小児侵襲性肺炎球菌感染症(IPD)の起因菌におけるペニシリン耐性状況の変化

小児侵襲性肺炎球菌感染症(IPD)の起因菌におけるペニシリン耐性状況の変化
(IASR Vol. 47 p31-32: 2026年2月号)
はじめに
肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)による髄膜炎や菌血症などの侵襲性肺炎球菌感染症(invasive pneumococcal diseases: IPD)は, 重症な疾患として知られているが, ワクチン接種により予防可能である。2010年2月から小児用7価肺炎球菌結合型ワクチン(7-valent pneumococcal conjugate vaccine: PCV7)が導入され, 2013年11月には13価PCV(PCV13)への切り替えが行われた。また, 15価PCV(PCV15)と20価PCV(PCV20)も承認されており, それぞれ2024年4月と同年10月から小児の定期接種対象となっている。
肺炎球菌感染症の治療には, ペニシリンを含むβ-ラクタム系の抗菌薬などが主に用いられている。PCVにはペニシリン耐性率の高い血清型(6B, 23F, 19A, 19Fなど)が含まれるため, 耐性菌を減らす効果も期待されていた。本稿では, PCVワクチン導入前後の小児IPDの起因菌におけるペニシリンに対する薬剤感受性の変化について概説する。
対象と方法
本研究班は, 小児侵襲性細菌感染症のアクティブサーベイランスをワクチン導入前の2008年より継続して実施している。調査対象地域は北海道, 福島県, 新潟県, 千葉県, 三重県, 岡山県, 高知県, 福岡県, 鹿児島県, 沖縄県の1道9県, 報告対象者は生後0日~15歳未満のIPD患者である1-3)。分離された肺炎球菌の血清型分布とペニシリンG(PCG)に対する感受性の変化について検討した。血清型は莢膜膨化法で決定した。11Aと11Eは抗血清で区別できないため, 11A/Eと表示する。薬剤感受性試験は微量液体希釈法を用いて実施し, 2008年以後に使われているClinical and Laboratory Standards Institute(CLSI)の基準で判別した4)。
結果
2008年1月~2024年3月までに研究班で収集された1,720例のIPD症例(髄膜炎209例, 非髄膜炎IPD 1,511例)由来の肺炎球菌について, PCGに対する感受性を調べた。その結果, 髄膜炎由来の肺炎球菌のペニシリン耐性肺炎球菌(penicillin-resistant Streptococcus pneumoniae: PRSP)とペニシリン感受性肺炎球菌(penicillin-susceptible S. pneumoniae: PSSP)は, それぞれ104株(49.8%)と105株(50.2%)であった。また, 非髄膜炎IPD由来の肺炎球菌におけるペニシリン低感受性肺炎球菌(penicillin-intermediate S. pneumoniae: PISP)とPSSPの割合は, それぞれ1.3%と98.7%であった。なお, PRSPは分離されなかった。
ワクチンの定期導入状況に応じて, 3つの発症期間(PCVが導入される前の2008年1月~2010年1月, PCV7が導入された2010年2月~2013年10月, PCV13が定期接種となった2013年11月~2024年3月)に分けて, PRSPの分離率を比較した(表)。髄膜炎由来菌のうち, PRSPの分離はそれぞれ32株(65.3%), 28(57.1%), 44株(39.6%)であった。2013年11月以降は, PRSP分離率の低下がみられた。一方, 非髄膜炎IPD由来菌のPISPの分離率には大きな変化はみられなかった。
髄膜炎由来肺炎球菌の血清型とPCGに対する感受性の分布を図1Aに示した。5症例以上の髄膜炎から分離された血清型のうち, PCVに含まれる血清型の6B, 23F, 19F, 14と, ワクチンに含まれない血清型の15A, 23A, 35Bでは耐性率が高かった。一方, 3, 10A, 11A/E, 24F, 34型では感受性率が高かった。3つの発症期間におけるPRSPによる髄膜炎の症例を比較すると, 2013年11月以降はワクチンに含まれる血清型のPRSPによる髄膜炎症例が減少した一方, ワクチンに含まれない血清型のPRSPによる髄膜炎の症例が多くみられた(図1B)。このことから, PRSPによる髄膜炎でもserotype replacement(血清型置換)の影響が推測される。
考察
乳幼児および小児における肺炎球菌性髄膜炎は, 症状の進行が速く, 適切な治療を行っても予後が不良であるため, 警戒すべき感染症の代表的なものである。PCVは, ワクチンでカバー可能な血清型による小児髄膜炎の予防に有効である。しかし, ワクチンに含まれない血清型の肺炎球菌(特にPRSP)による髄膜炎症例数が増加していることも確認されている。このため, 小児に使用でき, さらに幅広い血清型をカバーするワクチンや, すべての肺炎球菌の共通抗原をターゲットとした次世代型ワクチンの開発が望まれている。また, 起因菌血清型の変遷を継続的に監視するサーベイランスを実施し, 新規ワクチンの有効性やPRSPの動向を評価する必要がある。
参考文献
- Suga S, et al., Vaccine 33: 6054-6060, 2015
- Takeuchi N, et al., Vaccine 54: 127138, 2025
- 小児・成人の侵襲性肺炎球菌感染症の疫学情報
https://ipd-information.com - CLSI, Performance Standards for Antimicrobial Susceptibility Testing; CLSI supplement M100, 29th ed, 2019
国立健康危機管理研究機構国立感染症研究所
細菌第一部
常 彬 高松優光 明田幸宏
国立病院機構三重病院小児科
菅 秀
ソフィア北円山クリニック
石黒信久
福島県立医科大学
細矢光亮
千葉大学
石和田稔彦
新潟大学
齋藤昭彦
岡山大学
小田 慈
高知大学
藤枝幹也
福岡看護大学
岡田賢司
鹿児島大学
西 順一郎
沖縄県立南部医療センター・こども医療センター
張 慶哲
