千葉県内の高齢者施設における髄膜炎菌性肺炎の集積事例に関する実地疫学調査

千葉県内の高齢者施設における髄膜炎菌性肺炎の集積事例に関する実地疫学調査
(IASR Vol. 47 p39-40: 2026年2月号)
はじめに
髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)は, ヒトの鼻咽頭に定着するグラム陰性双球菌であり, 莢膜多糖体の種類により12の血清群に分類されている。このうち主に6つの血清群(A, B, C, X, Y, W)が侵襲性髄膜炎菌感染症(invasive meningococcal disease: IMD)を引き起こす。IMDは感染症法に基づく全数把握5類感染症に含まれ, 診断後は速やかな届出が求められる疾患である。一方で, 髄膜炎菌による非侵襲性の感染症, 例えば結膜炎, 咽頭炎や肺炎は届出対象ではなく, 国内の疫学的知見は限られている。
2025年5月7日, 医療機関から千葉県海匝保健所八日市場地域保健センターに対し, 高齢者施設の利用者2名が髄膜炎菌性肺炎で入院しているとの情報提供があった。利用者および職員に複数の同様な症状を有する者もみられたことから, 事例の全体像把握と感染拡大防止を目的に調査を実施した。
方法
症例定義は, 施設の利用者または職員のうち, 2025年4月1日~6月10日に発症した髄膜炎菌培養検査陽性例とした。加えて, 医療機関で髄膜炎菌性肺炎と診断された者を「肺炎型」, 発熱・咳嗽・鼻汁などの症状を呈したが肺炎とは診断されなかった者を「非肺炎型注」に分類した。
注:保菌を含み, 必ずしも症状の原因が髄膜炎菌とは限らない
職員への聞き取り調査および施設の健康観察記録をもとに, 症例の基本属性, 基礎疾患, 発症日, 症状, 日常生活動作, 接触状況, 勤務体制, 健康管理状況, 感染対策実施状況などの情報を収集し, 記述的にまとめた。観察調査にて施設内の構造, 動線および感染対策の実施状況を確認した。
保菌調査は, 職員および利用者を対象に, (1)事例探知時(2025年5月9日・12日)および(2)全職員と利用者に対する予防投与実施後(2025年9月8日・9日)の2回にわたり実施した。
結果
症例は計9名(利用者:5/16, 職員:4/22)であり, うち4名が肺炎型, 5名が非肺炎型であった。肺炎型のうち3名は入院を要した。死亡例(2025年6月10日時点)はなかった。9名から検出された髄膜炎菌はすべて血清群Bであり, multilocus sequence typing(MLST)による遺伝子型別ではST-2057であった。いずれもシプロフロキサシンに耐性または中間耐性を示したが, リファンピシンには感性であった。初発は非肺炎型の職員であり, 症例は2025年4月下旬~5月上旬にかけて発生した(図)。肺炎型は全例が利用者で, 年齢中央値が83歳と高く, 心疾患(2名, 50%), 脳血管疾患(2名, 50%), 認知症(2名, 50%)など基礎疾患を有する者が大部分を占めた。一方, 非肺炎型は, 5名中4名が50~70代の職員であった。聞き取りおよび観察調査の結果, 職員は介助時にマスクを着用して対応していたものの, 一部で徹底できない場面があった。一方, 利用者はマスクを着用せずに会話する機会が多かった。なお, 同時期に髄膜炎菌検査陰性であったものの, 上気道症状を有した職員と利用者が複数確認された。侵襲性髄膜炎菌感染症発生時対応ガイドライン〔第二版〕(以下, IMDガイドライン)1)に準じ, 全職員および利用者への予防投与, 健康観察等の対応が実施された。なお, 当初シプロフロキサシンによる予防投与が行われたが, 耐性と判明したため, 協力医に相談のうえリファンピシンの予防投与が行われた。5月6日以降, 新規症例の発生はなく, 6月10日に事例の終息とした。
事例探知時に実施した保菌調査では, 35名中7名(利用者3名, 職員4名)から髄膜炎菌が検出された。予防投与実施後の保菌調査では, 37名中2名(利用者1名, 職員1名)から事例発生時の保菌調査で検出された株と同一の血清群および遺伝子型の髄膜炎菌株が検出された。
考察
本事例は, 感染症法上の届出対象ではない髄膜炎菌性肺炎を含む非侵襲性髄膜炎菌感染症による高齢者施設内での集団発生であった。施設内で上気道感染症が流行したことが, 肺炎を含む非侵襲性髄膜炎菌感染症集団発生の要因の1つとなった可能性が考えられた。また, 髄膜炎菌感染例のうち, 高齢で脳血管障害や認知症などの基礎疾患を有する者が肺炎を発病しやすかった可能性が示唆され, 既知の報告と矛盾がなかった2)。医療機関における適切な検査と診断により髄膜炎菌性肺炎が早期に診断され, 施設内での集団発生の一部として医療機関から保健所へ適時に報告が行われたことで保健所が集団発生を探知し, 公衆衛生対応につながり, また, 保健所, 施設, 医療機関が連携し, IMDガイドラインに準じて, 対応が実施されたことから, 感染拡大が制御されたと考えられた。このことから, 非侵襲性髄膜炎菌性肺炎事例への対応においても, IMDガイドラインに沿った対応が有効であったと示唆された。本調査の主な制限として, 保菌調査結果は検査実施時点のものであり, 保菌率は時系列で変動する可能性があることが挙げられる。
なお, 一斉予防投与後に実施した保菌調査でも, 事例発生時に検出されたものと同一の血清群および遺伝子型の髄膜炎菌が検出された。このことから, 今後, 施設内で同一の髄膜炎菌によるIMDや重症肺炎を含む髄膜炎菌感染症事例の再発生の可能性がある。B群に対応した髄膜炎菌ワクチン(以下, B群ワクチン)は現在国内未承認だが, 施設などの集団生活の場におけるB群髄膜炎菌感染症による集団発生を中・長期的に予防する選択肢として, B群ワクチンの国内承認が期待される。
謝辞:本調査にご協力いただいた高齢者施設, 野口在宅クリニック・野口信夫先生に心より感謝申し上げます。
参考文献
- 国立感染症研究所, 侵襲性髄膜炎菌感染症発生時対応ガイドライン〔第二版〕, 2025年3月28日
- Feldman C and Anderson R, Pneumonia 11: 3, 2019, PMID: 31463180
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6708554/
千葉県海匝保健所八日市場地域保健センター
三本木眞里 高木実莉 南雲孝代
千葉県海匝保健所
佐藤重紀 小野康予 鎗田和美
千葉県衛生研究所細菌研究室
中村正樹 蜂巣友嗣 菊池 俊
地方独立行政法人総合病院国保旭中央病院
感染症科 中村 朗
国立健康危機管理研究機構
国立感染症研究所
実地疫学専門家養成コース(FETP)
広瀬卓哉 富山幸一郎
応用疫学研究センター
福住宗久 島田智恵 砂川富正
細菌第一部
高橋英之 明田幸宏
