ゾフルーザ顆粒剤の承認審査における主要論点の概説 ―小児適応拡大にともなう低年齢での低感受性ウイルス出現リスクとその対応策―

ゾフルーザ顆粒剤の承認審査における主要論点の概説―小児適応拡大にともなう低年齢での低感受性ウイルス出現リスクとその対応策―
(速報掲載日 2025/12/10)
2025年9月、抗インフルエンザ薬バロキサビル マルボキシル顆粒剤(以下、本剤)について、12歳未満かつ体重20kg未満の小児を対象とする用法および用量が承認された1)。バロキサビル マルボキシルは、単回投与の利便性を有する一方、国内のバロキサビル マルボキシルに対する耐性変異株サーベイランス2)および国内外の複数の臨床試験1)において、特に12歳未満かつ体重20kg未満の小児で投与後に低感受性ウイルス(PA/I38変異)が比較的高頻度で検出されることが報告されている。そのため、12歳未満かつ体重20kg未満の小児に対する本剤の用法および用量が追加承認されることで、バロキサビル マルボキシルがそれらの小児に使用されやすくなり、低感受性ウイルスが蔓延することに繋がり得る点が当該承認の審査において主要な論点となった。
審査において、本剤の本邦における製造販売業者である塩野義製薬株式会社は、バロキサビル マルボキシルの錠剤がすでに体重10kg以上20kg未満(主に6歳未満と想定)の小児も含めて承認されている中で、バロキサビル マルボキシルの錠剤における製造販売後調査の結果からは、バロキサビル マルボキシルが投与された当該小児患者のうちで、低感受性ウイルスの発現が認められた患者の割合について明らかな増加は認められていないと説明した1)。しかしながら、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)は、錠剤の服用が一般的ではないそれらの小児における錠剤の使用経験は、12歳以上の患者に比べて限られており1)、この結果をもって、本剤の対象である12歳未満かつ体重20kg未満の小児での低感受性ウイルスの出現およびその蔓延リスクが低いと判断することは適切ではないと整理した。そのうえで、抗インフルエンザ薬はすべての患者に対しては必須ではない点などを考慮し、本剤による低感受性ウイルス発現のモニタリングの強化および臨床現場の医療従事者に対して本剤の適正使用を促すための注意喚起策が必要と判断した。
これらのPMDAの見解については、感染症、ウイルス学、小児科等の外部専門家が参画した専門協議(承認審査の過程で実施)においても支持された。専門協議では、(1)12歳未満かつ体重20kg未満の小児において低感受性ウイルスの発現割合が高いこと1)、(2)一般に低年齢小児では免疫によるウイルス排除能が弱い免疫特性から3, 4)、偶発的に低感受性ウイルスが出現した場合に、バロキサビル マルボキシル存在下では選択的に低感受性ウイルスが増殖しやすい可能性があること、(3)国外と比較して国内の抗インフルエンザ薬の処方量が多いこと5)、などが指摘され、承認後の動向を慎重に監視すべきとの意見が示された。
以上の結果を踏まえ、今回の承認に際しては以下の新たな対応策が講じられた。
- 医薬品リスク管理計画(RMP)の強化
低感受性ウイルスの出現動向を把握するため、年間100株程度のウイルス収集を目標とした特定使用成績調査を新たに実施することとした。また、国立健康危機管理研究機構による既存の耐性株サーベイランスとの情報連携を強化する。
- 添付文書「警告」欄の改訂
12歳未満かつ体重20kg未満の小児に対しては、他の抗インフルエンザ薬の使用可否を勘案し、本剤の投与の必要性を特に慎重に判断すべき旨を警告欄に追記した。
- 医療従事者向け情報提供の整備
低感受性ウイルスの動向に関する知見を適切に共有するため、医療従事者向けの情報提供資材を整備し、最新情報が迅速に提供される枠組みを構築した。
本稿では、承認審査において整理された事実と、今回の承認にともない講じられた対応策について概説した。低感受性ウイルスの動向は使用状況や流行株により変動し得ることから、承認後における継続的な監視と関連情報の適切な共有が引き続き重要となる。
参考文献
- 審査報告書, “ゾフルーザ顆粒 2%分包”, 独立行政法人医薬品医療機器総合機構
https://www.pmda.go.jp/drugs/2025/P20250903001/340018000_23000AMX00797_A100_1.pdf(参照2025-11-19) - 高下恵美ら, IASR 40: 197-199, 2019
- Simon AK, et al., Evolution of the immune system in humans from infancy to old age, Proc Biol Sci. 2015 Dec 22: 282(1821): 20143085
- Koseki N, et al., Comparison of the clinical effectiveness of zanamivir and laninamivir octanoate for children with influenza A(H3N2) and B in the 2011–2012 season, Influenza Other Respir Viruses. 2014 Mar; 8(2): 151-158
- Sako A, et al., Prescription of anti-influenza drugs in Japan, 2014–2020: A retrospective study using open data from the national claims database, PLOS ONE 2023; 18(10): e0291673
独立行政法人医薬品医療機器総合機構
新薬審査第四部
井本成昭 佐藤大樹 鎌田修二 安藤 剛
