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蚊およびマダニの採集方法について

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蚊およびマダニの採集方法について

(IASR Vol. 46 p249-251: 2025年12月号)

1. 蚊の採集方法

蚊のライフステージや生態に応じた方法を用いる。ここでは, 日本で重要な日本脳炎ウイルスおよびデングウイルス媒介蚊種の成虫採集法をそれぞれ紹介する。

日本脳炎ウイルス媒介蚊

主要な媒介蚊であるコガタアカイエカの幼虫は主に水田から発生しており, 成虫は, 水田, 周辺の緑地帯や動物舎で採集できる。本種の成虫は昼間には活動せず, 日没後, 完全に暗くなってから吸血する。採集によく使われているのは吸虫管と吸引式トラップ(誘引源として光や二酸化炭素)である。累代飼育や病原体分離が目的の場合は, 動物舎の壁に止まっている成虫を懐中電灯で確認しながら吸虫管で直接採集することで, 実験に適した新鮮な生体を得られる。動物舎の出入り口を網で覆うと, 吸血のために飛来した雌が網上で休止するため, 吸虫管で採集しやすくなる。網目の大きさが成虫よりも大きい場合は, 未吸血と吸血雌のどちらも採集できる。採集した蚊はケージに入れる。生きた吸血雌は血液消化のために数日飼育したのち, 採卵や病原体分離など次の工程に用いる(血液消化後に病原体陽性となった場合, 媒介能があると判断できるため)。飼育目的の場合は, どのステージからの採集でも実験を開始することが可能であるが, 吸血雌を用いることで次世代のサンプルが得やすくなる。密度調査や病原体検出の目的には, 吸引式トラップを用いることが多く, 幼虫の発生環境中の樹木や動物舎の柱などに設置する。誘引源を用いて日没直前~翌日の日の出直後にかけて採集し, 翌朝, 気温が高くなる前に採集蚊を回収すると, 生きた個体も多数得られる。目的に応じて冷凍等で殺虫し, 次の工程に用いる。日本には日本脳炎ウイルスが常在しているため, 雌成虫の取り扱いには十分に注意する。

デングウイルス媒介蚊

日本における主要な媒介蚊種はヒトスジシマカで, 捕虫網と吸虫管を用いたスウィーピング法および二酸化炭素を誘引源とした吸引式トラップ法を用いることが多く, 目的に応じて使い分ける。成虫は昼間, 特に薄明薄暮に活動する。スウィーピング法は, 採集者が適当な茂みなどの緑地に立ち, 吸血に飛来してくる成虫を捕虫網で採集する。捕虫網は成虫が目視で確認された場合に振るのに加え, 適宜(採集者自身の)体の背面, 頭部, 首の後ろなど, 目視しにくいところも忘れずに採集する。採集された成虫は, 網との摩擦による形態の破損を防ぐために, 多くても10振りごとに吸虫管を使って網から成虫を取り出し, 別の保管容器やケージに移し替える。本法は人を吸血する媒介蚊種の迅速な採集に非常に適しており, 採集道具も比較的安価で手に入るが, マンパワーが必要で, 感染症発生時や流行時には忌避剤を忘れずに使用するなどの注意が必要である。多地点で長期にわたる調査を行う場合は, 採集効率はスウィーピング法に劣るものの, 二酸化炭素を誘引源とした吸引式トラップも有効である。トラップの設置や撤収時に雌が吸血に飛来するため, この場合も忌避剤の使用が大切である。採集個体の取り扱いは日本脳炎ウイルス媒介蚊に準ずる。

2. マダニの採集方法

マダニは, 成虫・若虫・幼虫のいずれのステージでも吸血を行い, 病原体を媒介し得る。マダニの採集には大きく分けて植生上と動物上のマダニを採集する方法がある。ここでは, 日本で広く用いられている野外採集法について紹介する。

植生マダニ

最も一般的な採集方法はフラッギング法(旗釣りまたは旗振り法)である。白い布を竿などの棒に固定し, 植生上を往復させることで宿主を探しているマダニが付着する。これは未吸血マダニが植物の先端などで宿主を待ち伏せする性質を利用している。なお, 布は付着や回収効率の良さなどからフランネル布が使われることが多い。一定の距離ごとに布を確認し, 付着したマダニをピンセットで回収してチューブ等に入れる。成虫は比較的布から取れやすいため, 確認する頻度が低すぎると成虫が落ちてしまう可能性が増す。フラッギング法に似た方法として, 棒に紐を付けて引きずるドラッギング法(旗ずり法)がある。この方法はフラッギング法に比べて密度推定に適しており, 米国疾病予防管理センター(CDC)等が最も推奨する方法である。一方, ある程度開けた環境が必要であることなど制限があるため, 目的等に応じて採集方法を選択する。なお, 現在はフラッギング法でも簡易的に密度を推定するために, 30分間のフラッギングが用いられることが多い。地域や種類によってマダニの季節性が異なるため, 特定の種類を狙う場合はこれらを考慮して行う。また, 雨や雨上がりは布が濡れてしまい, マダニがほとんど付着しないため, 採集に適さない。

この他に, 二酸化炭素でマダニを誘引するトラップ法や, 宿主の巣内のマダニを採集するために用いられるツルグレン法などがある。

宿主動物からの採集

野生動物, 家畜やペットなどに寄生しているマダニを直接採集することも多い。マダニは種類によって宿主動物が異なり, 生態や病原体の感染生態を把握するうえで宿主動物を把握することは重要である。また, 宿主上でずっと生活するマダニ種など, 植生上で集めることが困難な場合, 宿主から直接採集する必要がある。捕獲された宿主上の体表を丁寧に観察し, 目視で確認できたマダニを回収する。脱皮や産卵には一定量以上の血液が必要なため, 目的によってはピンセット等で皮膚から回収するよりも自然に脱落するまで待つことが有効である。なお, 動物を扱う際には倫理的な配慮や感染予防が欠かせない。

採集後の処理

採集したマダニは同定, 遺伝子解析や病原体検査をする目的でエタノールなどに入れて保存することが多い。これは遺伝子の劣化を防ぐことに加えて, 逃がしてしまう可能性を防ぐためである。一方, 病原体の分離培養を行う場合などは, 生きたまま運搬する必要がある。その際, 湿気を保つためにチューブにシダ植物や濡らしたろ紙を入れる。生きたマダニを扱う場合は逃がさないように注意をしながら扱わなければならない()。

国立健康危機管理研究機構
国立感染症研究所
昆虫医科学部
 犬丸瑞枝 比嘉由紀子 

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