愛媛県で検出された百日咳菌のマクロライド耐性状況調査について

愛媛県で検出された百日咳菌のマクロライド耐性状況調査について
(IASR Vol. 47 p14-15: 2026年1月号)
はじめに
百日咳の届出数は, 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が流行した2020~2022年に減少したが, 2024年以降急増し, 2025年には, 全国, 当県ともに過去最多となった1,2)。近年, 中国を中心とした諸外国でマクロライド耐性百日咳菌(macrolide-resistant Bordetella pertussis: MRBP)の出現と拡大が問題となっている3)。わが国でも, 2018年以降, 複数地域からMRBPの検出が報告されたが, 実態には不明な点も多い。臨床的にマクロライド系抗菌薬の効果(感受性)を判断するのは困難であり, 県内の医療関係者からの要望も鑑み, 感染症法に基づく積極的疫学調査によりMRBPの調査を実施した。
調査の対象と方法
県健康増進課, 県6保健所, 松山市保健所の協力を得て, 2025年7月3日~8月31日の期間に, 県内の26医療機関において抗原検査(リボテスト)または遺伝子検査(SpotFire法, LAMP法等)によって百日咳と診断された症例から検体を収集し, 当研究所においてMRBPの遺伝子検査を実施した。リボテストの場合は検査残液を検体として用い, 遺伝子検査の場合は, 検査残液を用いるか, 鼻咽頭ぬぐい液を再度採取した。また, 医療機関で分離された菌株も用いた(表1)。百日咳菌の同定は4Plex qPCR法によって行い4), MRBPは23S rRNA遺伝子のシーケンスによって判定した5)。加えて, 鼻咽頭ぬぐい液からの分離株および医療機関からの分離株(計8株)についてゲノム解析を実施した。分離株については, 調査期間以前に検体採取された3株を含む。
結果と考察
調査期間中に88症例から, のべ89検体が収集された(2種類の検体が収集された症例が1例)。このうち, 66症例の検体が百日咳菌遺伝子陽性であった(陽性率75.0%)(表1)。陽性症例の年齢区分では, 10~14歳が最も多く, 5~9歳が次に多かった(表2)。男女間で大きな相違はなかった。ワクチン接種については, 0~4歳の5例は未接種で, 5歳以上では41例が4回接種済み, 1例が未接種, 19例が接種歴不明であった。百日咳菌陽性66例の検体の23S rRNA遺伝子を解析したところ, 57例の検体が変異型(A2047G)で(86.4%), 9例の検体が野生型(A2047)であった(13.6%)(表2)。
分離株8株(検体採取日:2025年5月16日~8月29日)について, 全ゲノム解析を実施した。百日咳菌の病原因子遺伝子(ptxA, prn, fhaB2400_5550)や毒素遺伝子のプロモーター領域(ptxP)には遺伝子多型がみられるが, これらの8株(R07E088-153)はprnを除いて同じ遺伝子アレル(ptxP3/ptxA1/fhaB1)を有し(図A), SNP解析でも相互に極めて近縁であった(0-8 SNPs)(図B)。
今回の調査により, 2025年に県内で流行している百日咳菌の大部分がMRBP(86.4%)であることが明らかにされた。分離株8株は同じ遺伝子アレル(ptxP3/ptxA1/fhaB1)を有し, SNP解析でも極めて近縁であることから, 県内に流入した共通の系統の株からSNPsを蓄積しながら流行が拡大した可能性が示唆される。また, この系統は従来の国内株よりも中国の株に近縁であり, 中国や周辺諸国から日本に流入したことが示唆されている6)。今回の結果は, 臨床医の治療方針の決定や学校保健安全法上の判断(適切な抗菌療法後の登校)においても有益な情報となった。現時点で利用可能なMRBPの迅速検査法はなく, 地方衛生研究所でのMRBP関連検査が重要である。
謝辞:本調査にご協力いただいた, 県健康増進課, 県保健所, 松山市保健所, 県内医療機関の関係者の皆様に深謝申し上げます。MRBPの解析にご助言いただいた, 国立健康危機管理研究機構国立感染症研究所細菌第二部・大塚菜緒先生に深謝申し上げます。
参考文献
- 国立健康危機管理研究機構感染症情報提供サイト, 百日咳の発生状況について, 2025年4月22日時点
- 愛媛県感染症情報センター, 愛媛県感染症情報, 発生動向の概況, 百日咳, 2025年4月11日
https://www.pref.ehime.jp/uploaded/attachment/145123.pdf - Feng Y, et al., Lancet Reg Health West Pac 8: 100098, 2021
- 国立健康危機管理研究機構国立感染症研究所, 病原体検出マニュアル 百日咳 第4.0版, 2024年3月改訂
- Wang Z, et al., Clin Microbiol Infect 20: O825-O830, 2014
- Iwasaki T, et al., J Infect Chemother 31: 102727, 2025
愛媛県立衛生環境研究所
木村千鶴子 平井真太郎 岡部愛理 烏谷竜哉 木村琴葉 大野智也佳 四宮博人
愛媛県立中央病院
越智史博
愛媛県小児科医会
井上哲志
