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検疫所における媒介蚊調査(2025)

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検疫所における媒介蚊調査(2025)

(IASR Vol. 46 p239-240: 2025年12月号)

1. はじめに

検疫所では, 検疫法第27条に基づき, 検疫飛行場等において検疫法施行令で定められた調査対象地域内で蚊媒介感染症(ジカウイルス感染症, チクングニア熱, デング熱, マラリア, ウエストナイル熱, 日本脳炎)の媒介蚊の調査と病原体検査を行っている。調査の結果, 外来種の侵入等が確認された場合は, 調査の強化, 関係者等への注意喚起等が行われる。これまでの事例については, 厚生労働省検疫所ホームページ「FORTH」で確認することができる1)

2025年は, これまでに成田国際空港, 福岡空港および中部国際空港でネッタイシマカの侵入事例が確認された。本誌では, 成田国際空港および福岡空港の事例について詳細を報告する。

2. ネッタイシマカ侵入事例

1)成田国際空港における対応措置

大阪・関西万博の開催にともない, 外来種の侵入を懸念して, 4月中旬から第2ターミナルビルサテライト到着エリアにBGセンチネル2トラップ(Biogents:BGトラップ)を4台設置し, 週1回の頻度で確認していたところ, 6月30日にBGトラップでネッタイシマカ雌成虫の生体1個体を確認した。病原体検査(フラビウイルス属, チクングニアウイルス)は陰性であったが, 定着防止のため, 調査を強化した。同エリアにBGトラップを13台追加設置した(7月2日~9月10日)。屋外にもネッタイシマカの発見場所を中心に100m範囲内にCO2トラップを9-11台設置し, 1週間連続稼働(7月1~9日)させた。

また, 紙製の産卵台(約10cm×17cm)をクリップで固定したオビトラップ(脱カルキ水約2リットル)を15個追加設置した(7月2日~8月13日)。幼虫と卵の確認は週1回とし, 1週間ごとに産卵台の回収と設置ならびに水の補充を行った。すでに空港内の雨水枡等で同種が繁殖している可能性を懸念して, 7月4日に発見場所から400m範囲内にある雨水枡196カ所に殺虫剤(スミチオンNP-FL「SES」)を投入した。8日には空港関係者, 近隣自治体等にネッタイシマカの発見について情報提供を行った。調査を継続していたところ, 16日に追加設置したBGトラップで新たなネッタイシマカ雌成虫の死亡1個体を発見した。病原体検査は陰性であった。翌17日には, 昆虫成長制御剤(スミラブ粒剤「SES」:IGR)を234カ所に, 8月14日には, IGRを244カ所に投入した。また, 2匹目のネッタイシマカの発見にともないCO2トラップを10台設置し, 1週間連続稼働(7月18~24日)させた。この間, 空港内に設置されている観葉植物の水等の確認作業も実施した。その後2匹目のネッタイシマカの発見から56日が経過したが, 新たなネッタイシマカの確認には至らなかったため, 国立健康危機管理研究機構国立感染症研究所昆虫医科学部専門家の意見等も参考に対応措置を終了した。

今回の調査期間中, ネッタイシマカの他に産卵台を設置したオビトラップではヒトスジシマカの卵と幼虫が確認された。また, CO2トラップではコガタアカイエカ29個体, アカイエカ群23個体, シナハマダラカ1個体が採集された。BGトラップではアカイエカ群1個体が確認されたが, いずれも病原体検査は陰性であった。

2)福岡空港における対応措置

平時における調査として, 7月11日に福岡空港国際線貨物上屋周辺にオビトラップを設置し, 同月18日に幼虫1個体を採集した。成虫に孵化させたうえ, 23日にネッタイシマカ雌と同定した。病原体検査(フラビウイルス属, チクングニアウイルス)は陰性であった。翌24日, 福岡国際空港株式会社, 航空会社, 関係官庁等に事務連絡を発出のうえ, 情報共有を行った。25日, 検疫所のマニュアルおよび上記専門家の意見に基づき, 成虫調査・幼虫調査・幼虫駆除等の重点調査を開始した。

成虫調査について, ネッタイシマカ採集地点(国際線貨物上屋)から100mの範囲にCO2トラップ5台を1週間設置した(7月25日~8月1日)。その後, BGトラップ5台を追加し, 1週間設置した(8月4~10日)。9月はネッタイシマカ採集に特化し, BGトラップ5台を1週間設置した(9月1~7日)。幼虫調査について, ネッタイシマカ採集地点から400mの範囲にオビトラップ30個を設置した(7月26日~10月3日)。週3回確認し, 1週間ごとに水および産卵台を入れ替えた。幼虫駆除について, ネッタイシマカ採集地点から100m範囲の雨水枡計89カ所に, 8月1日にスミチオン粉剤, 1週間後の8日にIGRを投入した。その後, 2週間後に2回目, 1カ月後に3回目の投入を行った。調査開始後2カ月が経過したが, 新たなネッタイシマカの採集がなかったことから, 成田国際空港同様, 上記専門家の意見を参考に10月3日に重点調査を終了した。

調査の結果, 成虫調査では計98個体の蚊族(アカイエカ群:57個体, コガタアカイエカ:29個体, ヒトスジシマカ:12個体)を採集した。フラビウイルス属等の病原体検査はすべて陰性であった。幼虫調査では計9カ所にて幼虫および卵を採集したが, すべてヒトスジシマカであった。

3. 最後に

国際航空網の発達により, 今後もネッタイシマカ等の外来種の侵入が懸念される。中部国際空港でも, 8月21日にオビトラップで卵10個体が確認されたことから, ネッタイシマカの生息地から発航する国際線は特に監視が必要であり, 航空会社も航空機内への蚊の侵入防止を意識し, 機内で蚊を発見した場合の殺虫処理等の対応が求められる。検疫所は異常事態に速やかに対応できるよう, 継続的な媒介蚊調査とリスクを意識した準備が必要である。

参考文献

  1. 厚生労働省検疫所FORTH, ベクターサーベイランス報告書  
    https://www.forth.go.jp/ihr/fragment2/index.html


  成田空港検疫所衛生課    
   新妻 淳         
  福岡検疫所福岡空港検疫所支所
   古川徹也

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