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百日咳菌検出における遺伝子検査法および培養法の比較

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百日咳菌検出における遺伝子検査法および培養法の比較

(IASR Vol. 47 p21-22: 2026年1月号)

はじめに

2025年には百日咳の全国的流行が確認されている。百日咳の届出には, 百日咳の特徴的な臨床症状を有するとともに, 検査による確定診断が必要とされる。特に, 核酸増幅法は百日咳の最も主要な検査診断法となっている1)。今回, LAMPおよび多項目PCR検査パネルであるBioFire FilmArray Respiratory Panel 2.1(FilmArray)とBioFire SpotFire R Panel(R Panel)(ビオメリュー)の百日咳菌検出能を, 4Plex real-time PCR法ならびに培養法と比較検討した2)

対象と方法

2024年第52週~2025年第31週の期間に, 神戸市健康科学研究所へ搬入された百日咳患者または疑い患者の鼻腔ぬぐい検体のうち, 医療機関において以下のいずれかの検査が実施された106検体を対象とした:LAMP(36検体), FilmArray(24検体), R Panel(46検体)。

菌培養検査には, ボルデテラCFDN寒天培地(日研生物), チャコール寒天培地(自家調製)を用いた。また, QIAGEN QIAamp DNA Micro Kit(QIAGEN)を用いて臨床検体からDNAを抽出し, QuantStudio 5(Applied Biosystems)を用いて4Plex real-time PCR3)を実施した。Threshold Line(ΔRn)を0.3に設定したときのIS481のCt値を基準として, 各遺伝子検査法および培養法の結果を比較した。さらに, LAMPとFilmArrayの比較のため, FilmArray陰性の8検体を対象に, Loopamp百日咳菌検出試薬キットD(栄研化学)を用いてLAMPを実施した。

分離株の薬剤感受性試験はETEST®(ビオメリュー)とBordet-Gengou血液寒天培地(極東製薬工業または自家調製)を用いてエリスロマイシン, クラリスロマイシン, アジスロマイシンの最小発育阻止濃度(MIC)を測定した。

結果

各遺伝子検査法の陽性率は, Ct値が30.0未満の検体では100%であった。Ct値30.0-35.0の検体では, R Panelは100%(10/10検体)と最も高く, LAMPとFilmArrayはそれぞれ82.4%(14/17検体), 60.0%(3/5検体)であった。Ct値が35.0を超える検体では, R PanelとLAMPはそれぞれ83.3%(5/6検体), 80.0%(8/10検体)であったが, FilmArrayは0%(0/6検体)であった(,表1)。また, FilmArray陰性の3検体はLAMP陽性となった(表2)。

培養陽性率はCt値が高いほど低下する傾向が認められた(表1)。また, LAMPおよびR Panel陰性検体では培養陽性となった検体はなかったが, FilmArray陰性検体では1検体が培養陽性となった(図b)。

考察

4Plex real-time PCR法および培養法との比較から, 3つの遺伝子検査法間で検出感度の差が認められた。Ct値30.0以上の検体での陽性率は, R Panelが最も高かった。R Panelは線毛遺伝子(fim2)を4) , LAMPおよびFilmArrayは百日咳毒素遺伝子プロモーター領域(ptxP)を5,6)標的とする。いずれも1コピーの遺伝子を標的としているが, 塩基配列特性や反応効率の違いにより, 陽性率に差が生じた可能性が考えられる。

一方で, 同一遺伝子を標的とするLAMPとFilmArrayでは, 同一のCt値帯における陽性率はLAMPの方が高かった。さらに, FilmArray陰性検体の一部はLAMP陽性となった。これらの結果から, LAMPはFilmArrayよりも高い検出感度を有する可能性が示唆された。この理由として, FilmArrayは多項目同時検出系である一方, LAMPは百日咳菌単独の検出に特化し最適化されている点が考えられる。また, FilmArrayでは, Ct値30.0-35.0の検体の40%(2/5検体)が陰性で, これら2検体のCt値は32.5および33.6であったことから, FilmArrayの検出限界はCt値32付近である可能性が示唆された。さらに, FilmArray陰性検体のうち, 培養陽性となった1検体のCt値は33.6で, LAMPでは陽性であった(表2中のSample No.16)。Ct値33以上でLAMP陽性の検体の60%(9/15検体)は培養陽性であり, Ct値33-34の3検体はいずれも培養陽性であった。したがって, 本症例はFilmArrayの検出限界付近に位置し, 陽性判定されなかったと考えられた。

培養陽性率はCt値が高いほど低下する傾向を示したが, Ct値37.3(図a中のSample No.34)および37.6(図c中のSample No.45)の検体からも菌分離されたことから, 高Ct値でも培養陰性とは限らないことが示された。また, Ct値30.0未満で培養陰性であった検体には, 夾雑菌が多い検体や抗菌薬投与後の検体が含まれており, 検体採取方法, 保存条件, 保管期間なども培養陰性の要因になったと考えられた。さらに, マクロライド耐性株および感受性株の双方が分離されたことから(), マクロライド耐性の有無は各遺伝子検査法の検出感度に影響を与えないと考えられた。

百日咳の診断においては, 病日や患者背景に応じて適切な検査法を選択することが推奨されている7)。遺伝子検査は最も高感度な方法であるが, 各検査法の特性を理解したうえで, 臨床状況に応じて適切に検査法を選択することが重要であると考えられた。

謝辞:本研究を遂行するにあたり, 検体提出にご協力いただきました神戸市内の医療機関および神戸市保健所保健課の皆様に深謝いたします。

参考文献

神戸市健康科学研究所第2衛生研究部        
 小松頌子 岩本智花 中西典子

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