多項目PCR検査等で気づかれた滋賀県内の百日咳の流行

多項目PCR検査等で気づかれた滋賀県内の百日咳の流行
はじめに
2024年6月中旬以降, 滋賀県守山市および大津市(湖西地域)において, 百日咳が相次いで報告されるようになった。乳幼児への感染が懸念されたことから, 滋賀小児科医会会員に協力を依頼し, 情報共有と調査を実施した1)。会員から報告された百日咳症例の検出地域や時期, 臨床症状をまとめ, 検査方法や予防接種の課題について検討する。
調査の方法
2024年6月17日~11月20日の期間に, 滋賀小児科医会メーリングリスト(ML)参加医療機関において百日咳を診断した会員(医師)には, 専用フォームへの報告を依頼し, 年齢, 性別, 発症日, 来院時の主訴, 検査法, ワクチン接種歴, などを収集した。得られたデータは匿名化のうえ統計的に処理し, 滋賀県感染症情報センターが公表する「感染症発生動向調査週報(SIDWR)」2)と比較した。
結果
調査期間において62例の百日咳症例の報告があった。報告が始まった2024年第25~28週の4週間に18例の報告があり, 多項目PCR法にて13例(72.2%), LAMP法にて5例(27.8%)が診断されていた。調査対象全体では, 多項目PCR法が31例(50.0%), LAMP法が25例(40.3%), 抗体検査(抗PT IgG法)が6例(9.7%)であった。抗原検査による診断例はなかった。
報告があった医療機関の所在地は, 守山市が40例(64.5%), 大津市が10例(16.1%), 長浜市9例(14.5%), 高島市3例(4.8%)と, 最多は守山市内の医療機関からであり, 地域集積性を認めた。会員からの報告の推移は, おおむねSIDWRと一致した。
年齢分布では, 12歳が10例で最多, 次いで6歳が多く, 小学校高学年~中学生にかけての年齢層に集中していた。これは百日咳に対する抗体価の低下が指摘されている年齢と一致していた3)。一方, 5歳以下の報告はなく, 3種混合ワクチン(DPT)により抗体価が高いためか, あるいは, 検査実施が難しかった可能性が考えられた。
初診時の臨床症状は, 「持続する咳嗽」は全例(100.0%)で, 次いで「夜間の咳き込み」が43例(69.4%)で認められた。一方, 典型的なスタッカートは4例(6.5%), ウープは1例(1.6%)と少なかった(図)。発症から検査までの日数は6~10日が多く, 平均11.5日であった。この期間に児童間で感染拡大を生じている可能性があった。
「世帯内感染でない」と判断された報告は50例(80.6%)と大半を占め, 多くの症例で学校など集団生活を通じた感染が推定された。ワクチン接種歴を確認できた34例のうち33例(97.1%)は, DPTなどの百日せき含有ワクチンを接種済みであり, 免疫低下による再感染が示唆された。
考察
本調査では, 教科書的な百日咳像を呈する例は少なく, 年長児における軽症・非典型例が多数を占めた。多項目PCR検査の普及により, 見過ごしやすい軽症例が検出可能となり, 地域での流行を早期に把握できたと考えられる。また, MLを介した会員間の迅速な情報共有が, 百日咳を念頭に置いた診療を促し, さらなる検出増加につながったと推測される。
百日咳の診断には, 百日咳菌抗原検出キットも診療現場で普及が始まっているが, 感度特異性に問題が指摘されている4)。しかし本調査では, 大半が感度や特異性が高いPCR法やLAMP法が用いられ, 発症から数週間経過している症例においては抗体検査による診断も行われており, 疑似症例が極めて少ない症例集積と考えた。一方, 小児科を標榜する医院の多くは包括診療を選んでおり, 低年齢児へのPCR検査実施が難しく, 乳幼児での感染実態は十分に把握されていない可能性があった。
SIDWR第45週(2024年10月28日~11月13日)の百日咳の届出数を, 令和4(2022)年1月1日住民基本台帳人口〔令和3(2021)年1月1日~12月31日〕の都道府県人口当たりで換算すると, 滋賀県は10万人当たりで8.34例の届出数となった。これは47都道府県で4番目に多く, 特に地域的に報告が多いと考えた。若年者人口が多い滋賀県では, 特に乳幼児の感染の懸念が大きく, 百日咳の検出状況や臨床的特徴を臨床医において共有する必要があると考えた。
国立感染症研究所の年齢/年齢群別抗体保有状況によると, 百日咳抗体価は5~12歳で低下し, 2023年時点では抗体保有率がさらに減少している3)。これを受けて日本小児科学会は, 3種・4種混合ワクチンの4回接種を終えた就学前児への追加接種, さらに11~12歳でのDPT接種を推奨している5)。しかし, これらは任意接種であり, 現時点での接種率は高くない。学童期以降の百日咳免疫の維持と, 地域的な流行抑止を目的とした公費助成制度の整備が急務である。
一般小児科開業医において多項目PCR検査が備わったことで, 網羅的に病原体探査が行われ, 初期から百日咳の流行に気づいた事例と考えた。そして, 臨床的特徴が地域の小児科医間で共有されたことにより, 百日咳を視野に入れて診療が行われ, 以後も検出が続いたと考えた。日頃遭遇しない感染症の出現にも備え, 多項目PCR検査の普及と, 病原体検出状況や, 臨床症状の共有を目指したネットワークを平時から整備しておくことは重要と考えた。
謝辞:百日咳診断および症例報告にご協力いただいた滋賀小児科医会会員の先生方に, 心より感謝申し上げます。
参考文献
- 西藤成雄ら, 滋賀医学 47: 47-53, 2025
- 滋賀県感染症情報センター, 感染症情報
https://www.pref.shiga.lg.jp/eiseikagaku/kansensyou/info/307997.html - 国立健康危機管理研究機構感染症情報提供サイト, 百日咳抗体保有状況の年度比較2023, 年齢/年齢群別の百日咳抗体保有状況の年度比較, 2013~2023年
- 令和5(2023)年度厚生労働科学研究費補助金(新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究事業), 「百日咳とインフルエンザに関するサーベイランス手法及びワクチン効果の評価に資する研究」分担研究報告書, 百日咳菌抗原キット「リボテスト百日咳」の精度評価と偽陽性原因の探索
https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/report_pdf/202318017A-buntan1.pdf - 公益社団法人日本小児科学会予防接種・感染症対策委員会, 日本小児科学会が推奨する予防接種スケジュール(2025年10月改訂版)
https://www.jpeds.or.jp/modules/activity/index.php?content_id=138
西藤小児科こどもの呼吸器・アレルギークリニック
西藤成雄
