都道県に宮城県, 富山県, 大阪府, 山口県, 福岡県を加えた20都道府県において, 前シーズン(2023/24シーズン)における接種状況が調査され, 5,765名の予防接種歴が得られた。すべての調査対象年齢群で接種歴不明者が10-40%程度の割合で存在した。1回以上接種者の割合は接種歴不明を含む全体で29.9%, 1歳未満児で1.8%(113名中2名), 1歳児で18.6%(145名中27名), 2~12歳では37.7%(892名中336名, 各年齢27.8-48.3%), 13~64歳では28.7%(4,395名中1,262名, 各年齢・年齢群16.0-38.4%), 65歳以上は43.2%(220名中95名)であった。2回接種が推奨されている13歳未満の年齢群では, 接種者の74.0%(365名中270名)が2回接種者であった。

まとめと考察

インフルエンザワクチンは, 2001年から65歳以上の高齢者等注)を対象に定期接種(毎シーズン1回)が実施されている。また, 生後6か月から任意接種として接種が可能で, 13歳未満の小児においては2~4週間の間隔をおいて毎シーズン2回の接種が推奨されている。

接種歴調査の結果では, 2~15歳と65歳以上の年齢群の接種割合が高い。これは過去の各シーズンとほぼ同様の傾向であった。一方, 16~64歳の1回以上接種割合は28.4%, 65歳以上では43.2%であった3)

インフルエンザ抗体保有割合は, それぞれの亜型・系統でピークの年齢層が異なり, A(H1N1)pdm09亜型では前シーズンに比べ上昇したが引き続き全年齢で低く, A(H3N2)亜型では5~9歳群, 10~14歳群, 15~19歳群を除き40%未満で推移し, B/ビクトリア系統では55~59歳群, 60~64歳群, 65~69歳群を除き30%未満で推移していた。一方で, 0~4歳群における抗体保有割合はA(H3N2)亜型を除き10-20%前後で推移し, また, A(H1N1)pdm09亜型では70歳以上で10%未満と低い傾向であった。過去3年間と比較すると, A(H1N1)pdm09亜型では2022年度調査以前と同程度, A(H3N2)亜型では19歳以下では高い傾向にあったが, それ以外の年齢群では同程度となった。B/山形系統では同程度で, かつA型やB/ビクトリア系統と比較して全体的に高かった, B/ビクトリア系統では40歳未満において同様に低い傾向であった。

インフルエンザ病原体サーベイランスを基にした分離状況によると, 抗体保有調査を行った直前のシーズン(2023/24シーズン)のインフルエンザウイルスの流行状況は, 2023年第35週から分離数の増加が顕著となり, 2024年になるとB型の分離が増加し, A(H1N1)pdm09亜型およびA(H3N2)亜型の両方が検出され, その後B型の検出が優位になった流行であった4)

謝辞:本調査にご協力いただいた都道府県, 保健所, 医療機関等, 関係者皆様に深謝いたします。

注)(1)65歳以上の者, および(2)60歳以上65歳未満の者であって, 心臓, 腎臓または呼吸器の機能に自己の身辺の日常生活活動が極度に制限される程度の障害を有する者およびヒト免疫不全ウイルスにより免疫の機能に日常生活がほとんど不可能な程度の障害を有する者

参考文献

  1. 厚生労働省健康・生活衛生局感染症対策部感染症対策課, 令和6(2024)年度 感染症流行予測調査実施要領
    https://id-info.jihs.go.jp/surveillance/nesvpd/procedure/2024-99-2.pdf
  2. 国立健康危機管理研究機構感染症情報提供サイト, インフルエンザワクチン株
  3. 国立健康危機管理研究機構感染症情報提供サイト, インフルエンザ予防接種状況2024
  4. 国立健康危機管理研究機構感染症情報提供サイト, 週別インフルエンザウイルス分離・検出報告数, 2021/22~2025/26シーズン

  2024年度インフルエンザ感受性調査・予防接種歴調査実施都道府県               
   北海道立衛生研究所 三津橋和也       
   宮城県保健環境センター 沖田若菜 大槻りつ子
   茨城県衛生研究所 久保朝香 阿部櫻子    
   栃木県保健環境センター 若林勇輝      
   群馬県衛生環境研究所 河合優子       
   東京都健康安全研究センター         
    根岸あかね 黒木絢士郎 浅倉弘幸 三宅啓文
   神奈川県衛生研究所 佐野志絵 渡邉寿美   
   新潟県保健環境科学研究所          
    田澤 崇 昆 美也子           
   富山県衛生研究所              
    谷口咲羅 嶌田嵩久 谷 英樹       
   福井県衛生環境研究センター         
    高橋美帆 坂井伸成 小和田和誠      
   山梨県衛生環境研究所 大沼正行 土屋邦男  
   長野県環境保全研究所 竹内道子 橋井真実  
   静岡県環境衛生科学研究所          
    池ヶ谷朝香 寺井克哉           
   愛知県衛生研究所 鈴木雅和 安井善宏    
   三重県保健環境研究所 矢野拓弥       
   大阪健康安全基盤研究所 阿部仁一郎     
   山口県環境保健センター 安本早織      
   愛媛県立衛生環境研究所 吉田紗弥子 松本純子
   高知県衛生環境研究所 野口 優 下元かおり 
   福岡県保健環境研究所 濱崎光宏       
   国立健康危機管理研究機構国立感染症研究所   
    インフルエンザ研究センター         
     渡邉真治 長谷川秀樹           
    感染症疫学センター             
     林 愛 菊池風花 新井 智 鈴木 基 

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