海外の百日咳流行状況

海外の百日咳流行状況
(IASR Vol. 47 p7-8: 2026年1月号)
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックの影響により, 2020~2022年の世界の百日咳報告数は例年を大きく下回った。しかし, 2023年にはCOVID-19パンデミック前の水準に戻り, 2024年には前年の約6倍に急増した1)。本稿では, 世界保健機関(WHO)が区分けする6つの地域の中から, 近年百日咳の流行がみられた地域の状況について報告する(表)。なお, 各地域の中から, 衛生状況(ワクチン接種率90%を基準)と経済状況(国民1人当たりの収入)が良好・不良である国を1カ国ずつ選定した(表中各地域の上段・下段)。
南北アメリカ地域(AMR):米国では, 百日咳報告数がCOVID-19パンデミック期に減少し, COVID-19パンデミック後に大幅に増加する傾向がみられた(2024年:35,435件, 10.6件/10万人)2)。また, 南米ボリビアでは2023年に百日咳流行が報告されている(6.8件/10万人)3)。
ヨーロッパ地域(EUR):英国とウクライナにおいても, 米国と同様にCOVID-19パンデミック期に減少していた百日咳報告数がCOVID-19パンデミック後の2023~2024年にかけて急増した。2024年の報告数は英国が26,277件, ウクライナが7,545件であった。
西太平洋地域(WPR):オーストラリアでも同様の傾向が認められ, 2024年には世界でも突出した百日咳報告数を記録した(57,167件, 215件/10万人)4)。また, パプアニューギニアでは2023年に前年の約230倍もの百日咳症例が報告された(1,840件, 17.7件/10万人)3)。
東地中海地域(EMR):サウジアラビアでは, 2024年に前年の約11倍の百日咳報告数があった(1,090件)。また, アフガニスタンでは2023年に流行がみられた (1,531件, 3.7件/10万人)3)。
東南アジア地域(SEAR):マレーシアでは, 百日咳報告数がCOVID-19パンデミック期に減少し, 2023年にCOVID-19パンデミック前の水準に戻った(1,203件, 3.4件/10万人)。インドネシアでは, 2023年に前年の約5.2倍の報告があった(2,163件, 0.8件/10万人)。
アフリカ地域(AFR):チュニジアでは, COVID-19パンデミック期にはほとんど百日咳報告がなかったが, 2023年に148件, 2024年に252件報告された。また, ニジェールでは2022年頃から増加し, 2023年は1,190件報告された。
上述した国々では, COVID-19パンデミック期に一時的に百日咳報告数が減少し, COVID-19パンデミック後に急増するという共通した傾向が認められた。COVID-19パンデミック後の百日咳流行には, COVID-19対策によって生じた自然感染の減少が関与していると考えられている5)。その他にも菌の抗原変異, PCRや呼吸器パネル検査導入による検出技術の向上等が要因として考えられているが, 流行の背景は国によって様々である5)。
また, 百日咳流行がみられた2024年の米国, オーストラリアでは, 青年期の百日咳患者が中心となっている2,6)。これらの国における百日せきワクチン接種率(対象者がDPTを含むワクチンを3回接種した割合)は2000~2024年で95%前後と高水準を維持しており7), 以前から指摘されているように, 無細胞ワクチンの免疫持続期間の短さが青年期の患者の集積に関与していることが考えられる5)。
現在, 2023~2024年に百日咳が流行した多くの国では, 百日咳報告数のピークは過ぎつつあるが, 地域によっては報告数が増加しているところもある6,8,9)。また, 百日咳では成人は症状が軽微なため見逃されることもあり, 依然として重症化しやすい乳児が百日咳に感染するリスクが存在する。したがって, 乳児への感染を防ぐため, 妊婦へのワクチン接種や基礎免疫獲得を目的とした定期接種の推進が求められる。
参考文献
- WHO, Pertussis reported cases and incidence
https://immunizationdata.who.int/global/wiise-detail-page/pertussis-reported-cases-and-incidence - CDC, 2024 Provisional Pertussis Surveillance Report
https://www.cdc.gov/pertussis/media/pdfs/2025/01/pertuss-surv-report-2024_PROVISIONAL-508.pdf - Bricks LF, et al., Vaccines 12: 1346, 2024
https://doi.org/10.3390/vaccines12121346 - Moa AM, Vaccines 13: 1029, 2025
https://doi.org/10.3390/vaccines13101029 - Wang S, et al., Hum Vaccin Immunother 21: 2513729, 2025
https://doi.org/10.1080/21645515.2025.2513729 - ACDC, National Notifiable Disease Surveillance System, National Communicable Disease Surveillance Dashboard
https://nindss.health.gov.au/pbi-dashboard/ - WHO, Diphtheria tetanus toxoid and pertussis (DTP) vaccination coverage
https://immunizationdata.who.int/global/wiise-detail-page/diphtheria-tetanus-toxoid-and-pertussis-%28dtp%29-vaccination-coverage - CDC, Nationally Notifiable Infectious Diseases and Conditions, United States: Weekly Tables
公開先:CDC Stacks(https://stacks.cdc.gov/) - UKHSA, Confirmed cases of pertussis in England by month, 2024
https://www.gov.uk/government/publications/pertussis-epidemiology-in-england-2024/confirmed-cases-of-pertussis-in-england-by-month
国立健康危機管理研究機構国立感染症研究所
細菌第二部
後藤雅貴 大塚菜緒 小出健太郎
