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富山県におけるマクロライド耐性百日咳菌の流行状況

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富山県におけるマクロライド耐性百日咳菌の流行状況

(IASR Vol. 47 p16-17: 2026年1月号)

はじめに

近年, 百日咳治療の第一選択薬であるマクロライド系抗菌薬耐性百日咳菌(macrolide-resistant Bordetella pertussis: MRBP)が問題となっている。MRBPはマクロライド系抗菌薬の治療効果低下により, 二次感染等による感染拡大リスクを高める恐れがある。国内では2018年に初めてMRBPの散発事例が報告され, その後, 百日咳の届出数が増加した2024年にMRBPの地域内流行や複数の散発事例が報告された1)。2025年4月時点でMRBPは全国9都道府県における検出が報告されている1)。当所では富山県のMRBPの浸淫状況を調査する目的で, 県内の小児科医療機関の協力を得て百日咳菌の分離・細菌学的解析を行った。

対象と方法

2025年3~8月までに, 県内2カ所の小児科医療機関が実施した病原体遺伝子検査(FilmArrayシステム)で百日咳菌が検出された93例の鼻咽頭ぬぐい液の検査後の残液, および行政検査目的で当所に搬入された百日咳患者の鼻咽頭ぬぐい液1検体の計94検体について, 百日咳菌検査を行った2)。菌分離にはボルデテラCFDN寒天培地を用いた。分離株のIS481-PCRを行い, IS481陽性株のrecA遺伝子の塩基配列を解析した。解析したrecA遺伝子配列がB. holmesii特異的配列でなく, 百日咳菌の塩基配列に一致することを確認し, 百日咳菌と同定した。また, 分離株および臨床検体の23S rRNA遺伝子のシーケンスを行い, 百日咳菌マクロライド耐性遺伝子変異A2047G(変異型A2047G)を検出した。分離株の反復配列多型解析(multilocus variable-number tandem-repeat analysis: MLVA)を行い, 分離株の遺伝子型を型別した2,3)。本調査は富山県衛生研究所倫理審査委員会より承認を得たうえで実施した(承認番号:R7-4)。

結果および考察

県内の3医療機関から提供された臨床検体の細菌学的検査結果の概要をに示す。提供検体数は, 八木小児科医院, くれはキッズクリニック, 厚生連高岡病院がそれぞれ89検体, 4検体, 1検体であった。培養検査の結果, 94症例の56.4%(53/94症例)で百日咳菌が分離された。分離株の96.2%(51/53株)で 変異型A2047Gが検出された。百日咳菌分離陰性の41症例について, 臨床検体から変異型A2047Gの検出を行った。その結果, 変異型A2047Gが68.3%(28/41検体), 野生型A2047が4.9%(2/41検体), 判定不可が26.8%(11/41検体)であった。これらの結果から, 94症例全体の84.0%(79/94症例)で分離株もしくは臨床検体で変異型A2047Gが判明した。

分離株53株のMLVAによる遺伝子型別の結果, MLVAタイプ(MT)28が50株, MT27, MT158, MT60が各1株であった。MT28およびMT60は変異型A2047G株であり, MT27, MT158は野生型A2047株であった。また, 変異型A2047GのMT28が分離株の94.3%(50/53株)を占めた。国内の主要な百日咳菌の遺伝子型は, 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行前(2019年以前)はマクロライド感受性のMT27であったが, 2024年以降はマクロライド耐性であるMT28が増加している1)。したがって, 県内で流行したMRBPは全国的流行の一部であると考えられた。一方, MT60のMRBPが1症例から検出された。MT60は国内ではこれまでに報告はなく, 2020年以降に中国で検出されたMRBPである。MT60はゲノム系統解析からMT28に高い相同性を持つMRBPであることが報告されている4)。MT60が分離された患者に海外渡航歴はなかったため, MT60はすでに国内に流入している可能性が示唆された。また, MT158はカンボジアや台湾で報告され, 2019年以前には国内で検出されていない5)。MT60およびMT158が分離されたことから, COVID-19流行後の海外からの渡航者の増加にともない, これらの国外の百日咳菌流行株が持ち込まれた可能性が推察される。

2024~2025年にかけて全国的な百日咳の流行がみられた。この全国流行におけるMRBPの影響の程度は現時点では不明であるが, 新たな遺伝系統の国内での流行状況を把握するため, 今後も継続的に国内で検出される百日咳菌の状況について調査する必要があると考えられる。今回調査した症例の94.7%(89/94症例)は1医療機関由来であることから, 本調査の結果は富山県全体を代表しない可能性がある。

謝辞:本調査について貴重な情報と試薬等を提供いただきました国立健康危機管理研究機構国立感染症研究所細菌第二部第一室・大塚菜緒先生に深謝いたします。

参考文献

  1. 国立健康危機管理研究機構感染症情報提供サイト, 百日咳の発生状況について, 2025年4月22日時点
  2. 国立健康危機管理研究機構国立感染症研究所, 病原体検出マニュアル 百日咳 第4.0版, 2024年3月改訂
  3. Schouls LM, et al., J Bacteriol 186: 5496-5505, 2004
  4. Xu Z, et al., J Clin Microbiol 63: e0106425, 2025
  5. Koide K, et al., J Glob Antimicrob Resist 31: 263-269, 2022

  富山県衛生研究所          
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