コンテンツにジャンプ
国立健康危機管理研究機構
感染症情報提供サイト
言語切り替え English

トップページ > サーベイランス > 病原微生物検出情報 (IASR) > マクロライド耐性百日咳菌の検査 up to date

マクロライド耐性百日咳菌の検査 up to date

logo35.gif

マクロライド耐性百日咳菌の検査 up to date

(IASR Vol. 47 p9-10: 2026年1月号)


2025年の百日咳流行の一因として, 海外からの訪日客を介したマクロライド耐性百日咳菌(macrolide-resistant Bordetella pertussis: MRBP)の国内侵入と拡大が挙げられる。百日咳菌は23S rRNA遺伝子の2,047番目塩基がAからGに点変異(A2047G)することで百日咳治療の第一選択薬であるマクロライド系抗菌薬に対して高度耐性となることが知られており, 本機構がこれまで唯一報告のある耐性機構である。百日咳の検査診断法は, 民間検査会社の受託検査も含め広く利用可能であるが, マクロライド耐性検査に関しては研究機関や病院検査室などで独自に実施されている。本稿では, MRBPの検査について, 最近の知見を報告する。

薬剤感受性試験

百日咳菌は生育が遅く, 臨床材料から菌が分離できるまで7日間程度を要する。そのため, 分離菌株を用いた薬剤感受性試験は迅速性に欠けるが, 薬剤耐性という表現型を調べるには最も確実な方法である。百日咳菌の薬剤感受性はETEST®(Etest)やディスク法を用いて調べることができる。しかし現在, 米国臨床検査標準協議会(CLSI)および欧州抗菌薬感受性試験法検討委員会(EUCAST)では, 百日咳菌の薬剤感受性試験について標準的な試験方法や薬剤感受性結果の解釈(ブレイクポイント)が設定されていないため, 他施設との測定結果の比較には注意が必要である1)。当室では, 通常Bordet-Gengou血液寒天培地を用いたEtestにより薬剤感受性を測定している。に2024~2025年の国内分離株(78株)について, マクロライド系抗菌薬(erythromycin, clarithromycin, azithromycin)およびMRBP感染症の代替治療薬として使用されるtrimethoprim/sulfamethoxazole(ST合剤)ならびにpiperacillin(PP), minocycline(MC)の薬剤感受性をEtestで測定した結果を示す。マクロライド系抗菌薬の感受性は23S rRNA遺伝子のシーケンス配列と一致しており, 野生型株(A2047)では<0.064 µg/mL, 変異型株(A2047G)では>256 µg/mLと, 感受性が二極化していた。中国では, ST合剤に対して低感受性の株が出現しているとの報告があるが2), 国内分離株での感受性は良好であった。PPおよびMCに関しても, 測定したすべての菌株で高い感受性が確認された。

23S rRNA遺伝子の変異同定試験

臨床検体からの精製DNAや分離菌株を対象として, 23S rRNA遺伝子のA2047G変異の有無を同定することで, 百日咳菌感染株のマクロライド系抗菌薬に対する感受性を推定することができる。

23S rRNA遺伝子の配列は多くの細菌種で保存性が高いため, 臨床検体DNAを対象としたサンガーシーケンス解析の際には注意すべき点がいくつかある。まず, PCR増幅長は約615-bpとし, さらにタッチダウンPCRプログラムを使用するなど, 特異性を高める工夫をすると良い3)。判読塩基長を短くするほど類似配列を有する細菌種が増えるため, まずは得られたシーケンス配列が百日咳菌のものであることをBlast検索により確認する。また稀に, 夾雑菌またはマクロライド感受性菌由来の波形と, MRBP由来の波形が混在してA/Gヘテロの波形がみられることがあるため, SNP positionの塩基波形にも注意が必要である。分離菌株が得られている場合には, サイクリングプローブ法を使用したリアルタイムPCR法であるA2047G-Cycleave PCR法により, 当該遺伝子変異の有無を容易に同定することができる4)。しかし, 本法は臨床検体DNAを用いた場合に非特異増幅が発生するなどの不具合が報告されており, 臨床検体DNAを対象とした使用は推奨されない。

百日咳菌マクロライド耐性株の国内分布状況について, 厚生労働科学研究費・レファレンス研究班で地方衛生研究所の検査状況を調査したところ, 2025年第3四半期(7~9月)に検査された分離菌株もしくは百日咳患者の臨床検体DNA計371検体のうち79.5%で変異型株(A2047G)が検出されていた5)。日本国内のMRBP検出状況は, 2018年に散発的な分離報告が2件あったのみであったため, 今般の百日咳流行とともに急速に全国へ広がったことが認識された。

百日咳菌のマクロライド耐性検査の需要が高まっていることを受け, 国立健康危機管理研究機構国立感染症研究所では病原体検出マニュアル「別冊 マクロライド耐性百日咳菌検査」を公開した6)。今後も病原体サーベイランスを継続し, 地域の百日咳菌および薬剤耐性株の動向を監視していくことが重要である。

謝辞:百日咳患者検体ならびに分離菌株をご提供いただいた医療機関ならびに行政機関の皆様, また百日咳菌検査実績調査にご協力いただいた地方衛生研究所の皆様に感謝いたします。

参考文献

  1. Hill BC, et al., J Clin Microbiol 38: 1151-1155, 2000
  2. Hu Y, et al., Diagn Microbiol Infect Dis 111: 116597, 2025
  3. Wang Z, et al., Clin Microbiol Infect 20: O825-O830, 2014
  4. Kamachi K, et al., Emerg Infect Dis 26: 2511-2513, 2020
  5. 厚生労働省厚生労働行政推進調査事業費補助金 新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究事業(25HA2001), 2025年度百日咳検査実績調査, 2025
  6. 国立健康危機管理研究機構国立感染症研究所, 病原体検出マニュアル 別冊 マクロライド耐性百日咳菌の検査 初版, 令和8年1月

  
  国立健康危機管理研究機構国立感染症研究所        
   細菌第二部           
    大塚菜緒 小出健太郎 後藤雅貴

PDF・Word・Excelなどのファイルを閲覧するには、ソフトウェアが必要な場合があります。
詳細は「ファイルの閲覧方法」を確認してください。