コンテンツにジャンプ
国立健康危機管理研究機構
感染症情報提供サイト
言語切り替え English

トップページ > サーベイランス > 病原微生物検出情報 (IASR) > PRSPの世界的動向(WHOおよびECDCの報告概要を中心に)

PRSPの世界的動向(WHOおよびECDCの報告概要を中心に)

logo35.gif

PRSPの世界的動向(WHOおよびECDCの報告概要を中心に)

(IASR Vol. 47 p33-34: 2026年2月号)


肺炎球菌による感染症はワクチンの導入により減少傾向にあるが, 市中感染血流感染症および市中肺炎の主要起因菌の1つであることにかわりはない1)。世界保健機関(WHO)は肺炎球菌をGlobal Antibiotic Resistance Surveillance(GLASS)における8つの優先病原体(Acinetobacter spp., Escherichia coli, Klebsiella pneumoniae, Neisseria gonorrhoeae, Salmonella spp., Shigella spp., Staphylococcus aureus, Streptococcus pneumoniae)の1つと位置付け, 2015年以降, ペニシリン耐性肺炎球菌(penicillin-resistant Streptococcus pneumoniae: PRSP)のほか, 主要な抗菌薬に耐性を示す肺炎球菌のデータを加盟国から収集している1)。また, 2024年に改訂されたWHOの細菌優先病原体リスト2)では, PRSPは優先病原体リストから除外された一方で, マクロライド耐性肺炎球菌が新たに「中等度優先(medium priority)」と位置付けられ, 地域医療での治療困難例を増加させる病原体とされている。なお, 肺炎球菌のペニシリン感受性は, 海外では抗菌薬感受性判定基準が髄液検体とその他の検体で異なること, どの基準での判定か不明な場合もあることから, 国や地域間の比較, 解釈をする際には留意が必要である。

GLASS2025によると, 2011~2021年に世界40カ国以上から収集された肺炎球菌の15,717株では, ペニシリン感性の割合は63.4%に留まっていた。一方, セフトリアキソン感性の割合は94.0%, セフタロリン感性の割合は99.6%であり, β-ラクタム系抗菌薬への感受性が一様に低い状況ではないが1), セフトリアキソンの最小発育阻止濃度(MIC)中央値やMIC90はアジアで他地域より高く, ATLAS programme(2016-2021)によると, セフトリアキソン非感性の割合が, 中国(33.9%), 韓国(33.8%), 台湾(27.6%)では顕著であったと報告されている3)。中国の入院成人患者を対象とした2018~2019年の多施設後ろ向き研究では, 肺炎球菌感染症におけるマクロライド耐性率は約90%, テトラサイクリンやクリンダマイシン耐性も80-90%台と極めて高かった4)

欧州では, European Centre for Disease Prevention and Control(ECDC)がEU/EEA加盟国(30カ国)を対象にEuropean Antimicrobial Resistance Surveillance Network(EARS-Net)を運用しており, 侵襲性感染症に関連する8種類の細菌(Acinetobacter spp., E. coli, Enterococcus faecalis, Enterococcus faecium, K. pneumoniae, Pseudomonas aeruginosa, S. aureus, S. pneumoniae)の薬剤感受性の解析結果を定期的に公表している。2025年11月公表の2024年の年次報告によると, 侵襲性感染症から分離された肺炎球菌は21,211株で, 2020年と比較し2倍以上に増加し, 人口10万当たりの発生率も3.7から8.0へ上昇した。薬剤別にみた感受性については, マクロライド耐性およびペニシリンのMIC>0.06 μg/mLの肺炎球菌と想定される(訳注:原文では“penicillin non-wild-type”と表記)株の割合は2020年と比較し2024年で有意に増加し, それぞれ16.8%から19.0%, 15.5%から17.3%となった。両者に耐性を示す株も8.9%から11.1%に増加した。“penicillin non-wild-type”株の割合はヨーロッパ北部よりも南部の国で高かった5)。ヨーロッパ南東部のバルカン半島に位置するクロアチアでの, 成人侵襲性肺炎球菌感染症(invasive pneumococcal diseases: IPD)患者から分離された肺炎球菌85株における, 薬剤耐性と分子疫学的特徴をみた研究では, 血清型3および19Aが主要血清型を占め, ペニシリン非感受性株はこれら血清型や特定クローンに集中することが示されている6)

肺炎球菌に対する肺炎球菌結合型ワクチン(PCV)および肺炎球菌莢膜ポリサッカライドワクチン(PPSV)の導入により, ワクチン血清型に含まれるPRSPは多くの国で減少したが, 同時に非ワクチン血清型由来の非侵襲性感染やIPDがマクロライド・テトラサイクリン・ペニシリンの多剤耐性をともなって増加している7)。血清型ごとに薬剤耐性パターンが異なることが知られているが, ワクチン血清型と非ワクチン血清型の両方で高い抗菌薬耐性と多剤耐性が確認されており, ワクチン導入後, 非ワクチン型が耐性を維持・増加させている可能性が指摘されている7)。肺炎球菌の血清型と薬剤耐性については, 感受性の判定基準のばらつきや人口による調整の有無などに留意しつつ, 国外の発生状況について, 注視していく必要がある。

参考文献

  1. WHO, Global antibiotic resistance surveillance report 2025
    https://media.tghn.org/medialibrary/2025/10/Global_antibiotic_esistance_Surveillance_report_2025.pdf
  2. WHO, WHO Bacterial Priority Pathogens List, 2024
    https://iris.who.int/server/api/core/bitstreams/1a41ef7e-dd24-4ce6-a9a6-1573562e7f37/content
  3. Wang JL, et al., Int J of Antimicrob Agents 63, 2024
    https://doi.org/10.1016/j.ijantimicag.2023.107072
  4. Zhao C, et al., BMC Infect Dis 25: 980, 2025 doi: 10.1186/s12879-025-11377-5.
  5. ECDC, EARS-Net Annual Epidemiological Report 2024, 2025
    https://www.ecdc.europa.eu/en/about-us/networks/disease-networks-and-laboratory-networks/ears-net-data
  6. Franjić Amančić K, et al., Antibiotics 14: 1158, 2025
    https://doi.org/10.3390/antibiotics14111158
  7. Ntim OK, et al., Journal of Global Antimicrobial Resistance 45: 52-67, 2025
    https://doi.org/10.1016/j.jgar.2025.07.008

  
  国立健康危機管理研究機構国立感染症研究所    
   応用疫学研究センター 
    島田智恵 砂川富正 
   薬剤耐性研究センター 
    黒須一見 山岸拓也

PDF・Word・Excelなどのファイルを閲覧するには、ソフトウェアが必要な場合があります。
詳細は「ファイルの閲覧方法」を確認してください。